
作家・蒼月海里の新作小説『ホーンテッド・ホテルの奇妙な客人』(蒼月海里/THORES柴本/アース・スター文庫)が、2026年10月22日(木)に発売された。ファンタジーやホラーを中心に手掛ける著者の最新作は、魅力的なキャラクターたちが活躍する“怖くない”ホラー・ミステリーだ。
蒼月氏は、『幽落町おばけ駄菓子屋』(KADOKAWA刊)や『幻想古書店で珈琲を』(角川春樹事務所刊)などのシリーズで知られる小説家兼シナリオライター。デビュー作にして代表作の『幽落町おばけ駄菓子屋』は、あの世とこの世の境目にある町を舞台に、主人公があやかしたちの悩みを解決していく物語である。ホラー文庫から刊行されているものの、怖さよりも心温まる交流に重きを置いた怪異ファンタジーで、『月刊Gファンタジー』(スクウェア・エニックス刊)2015年11月号からはコミカライズ版が連載されていた。
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そんな蒼月氏の最新作は、海を見下ろす丘に建つ白亜の洋館が舞台。「ホテル・ルミナリエ」は一見するとレトロな雰囲気が魅力的なリゾートホテルだが、夜な夜な西洋貴族の幽霊が出ると噂され、すっかり客足が途絶えていた。
もらい火で自宅を失ったフリーランスのライター・明神竜城(みょうじん・たつき/以下:タツキ)は、建て替えのあいだの仮住まいとしてこのホテルを予約する。決め手となったのは、格安の宿泊料金。自宅からも程近く、とっておきの仮住まいを見つけたと喜んで予約を済ませた直後、レビューに「幽霊ホテル」と書かれていたことに気づいてしまう。
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キャンセルしようにも直接電話をかける勇気が出ないまま、迎えた宿泊当日。意を決してホテルの扉を開けたタツキは、シルクハットに貴族風の衣装をまとった金髪碧眼の美青年と遭遇する。彼の名前は、勘解由小路琉生(かでのこうじ・るい/以下:ルイ)。若くしてホテルを率いる総支配人であり、タツキと並ぶもうひとりの主人公だ。
ルイに促されるままチェックインを済ませ、手配された部屋へと向かうタツキ。別れ際、ルイから「零時から朝四時までは部屋から出ないほうがいい」と忠告を受ける。そしてその夜、ベッドの足元で燃え上がる赤黒い炎を目の当たりにし、飛び起きるハメとなった――。
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『幽落町おばけ駄菓子屋』にも通じる“怖くない”世界観
同作の見どころを語るうえで、やはりルイの存在は欠かせない。尊大な態度とは裏腹に、客への思いは人一倍強いルイ。炎を消そうとしたタツキを「愚か者」と一喝したと思いきや、直後には「君は客なんだぞ。君の無事が最優先だ」とよどみない口調で言い切る。一方、丁寧語で営業スマイルを作ろうとすると、端正な顔が般若の面のように引きつってしまう不器用な一面も。知れば知るほど惹かれてしまう、そんな魅力を備えたキャラクターだ。
『ホーンテッド・ホテルの奇妙な客人』が「怖くないホラー・ミステリー」と呼ばれる理由には、このルイの姿勢も関係している。ルミナリエには霊が通り抜ける道、いわゆる霊道が通っており、深夜になると「人ならざる者」たちが集う。だがルイは彼らを追い払うどころか、死者も生者も分け隔てなく“お客様”として迎え入れていた。
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タツキが幽霊の存在を売りにしてはどうかと提案しても、「お客様を見世物にしたくない」と幽霊客への配慮を崩さない。さらには「死者のお客様は、接客スマイルをしていなくても文句を言わない」「真心さえ尽くしていればいいんだ」と語る。そんなルイのまなざしを通して見ると、闇夜にうごめく存在さえどこか親しみやすく思えてくるだろう。
幽霊を払ったり退治したりするのではなく、“もてなし”を通じて怪異と向き合う同作。その姿勢には、蒼月氏が『幽落町おばけ駄菓子屋』で描いてきた世界にも通じるものがある。怖い話が苦手な人でも、心温まる“おもてなし”の物語として楽しめるに違いない。
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緊張感を和らげる個性豊かな登場人物たち
もちろん、同作にホラー要素がまったくないわけでもない。深夜の焦げ臭さや金縛り、薄闇の廊下を行き交う影など、背筋が冷える場面も少なくないが、ホテルで働く個性豊かな面々が程よく緊張を和らげ、恐怖一辺倒ではない物語に仕上げている。
たとえば、フロント係の新妻(にいづま)は大の怖がり。霊感はないのに、幽霊の話題になると真っ青な顔で「視えないから、いない!」と言い張る。タツキが深夜の怪現象を訴えた際にも、本人以上に青ざめてフロントの陰に隠れてしまうなど、愛嬌たっぷりの人物だ。
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一方、ベテランのハウスキーパー・萌木(もえぎ)は、物腰が淑やかで仕事ぶりにも隙がない。幽霊についても「いません」と笑顔で断言し、「シーツの皺が原因なら、私は全てのシーツの皺をなくします」と言い切るほど、ホテルの評判を守ることに心血を注いでいる。怖がる者、存在を認めない者、そして幽霊を客としてもてなす者。それぞれの反応の違いが、ぞっとする場面のあとに思わず頬がゆるむようなひと幕を生み出している。
同作には序章と終章に加え、3つのエピソードを収録。第1話では、ルイからホテルの広報記事を依頼されたタツキが、住み込みで悪評払拭に挑むまでの経緯が描かれる。そして第2話では、珍しく人間の女性客がルミナリエを訪れるのだが、彼女の背後には“黒いもや”がまとわりついていた。除霊を求める萌木に対し、ルイが選ぶ“もてなし”とは――。
生きている客にも、そうでない客にも、等しく心を尽くすホテル・ルミナリエ。白亜の洋館で出会う“奇妙な客人”たちが織り成す、心温まるホラー・ミステリーをぜひ味わってみてほしい。
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