
東京初の身体障害者野球チーム創設の実話をもとにした映画『4アウト ーもう一度、プレイボールー』が11月6日(金)から公開される。主演を務めるのは相葉雅紀さん。原作はノンフィクション作家・平山讓さんの『4アウト ─ある障害者野球チームの挑戦』(中央公論新社)だ。脚本は、平山さんと稲垣壮洋監督の共著となる。
現実に起きた出来事を映画として届けるために、どのような思いが込められたのか。そして、相葉さんに主演を託した原作者・平山さんが感じたこととは。作品に込めた思いや、実話だからこそ描ける人間ドラマについて、2人に話を聞いた。
平山「僕にとってスポーツというのはテレビの小さな箱のなかで繰り広げられる壮大なドラマのようなものでした」

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――相葉さんは今作のオファーを受けた際、脚本をかなり読みこんだうえでお返事をしたとうかがいました。
相葉雅紀さん(以下、相葉):最初にいただいたのはプロットに近いものだったのですが、恥ずかしながら、身体障害者野球というものに触れたことがなくて。(身体障害者野球ならではの技術である)ワンハンドキャッチ・ワンハンドスローという、片手での捕球・送球も想像だけではイメージしきれなかったので、まずは平山先生の原作小説を読ませていただくことにしました。そうしたら、ものすごく心をつかまれてしまったんですよね。小説ではあるけれど、実話がベース。こんなドラマみたいな現実があるんだ、こんな素敵なお話にぜひ携わらせていただきたいって思ったんです。
平山讓さん(以下、平山):僕自身が12歳で難病をわずらい、18歳まで入退院を繰り返していたので、スポーツをすることを諦めてしまっていたんですね。野球もふくめて、僕にとってスポーツというのはテレビの小さな箱のなかで繰り広げられる壮大なドラマのようなものでした。いつか元気になったら、彼らを間近で見守れるような仕事に就きたいなと、スポーツに関連する物語を描くようになったのですが、その過程で、東京に初めて結成された身体障害者野球チーム・東京ブルーサンダースの存在を知ったんです。
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相葉:それが、劇中に登場する東京ブルーフェニックスのモデルとなったチームです。僕が演じた監督の矢上も、実際に監督をつとめられていた方がモデルなんですよね。
平山:矢本敏実さんというかなりの熱血漢で、相葉さんとはだいぶイメージが違うんですけど(笑)。「野球によって人生そのものも再生させていくんだ」という強い想いをもつ方なんですよね。野球ができるんだから、みんな、弱者なんかじゃない。ちゃんと仕事に就いて、社会のレギュラーにもなっていけ、と常々おっしゃっていました。その想いを、相葉さんはしっかりと受け止めて、選手たちの背中を熱く後押しする役を演じてくださったのが、本当に嬉しかったです。
相葉:劇中の矢上自身も、社会人野球で戦力外通告を受けて、一度は夢を諦めた人です。この先をどう生きていいのかわからない、どん底の状況にいた彼だからこそ、チームのみんなと一緒に成長していくことができたんじゃないかなと思ったんですよね。その想いを表現するうえで大事にしていたのは、佐々木蔵之介さんが演じる、身体障害者野球連盟理事長の岩橋にいわれた「期待しちゃいけない。希望をもつんだ」という言葉。それが矢上を演じるうえでの信念になっていました。
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平山:期待しちゃいますよね。練習すればもっとうまくなるはずだとか、こんなに頑張っているんだから報われてほしいとか。
相葉:しちゃいますね。そばで見守っている、監督ならなおさら。
相葉「チームのみなさんと一緒に練習していると、まるで、本当に部活みたいでしたね」

平山:でも「こうなってくれたらいいな、こうできたらいいな」の期待を希望に変えていく。それは僕自身が映画の軸にしたかった想いでもあります。岩橋さんにもモデルがいて、日本で初めて身体障害者野球を始めた、身体障害者野球の伝道師とも呼ばれる岩崎広司さん。すでに亡くなられていて、ご生前にお話をお伺いすることができたので、脚本を監督と一緒に起こしていくなかで、佐々木さんが演じる岩橋ならこういうことを言うのではないか、と僕が想像して書いたセリフなんですよ。
相葉:その想いが、言葉が、あのラストシーンをつくってくれたんだと思うんですよね。期待ではなく希望をもって選手をバッターボックスに送り出す。
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平山:あのシーンは、遠くで撮影を拝見しながら胸が詰まりました。チームを包み込むあたたかさと、ほとばしる優しさは、相葉さんが中心にいてくださったおかげで生まれたものだと思います。
相葉:平山先生は、かなりいろんな現場に来てくださっていましたよね。僕がノックの練習をしていたときは、一緒にグラウンドに立ってくださって。
平山:マシンのボールを打たせてもらったんですけど、僕はずっと空振りで(笑)。最後は気合入れてホームランを打てたのが、よかった。
相葉:チームのみなさんと一緒に練習していると、まるで、本当に部活みたいでしたね。
平山:まさか相葉さんが参加してくれると思っていなかったので、みんな、大喜びでしたよ。僕も本当に嬉しかったです。それに、そうして選手と同じ目線に立ってくれる相葉さんだからこそ表現できたシーンが、たくさんあったと思うんですよ。たとえばプレーを失敗した選手に「顔をあげていこう」と励ます相葉さんがカメラで抜かれたときの表情とか。
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相葉:そんなところまで見てくださったんですか。
平山:ラストシーンも感動しますが、そうした一つひとつの表情、矢上としてのふるまいを目にするたび、相葉さんにお願いできてよかったと心から思いました。
相葉:そうおっしゃっていただいて嬉しいです。でも、それは僕だけの力じゃなくて、選手を演じたみなさんに熱い想いがあったからだと思うんです。今作は、実際に障がいのある方々にも参加していただいたので、演技経験のない方も少なくなかった。でも、「自分の病気のことも知ってもらいたい」という熱い想いをもちながら「今のシーンはもっとこうしたかった」「じゃあ撮りなおしてもらおう」と演技にも真剣に向き合っていて。そんなみなさんに僕も突き動かされることばかりだったので、僕のほうこそ、参加させていただけたことにお礼を言いたいんです。
平山:僕もオーディションには立ち会ったのですが、みなさん、3アウト宣告されたような人生を潜り抜けて来られた方ばかりなんですよね。その人生に触れて、グッとくることもたくさんありましたし、そんな彼らがこの物語に共感して、実在の凄みとともに演じていただけることのありがたさも、撮影を見守りながら感じていましたね。4アウト寸前の彼らの人生において、野球が一つの光となり、越えられないと思っていた現実を越えていく。その姿に、胸が熱くなることばかりでした。
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相葉「現実にはドラマでも書けないような奇跡が起きることがときどきある」

――劇中には、事故で片腕を失って、恋人との未来を諦めかけた島野という青年が登場します。失った腕を隠し続けてきた彼が、野球を通じて心を再生していく姿も印象的でした。
相葉:島野と矢上がキャッチボールをするシーンがあるのですが、初めて感情を吐露するそのシーンを撮影する前、島野を演じた福松凜くんに「相葉さん、ちょっと僕のこと抱きしめてください」って言われたんです。「そこから、(撮影に)向かいたいです」と。それが、すごく印象に残っています。役者として、彼も並々ならぬ想いでこの作品に、そして島野という人間に向き合っているんだということが伝わってきて。
平山:そうした、一人ひとりの熱い想いをひとつにまとめてくださったのが、やっぱり、相葉さんだったのだと僕は思うんですよね。「最終的にこのチームがどこに向かっていくのか」というお話を現場でさせていただいたとき、相葉さんが「彼らはチームでもあり、家族のような存在でもあるんじゃないか」とおっしゃってくださって。相葉さんが演じた矢上はまさに、家族をまとめるお父さんのような存在。ときに言葉で、ときに背中で生きざまを見せながら、常に見守っていてくれる。そのあたたかくて優しいまなざしがこの映画そのものを包み込んでくれているような気がします。
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相葉:ありがとうございます。でもやっぱり、実話をベースにしているからこその、物語の強さだと思うんです。現実にはドラマでも書けないような奇跡が起きることがときどきある。まったくのフィクションなら都合がよすぎて描けないようなことも、現実に生きる人たちが引き寄せてしまうことがある。その輝きが……希望が、この作品には詰まっていると思います。その希望が、きっと見てくださるみなさんの背中も押してくれるはずだと信じています。
取材・文=立花もも
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