※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年11月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。
イラスト=千野エー
[読得指数]★★★★★
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

本間 悠
ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

婚活を通して浮かび上がる、正しい家庭って一体ナニ?
主人公の理佳子は、化学メーカーに勤める27歳の理系女子。交際経験も男性経験もない彼女は、「周りがみんなしてるから」という理由で、魑魅魍魎の婚活に飛び込む。婚活アプリを通じて次々と登場する、やや癖が強めな男性たち。本当にこんな男性いるんですか、いるんですね? AIや掲示板の力を借りて、未知の領域で奮闘する理佳子のひたむきさは、つい応援したくなる。どんな相手を選び、どんな家庭を築きたいのかを探る中で、理佳子は自身を育ててくれた「バリキャリの母」との関係性を顧みるのだった。
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理佳子に限らず、母親像や家族像を描こうとしたとき、まずモデルになるのは自分の母であり、生まれ育った家庭だろう。かつて自分が受けた傷をたどりながらも、母娘の関係をことさらにドラマチックな愛憎劇に仕立てないのが良い。そのさっぱりとした距離感がなんとも現代的で、清々しい読後感を残してくれた。
文芸/小説
ラジオ体操がしたくなる度
★★★★★

開けてみなければわからない……絶望の密室が暴く謎
奥深い山中の研究所! 突然の土砂崩れで断たれる退路! 閉じ込められたワケアリ風なメンバー! そして誰かが殺される……!
ミステリー好きのボルテージが上がる設定てんこ盛りの今作は、「開けてみないと中の人の生死がわからないけど、開けたら中の人は死ぬ」という、すんごい密室がカギになる。
凝りに凝った設定と、後半一気に回収されていく伏線には、ただただあ然、呆然。密室はもとより、小説自体の構造まで美しく、最後の最後まで「読んで良かった〜!」を味わい尽くせる一冊だ。やや複雑な見取り図を頭に叩き込んで、この密室に飛び込もう。
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今作の刊行にあたり、出版社から売り場の装飾セットが送られてきた。その中には■■が入っており、「売り場で使いづらいなぁ」なんて思っていたが、これが作中に出てくるではないか! ぜひリアル書店の売り場にも注目しつつ、謎解きを楽しんでほしい。
文芸/小説
あとがきは最後に読もう度
★★★★★

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系You
Tuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

サンリオの新キャラクターがあなたを応援!
はなまるおばけ(まるまる)は、サンリオから2023年にデビューしたキャラクター。頑張った“あなた”に花丸をくれる不思議なおばけで、グッズや楽曲、映像など、各方面で活躍している。私はこのキャラクターが大好きで、自宅には100個を優に超えるグッズがあるし、SNSは欠かさずチェックしている。中でも年に1〜2回ほど開催される「はなまるおばけのお便り配信」の虜だ。視聴者から寄せられた「頑張ったこと」に対して、まるまるたちがコメントと花丸をくれる。精一杯褒めてくれる様子は、最高にかわいく、勇気づけられる。実際、まるまるを推すようになってから、落ち込んだり、イライラすることが本当に減った。
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本書はそんな風にみんなを勇気づける、はなまるおばけらしさが詰まった一冊。中心となっているのはイラスト、そして心を軽くするメッセージとレッスン(心療内科医による監修つき)だ。ぜひまるまるに出会ってほしい。
実用/心理
みんな仲良くなる度
★★★★★

動物でも植物でも菌類でもない、いったい何なんだ
粘菌(変形菌)という生物がいる。動物でも植物でも、果ては菌類でもない。脳も神経もないのに、環境に適応して変形や移動ができるアメーバ状の単細胞生物だ。現代の我々ですらよくわからないのだから、昔の人にはそれ以上に恐怖や畏怖の対象だったらしい。例えば宇宙で輝く星が大地で腐ったものとして、「星腐り」と呼ばれることがあった。日本では、民俗学者の南方熊楠が熱心に採集していたことでも知られており、仏教の華厳経や宇宙と粘菌の在り方を響き合わせていたらしいことが明らかになっている。
本書は、そうした熊楠の粘菌観から出発し、粘菌を媒介に思考を広げる「粘菌哲学」に至るまでの思考の軌跡だ。換言すれば、脳や神経ではなく、触覚によって情報処理をしている粘菌を参考に打ち立てられた「触覚を軸に据えた哲学」と言える。視覚や聴覚に比べて、相互の接触を伴う触覚は、最も生理的だ。新しい知性がここにある。
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論考/哲学
新しい知性が開拓できる度
★★★★★

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

海堂先生の最新作、医療現場の最先端!
本作は、医療現場を舞台にしたチーム・バチスタシリーズの最新作である。
働き方改革など世の中では根付いてきた考え方が、人の命を預かる医療現場ではどのようになっているのか分かる一冊となっている。
時代の変化による新人育成などがリアルに描かれていて、自分も病院の中で渦に巻き込まれているように感じる筆致は流石だ。
バチスタシリーズを知っている人間は、田口や白鳥など魅力溢れるキャラクターが出てくるので、きっと心が躍るだろう。
また、今までの作品を知らない人でも、これを読めばシリーズを読んでみたいと思わせる個性が光っている。
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また、国策についても言及しているところがあり、作者の並々ならぬ覚悟を感じるだろう。新しく登場するキャラクターも魅力的で、これからも続くであろう、バチスタシリーズがさらに楽しみに思える一冊だった。
文芸/小説
現代の医療問題踏み込み度
★★★★★

ぶっちぎりのエンターテインメント作品待望の続編
江戸川乱歩賞を受賞した『殺し屋の営業術』に続く待望の2作目。
半年前、裏社会の殺人請負会社に入社することになった営業マンの鳥井が、またも大活躍する作品だ。すでに前作は漫画化もされているほど、エンターテインメント性に富んでいて、次々と迫ってくる登場人物と引き込まれる展開に読む手が止まらないだろう。
キャラクターの魅力も勿論あるのだけれど、疾走感があるようにも感じられる読みやすさが本作の特徴だ。
営業に使う専門用語も出てくるが、営業術について素人の私でもスラスラと読める内容になっていて、気がつけば読破してしまった。
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何より、戦闘シーンが秀逸で、文章を読んでいるのに頭の中で映像が流れるような感覚になる。
振り下ろした拳の勢いや、出し抜かれた時の息遣いまで、鮮明に感じられる読書体験を是非していただきたい。
文芸/小説
映像化待ったなし度
★★★★★

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

買わない、でも十分ある
著者といえば、福島の原発事故をきっかけとしてほぼ電力に頼らない暮らしをしている、物を持たず、シンプルな暮らしを実践しているというイメージが強い。本書もタイトルから節約本と思い手に取ってみたが、中身は別物。もちろん、徹底して「買わない」生活を送ってはいるものの、決して極端ではなく、とにかく前向きで楽しい生き方のように私には思えてきて、ページをめくる手が止まらなくなった。食事にもこだわらず、新しいものを購入しなくなった著者は、稼いだお金の使い道も考えるようになる。そして驚くことに、使わないからどんどん貯まっていく一方のお金の一部を、困っている人のために寄付するという道を選んだ。そこに到達するまでに紆余曲折あったようだが、絶望している誰かを救えるのならという思いからだそうだ。著者と同じようにはできないとしても、彼女の「ひたすら一歩先をゆく」考え方に魅力を感じる人は多いはずだ。
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文芸/エッセイ
実践してみる価値がある度
★★★★★

住む先々での思い出がいい
著者は23歳で上京し、60歳の冬にノーローンで1億の家を買うと決断するまでに、合計13回も引っ越しをしている。就職、結婚、離婚といった人生にまつわる様々なハプニングが、懐かしい(そして時には珍)物件の様子とともに描かれている。紆余曲折の人生のはずなのに、悲壮感があるかと思いきや全然なくて、むしろこんな人生楽しそうと思わせるのが不思議である。著者の周辺にいる人たちは、この人とだったらとんでもない冒険ができると思うのかもしれない。強力な磁石みたいな人だ。ぽろりと涙が流れそうになる青春の一幕もあるというのに、なぜだか同時に笑いがこみ上げるのは、著者の文章の巧みさとしか説明できない。泣かせるのか? と思いきや、笑わせる独特な文体。最後まで一気に読ませるスピード感だ。東京に来てから数十年、居場所を求め彷徨ってきた著者は今、調子がめちゃくちゃいいらしい。最高だ。かくありたい。
文芸/エッセイ
60代、どう生きるか?度
★★★★★
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