岡村靖幸 ステージに立ち続けるために健康でいたい。毎年ツアーを行ううえで大切な「自分が自分に興奮できる状態」の作り方【『幸福への道』インタビュー】
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岡村靖幸が、ミュージシャンや芸人、講談師から、政治家や僧侶に至るまでさまざまなジャンルで活躍するスペシャリストに「あなたにとって幸せとは何ですか?」と問う「週刊文春WOMAN」の連載が書籍化。22人の多彩なゲストと語り合う時間を振り返ってもらった前編に続き、後編では、私生活がアーティストに与える影響や歌い続ける理由など、「幸福」を軸に、岡村のよりパーソナルな思いに迫った。
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普通の幸せをあえて手にしていないわけではない
――神田さんとの対談で、神田さんが岡村さんの魅力について、結婚や子どもを持つような幸せを渇望している姿にファンは惹かれるのではないかとおっしゃっていましたが、岡村さんご自身の自覚としてはいかがですか?
別に渇望してるわけではないんですけどね。幸せになっていなさそうな感じがグッとくる、という人もいるでしょうね。なんでしょうね……こじらせてるように感じてるのかもしれない(笑)。
――たとえば“Lion Heart”のような孤独を歌う楽曲と、岡村さん自身が一致しているからこその説得力があるのかなとも思います。
どうなのでしょう?
――そのためにあえて幸せになる道を選んでいない、ということではなく?
違いますね、作為的にそうしてるわけじゃないですよ。でも、だからこそ歌詞や歌が嘘事じゃなくて、リアルに歌っているんだろうなと、ファンの方たちは思ってくれてるのかもしれないですね。
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――前に取材させていただいた時に、最近あえて、「勉強」のような、いわゆる岡村ちゃんらしいワードを使っているとおっしゃっていましたが、そうした見せ方にもより自覚的になってきているのでしょうか?
パッケージはわかりやすくしたいんですよね。たとえば自分が商品であるとすると、パッケージも芸術性を高くして難解にしちゃうと入りにくいので、わかりやすいキーワードを使うことで、パッケージングはポップにするというのは心がけてます。
――音楽では複雑なことをやるぶん、わかりやすい入口を作るということですね。
そうですね。そこのバランスはとろうと思ってます。
型破りなプライベートが芸を育てるのか
――千原ジュニアさんが対談の中で、芸人は不幸せなほうが幸せだとおっしゃっていますよね。幸せな芸人は人をドキドキさせられないと。結婚などの一般的な幸せと対極にある、「飲む・打つ・買う」のようなプライベートが、芸人やアーティストの魅力につながることはあると思いますか?
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勝新太郎さんのような役者の方とか、芸人の方も、型破りなプライベートを送っていることが、血となり肉となり、芸に反映されるということはあったでしょうね。ただ、今って他罰的な世の中だし、文春が叩くから(笑)、やりづらいのかなと思いますよ。でもそれって、波瀾万丈な人生を送って、不幸せでありながらも、うまくいったり、いかなかったりする、寅さんのような生き様ですよね。それが寅さんのなんとも言えない魅力や愛おしさを作っていることもありますよね。
――岡村さんは本の中で、何度か断食道場の話をされていますよね。未知であることは不安だから、断食道場のような何かに妄信する環境は気持ちがいいという話をされていたんですが、そう考えると、結婚や子どもを持つことは先が見えない未知なものであって、妄信の快楽とは真逆のように思います。
断食道場は、デトックスの効果もあるけれども、妄信の快楽というのも確かにあるんですよね。それに、強化合宿のような環境で、知らない人と雑魚寝をしたりするから、一般の方々とそういう交流を持つことも楽しいですよ(笑)。
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――自分自身を見つめられる感覚もありますか?
ありますね。無理やり、食べることとか世の中から遮断されると、すごく時間って長く感じるんですよ。小学校時代を思い出してもらうとわかると思うんですけど、あの頃って、朝、無理やり早く起こされてご飯を食べさせられて、学校で授業を受けて、部活やって……というように、自分で自分の時間をコントロールできなかったですよね。夏休みも、まだ寝たいのに早起きしてラジオ体操に行かされたりして、永遠に続くのかなっていうぐらい時間が長く感じて(笑)。断食道場も同じで、ネットも使えないし、好きな時に好きなものを食べさせてもらえない。好きに時間を使えないと、まあ時間は長いし、雑念から解放されて、考える時間が増えるんです。本も集中して読めますし。ゆっくり考える時間がほしいとか集中して何かをやりたい時は、すごくいいですよ。
過去の痛みを抱える限り「幸福度100%」はあり得ない
――能町みね子さんとの対談の中で、岡村さんは、今の幸福度を聞かれて「78%」とおっしゃっていましたよね。となると、岡村さんにとって幸福度100%とは、どういう状態なのでしょうか?
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100%って、気が狂ってる状態なんじゃないですか(笑)。
――(笑)なるほど。何かしら引っかかりを持ってみんな生きているわけですしね。
皆さん、そうなんじゃないですかね。
――村田沙耶香さんとの対談で、小学校2年の時、下駄箱で待っていた仲の良かった友達に「一人で帰れよ」と言ってしまって、彼が泣いてしまったことを今でも忘れられない、という話をされていて。僕もすごく共感したんですが、誰にでもそういう忘れられない苦い過去が絶対にあって。それがある限り、100%幸せな気分ってあり得ないだろうと思います。
ないでしょうね。でも、ああいうことを痛みとしてちゃんと忘れないで、自戒の念としてきちんと残しておくことは、とても大事なことなのかもしれませんね。それがないと、ダメな人になっていくでしょうし。みんなそうだと思うんですよね。調子に乗ってしまったり、ミステイクを犯したことのない人はいないので。
歌手はアスリート。歌い続けるためにツアーを回る
――吉川晃司さんがライブでお客さんの姿を見るのが幸せだとおっしゃっていて、岡村さんも同意されていますよね。岡村さんは最近もずっと大規模なツアーをされていて、それはハードなことだと思うんですが、ライブをやることが幸せだから続けることができるんですか?
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そうですね。それに、歌手はアスリートという部分もあるので、やっていないと衰えていくんですよ。ユーミンさんや山下達郎さんのような僕より年上の方々も、めちゃめちゃライブをやられていますから。ビジネス面の理由もあるんでしょうけど、ポール・マッカートニーのような億万長者でさえも、ずーっとワールドツアーをやってますから。体や声が衰えないようにという、アスリート感覚だと思います。
――ポール・マッカートニーは80歳を超えてもステージに立たれ続けています。
それに、あそこまでの境地に達した方だと、チャリティ活動やボランティア活動も含めて、人を幸せにしたい、人の幸せな姿を見たいという単純な気持ちが当然、あると思いますよ。だから、ビジネスというより、健康の維持と、人を幸せにしたいという気持ちでツアーを回っている気がしますね。
――岡村さんがこれからもライブを続けて、お客さんの幸せな姿を見るために、今、意識されていることや、今後の活動でイメージされていることはありますか?
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やっぱり健康が第一です。健康じゃないと幸せじゃないし、健康じゃないと何を食べても美味しくないですしね。あとは、自分が自分に興奮できる状態にしておきたいです。歌手を職業としてずっとやってきて、ベテランではあるので、自分で自分に飽きないように、フレッシュでいられるようにしたいです。
フレッシュな感覚がこれからの活動の血や肉となる
――具体的には、アレンジ面でのチャレンジやカバーなどの活動などもそのひとつですか?
去年から今年にかけてやっている斉藤和義さんとのユニットも、その一環ですね。そのユニットの音楽は、僕が普段やっている音楽とはまたちょっと違う音楽ですけど、それも新鮮だし、斉藤和義さんのファンの前に出ていくことも新鮮な経験ですね。それも、これからの自分の活動の血や肉になっていくと思います。
――この連載のような、いろいろな人に話を聞く取材活動も続けていきたいですか?
そうですね。取材もやってきて何年も経ちますけど、お話を聞くのも、いろいろな人に会えることも楽しいですから。これまでの連載や対談は芸能色が強かったですけど、今回の『幸福への道』のテーマは多岐にわたっているので、いろんな人の本当に面白い話が読めます。「僕で溢れてます」っていう感じの本ではなく、僕のファンではない人も楽しめる本なので、ぜひ皆さんに手に取ってもらいたいですね。
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取材=金沢俊吾、文=川辺美希、撮影=杉山拓也(文藝春秋)
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