作家やクリエイター、お笑い芸人、音楽アーティストなど、多彩なジャンルで活躍する人たちが、心に残る一冊をセレクトして、自身の言葉で紹介! 本を選んだ理由やそれぞれならではの視点を通して、本との新しい出会いや、読書の楽しみを届けます。
『横道世之介』(文藝春秋)を読んで最初に思ったのは、「こういう友達いたな」ということでした。
吉田修一先生が描く世之介は、長崎から上京して大学生活を始めた青年です。1980年代の東京を舞台に、世之介と周囲の人たちの日常、そして時を経た彼らの姿が描かれていきます。
作家やクリエイター、お笑い芸人、音楽アーティストなど、多彩なジャンルで活躍する人たちが、心に残る一冊をセレクトして、自身の言葉で紹介! 本を選んだ理由やそれぞれならではの視点を通して、本との新しい出会いや、読書の楽しみを届けます。
『横道世之介』(文藝春秋)を読んで最初に思ったのは、「こういう友達いたな」ということでした。
吉田修一先生が描く世之介は、長崎から上京して大学生活を始めた青年です。1980年代の東京を舞台に、世之介と周囲の人たちの日常、そして時を経た彼らの姿が描かれていきます。
世之介って、特別に目立つわけでもないのに、なぜか見てしまう人物なんです。
男友達といるときは割と自分のペースなのに、女性が相手になるとちょっと格好つけたり、相手に合わせたりする。19歳や20歳くらいって、そういう時期だった気がします。本人は真剣なんだけど、周りから見るとちょっと面白い。そういう人間臭さが、僕は好きなんだと思います。
僕にも昔、世之介みたいな友達がいました。その友達と何か大きなことを成し遂げたわけでも、特別な出来事があったわけでもありません。でも、不思議と今でも記憶に残っているんです。何をしたかは細かく覚えていないのに、どういう奴だったかは覚えている。
それに世之介って、人付き合いがものすごく器用なわけでもないのに、いろんな人と関わっていけるんです。
僕はこれも一つの才能だと思います。
人付き合いが上手いことと、人と関わることができるのは、少し違う気がするんです。世之介は完璧に振る舞うわけじゃない。でも、人との関わりを避けようともしない。
何か大きな目標に向かっているわけでもないし、読んでいて「頑張れ!」と応援する感覚もあまりありません。
でも、なんか見ちゃう。
「こいつ次は何するんだろう」って。
この作品で面白かったのは、物語の途中で世之介が亡くなることが明かされても、僕の中で彼への印象が何も変わらなかったことです。
悲劇の主人公になったわけでも、急に特別な人間になったわけでもない。世之介は世之介のままでした。
ただ、一つ強く印象に残っている場面があります。
世之介がカメラで赤ちゃんを撮る場面です。
僕はそこで、世之介という人間の「生」を感じました。
亡くなることを知ったときよりも、その何気ない瞬間のほうが、世之介が本当にそこにいるような実在感があったんです。
小説の登場人物なのに、どこかで本当に生きていた人間のように感じられた。僕にとっては、そこがすごく印象的でした。
そして、この作品では世之介と関わった人たちの、その後の人生も描かれています。
その一人が、世之介が大学時代に出会うお嬢様育ちの与謝野祥子です。世之介とは恋人同士になるのですが、彼女もまた、世之介とは違った意味で少し世間知らずで、不器用なところがある人物です。
祥子については、世之介を失ったことを考えると少しかわいそうにも感じました。ただ、世之介と出会ったことで彼女の人生が変わったのかどうかは、正直分かりません。
大きく変わったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
僕は、それを無理に決めなくてもいいと思っています。
人と出会ったからといって、必ずしも人生が変わるわけではない。でも、一緒に過ごした時間は確かにある。
僕自身、何かを目指して努力したり、結果を残したりすることは大切だと思っています。
でも『横道世之介』を読んでいると、そもそも人は何かを成し遂げないといけないんだろうか、と考えてしまいました。
世之介は誰かの人生を変えようとして、人と関わっているわけではありません。ただ出会って、話して、一緒に時間を過ごしている。
でも、その何気ない日常の延長に、誰かの記憶に残るものが生まれている。
もしかすると、何かを成し遂げるというのは、特別な目標を達成することだけではないのかもしれません。
最初に思い出したあの友達も、僕にとってはそういう存在です。
何かを一緒に成し遂げたわけじゃない。でも、確かに一緒に過ごした時間がある。
何をしたかより、どういう奴だったかを覚えている。
『横道世之介』を読み終えて、僕はそんな友達のことをまた思い出していました。
◆世界さんが紹介した本
『横道世之介』(吉田修一 / 文藝春秋)
【プロフィール】
世界(EXILE / FANTASTICS)
2月21日生まれ、神奈川県出身。2014年、EXILEに新パフォーマーとして加入。2017年、FANTASTICSとしても活動を開始。現在はEXILEとFANTASTICSのパフォーマーを兼任し、活躍の場を拡げている。漫画・アニメ・ゲームなどエンタメに造詣が深く、2025年4月から上演された『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage《MAD TRIGGER CREW&どついたれ本舗 feat. 道頓堀ダイバーズ》に、寶井灯依里役で出演。2025年7月公開の映画『仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者』では、謎の組織・ミューターの王・カリエス役を熱演し、話題に。グループとしては、ユニバーサル ミュージック移籍第一弾となるニューシングル「Echoes」を2026年12月2日(水)に発売。2027年には「FANTASTICS LIVE TOUR 2027 “PROMISE”」の開催も決定している。