
タイトルに触れ、この言葉はいったいどういう意味を表しているのだろう?という思考を巡らせながら、プロローグのページを開く。すると飛び込んでくるのは、“光が散る”“音はまだ来ない”“視線は交わさない。代わりに身体が言葉を交わした”……という体感の芯にあるようなものを可視化した言葉の洪水。舞台は、渋谷のクラブで開催されるダンスバトル会場。ファイナルに挑む高校3年生の蓮と大和の躍動的なダンスシーンからストーリーは幕を開ける。
LDH JAPAN所属のダンス&ボーカルグループ「THE RAMPAGE」のパフォーマー・岩谷翔吾さんの2作目となる小説『一人分の夜を生き直す』(幻冬舎)は、東京ドームのステージに立った夜の衝動から生まれたという。何万人もの人々から歓声を浴びたあと、家に帰り、ひとり深夜にカップラーメンを食べているとき、たった数時間しか経ていないのにこの落差はなんだろう?これは自分というひとりの人間に起きたことなのか?という内側から溢れてきた感覚が、≪光と影≫という物語の核を生み出したという。
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それはダンスバトルに優勝し、芸能事務所のスカウトを受けた、二人の主人公、蓮と大和の生き方にも投影されている。“魂削って踊ってんのに、誰かに合わせたり、誰かの後ろで踊るとか、オレは絶対に嫌だ”と、スカウトを断る大和。“ステージの真ん中で自由に叫ぶために自由を置いてきた”と、後に語る蓮。ダンスという同じ夢を追っていた二人の道は分かれ、蓮はアイドルグループ「RIOT(ライオット)」の一員として、武道館のステージに立ち、大和はストリートに根を張ってダンスシーンの未来を変えるべく、借金を抱えながらみずからクラブイベントを主催していく。
物語は、ステージでスポットライトの当たる方が光で、そうでない方が影という、わかりやすい形をとってはいかない。さらに交互に語られていく二人の視点からは、それぞれの、奥底にこびりつく葛藤や熱を孕んだ≪今≫の≪光と影≫が刻まれていく。恋愛、家族との関係、抱える孤独、そして夢……。
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人の流れを変えてしまうほどのスーパーアイドルグループに所属する蓮の視点は時に、著者自身が投影されているのでは?という想像も巡らせていく。作中に著されている何万人もの観衆を前にした景色や人気アーティストの忙殺ぶりは経験した人でないと描写できないだろうと感じるリアル。著者自身と距離の近い設定の蓮だが、想像の余白を残しながらも、小説のために創造した主人公であるということが明確になっていくのも、著者の作家としての力量だろう。
著者を蓮の立場に投影して読むならば、蓮とは反対の生き方を選んだ大和は、幼少の頃から20年以上もダンスを続けてきた岩谷さんが、もしかしたら歩んでいたかもしれない姿。視点を変えると、いくつもの読み方ができるのも本作の醍醐味のひとつだ。さらにパフォーマーとして真摯に生きてきたなかで思いを巡らせたであろう、ダンスという表現活動とそれが生活の糧となるのか?という夢と現実の間にあるものに言及していった点も、この物語を骨太なものにしている。
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原案をつくった横浜流星さんと二人三脚で書いた、小説家デビュー作『選択』もそうであったが、岩谷さんの書く文章は、次々とページを繰らせていく。ダンスに生きる主人公を描いた本作では、その部分をさらに進化させ、“音の奥へと飛び込んだ”というパフォーマーならではの表現の数々、音を体感しているようなリズミカルで、切れのいい独自の文体がストーリーを加速させていく。そして蓮と大和が行き着くところは――。
“一人分の夜を生き直す”というタイトルに込められた意味がしっくりと胸に落ちてきたとき、自分だけの時間が孕むもの、そしてあまり好きになれないと思っていた自分の生き方にも、ひと筋の光が射し込んでくる。
文=河村道子
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