
乱暴者に見える肉食恐竜のティラノサウルスは、じつはやさしい心の持ち主で——。絵本作家の宮西達也さんが23年間にわたって、やさしさや思いやり、愛、友情を変わらず伝え続けている絵本「ティラノサウルス」シリーズ(ポプラ社)。
このたび、2015年に刊行された『あなたをずっとあいしてる』(同)が新たにオールカラー版として登場しました。初めてのひとり読みにもふさわしい幼年童話で、親がわが子に“こんなふうに育ってほしい”と思える内容がギュッと詰まっています。本作の物語やカラー版にこめた想いを宮西先生に聞きました。
疑問が生まれたら読み返せるのが“ひとり読み”の良さ

——絵本として展開してきた「ティラノサウルス」シリーズ(以下、ティラノシリーズ)が、初めて幼年童話になったのが本作です。そこにはどんな想いがあったのでしょうか。
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宮西達也先生(以下、宮西):絵本っていうのは、読み聞かせをして完結するものだと僕は思っているんですね。ただ、読み聞かせは1回きりで終わってしまうことも多い。だからこの本では、ずっと絵本を読んできた子がひとりでも繰り返し読めるように、長めのお話を描きました。自分のペースで読めますし、“今の場面はどういう意味なんだろう…”と思ったら途中で読み返すこともできます。
——87ページもあって読み応えがありますね。絵がベースなので、絵本の感覚で気軽に読んでくれそうです。
宮西:挿絵というより、絵そのものが下地になった幼年童話というイメージですね。絵本よりもお話が長いぶん、親子の愛も友情も描いているので、ティラノシリーズの全体像に触れられる一冊だと思います。お話の中でティラノサウルスのトロンは、たまごから生まれるところから始まり、最後は青年のようになりますよね。それもこの本で描きたかったこと。トロンは長い月日の中で出会いと別れを繰り返し、それぞれの場面で愛を感じながらどんどん成長していきます。
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——今回のオールカラー版はどのような想いから生まれましたか?
宮西:ティラノシリーズの絵本がすべてオールカラーだったので、それをそのまま引き継ぎたかったんです。子どもは大きくなるとだんだんアニメやコミックに触れることが増えていくと思うけど、やっぱり本も読んでほしい。だから、子どもたちが物語に入っていきやすいようにオールカラーにしました。
次々と変わる背景色でページをめくらせる工夫を

——オールカラー版ではまず、旧版ではオレンジだったカバーが黒に変わっています。
宮西:ティラノシリーズの象徴である星空、これをカバーにしたかった。前のカバーとの違いもよくわかりますしね。
——中面に使われたカラーも色とりどりですね。
宮西:恐竜たちの色は基本的に変わらないので、それ以外の色をどうしようかと考えました。白黒版ではグレーの濃さが違うくらいだったけど、岩はこんな色にしてみようとか、海はこんな色で…となるだけ楽しみながら。そうすると、白黒ではわからなかったことが色々わかってきますよね。たとえば溶岩の色は赤いことがわかって、より一層迫力が出たんじゃないでしょうか。
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——溶岩が押し寄せるページはすごい迫力です。他のページも背景の色が次々と変わるのでハッとさせられました。
宮西:僕が好きなオレンジもあるし、赤もあるし、海の色は青だし。ページをめくるごとに色が変わるでしょ。やっぱり本というのはアナログなので、ページをめくってもらうことが大事。赤を見ればウワッと激しい感情が生まれるし、青系を見ると気持ちが落ち着いたりもして。このページはこの色だから、次のページでは色を変えよう…という工夫はしましたね。
命がけで子を守るほど強い親の愛を伝えたい

——ティラノサウルスのトロンは、お話の中でいろんな出会いと別れを繰り返します。ティラノシリーズにはいつも感動的な“出会いと別れ”が描かれていますね。
宮西:人はリアリティがないと笑ったり感動したりしないでしょう? 肉食恐竜が草食恐竜と出会ったら食べたくなるはずなんですよ。でも、それ以上に相手のことを好きになって、守りたいと思ってしまうから食べない。でも本当は食べたい。だから最後は別れるしかない。ずっと一緒にいるわけにはいかないんです。そんな出会いと別れのなかに、いろんな愛が隠されている。どんな愛があるんだろう、どんな心の動きがあるんだろう…っていうのを本の中で探してほしいし、感じてほしいですね。
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——『あなたをずっとあいしてる』には母親との悲しい場面もあって、ホロリとする子もいそうです…。
宮西:僕も自分が描いた本で泣きましたから(笑)。これもやっぱりリアリティです。僕はもう父と母を亡くしていますが、どのお母さんを見てもすごいなって思うんですよ。命は交換できないけど、国によっては出産で命を落とすお母さんもたくさんいて、自分の命をかけて子どもを産むわけですよね。やっぱり人間にとって母の愛はいちばんすごい愛だと思うんです。だからトロンのそばにいてほしかった。悲しい場面もありますが、ラストの展開にはそういう気持ちを込めました。
——お父さんの登場シーンもかっこよかったです。
宮西:お父さんも悲しい目に遭いますが、身をもってトロンに愛を伝えるわけです。親にはこういう自己犠牲の愛もあるんです。親はこれだけあなたを愛しているんだよ、こういう気持ちであなたを守っているんだよ、ということを子どもたちが感じ取ってくれたら嬉しいですね。
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言葉で伝える関係が子どもの思いやりをはぐくむ

——先生がこのシリーズで変わらず伝えていらっしゃる“やさしさと思いやり”を、親子関係ではどのように伝えたらいいでしょうか。
宮西:最近は親子のコミュニケーションが少なくなっているでしょう? スマホなどのデジタルは便利でいいものだと思いますが、どうしてもコミュニケーションが減ってしまう。友だちもそうですよね。友だちと一緒にいるのに、お互いにスマホを見て何も喋らないような子どもたちをよく見かけます。人間にはコミュニケーションがあるからこそ、相手の気持ちを想像できたり、相手のために何かしてあげたいと思ったりするんじゃないでしょうか。
「ありがとう」という一言でも、伝え方や声の出し方によって受け止め方は全然違いますよね。スマホで「ありがとう」の後に絵文字をつけるのもいいけど、温度感までは伝わらない。だから僕はコミュニケーションを大事にしてほしくて、それをティラノシリーズの中にいっぱい入れています。
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——ついスマホに子守りをさせてしまう時があるので反省しています…。
宮西:子どもが何かを買ってもらえなくて泣いちゃった時、スマホを見せれば泣き止むかもしれないけど、スマホがないと泣き止まなくなっちゃうかもしれませんよね。何でも買ってあげれば「お母さんお父さん大好き」なんて言うかもしれないけど、ダメな時はダメ。「今は買ってあげられないんだよ」「こういう理由だからダメなんだよ」と言葉で伝えられるといいかもしれませんね。できるようになるまで、周りにはすこし迷惑をかけるかもしれないけど。大切なことを親がどこまで辛抱強く伝えられるかによって、子どもの心の成長に差が出てくるんじゃないかと僕は思います。
——デジタルばかりに頼っていたら、親のほうも、子どもに教えたり説得したりする力が育たないんじゃないかと怖くなりました。
宮西:ちゃんと言葉で伝えれば、がまんできる子は少なくないと思いますよ。親も子どもの前ではあまりスマホばかりにならないほうがいいでしょうね。「お父さん、お母さんはやってるのにぼくはなんでダメなの?」なんて言われるかもしれないから、子どもが見えないところで使うのがいいかもしれない。僕は今でもガラケーですよ(笑)。
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本物の力さえあれば誰だって強くなれる

——コミュニケーションといえば、今回のお話では目が不自由なパウパウサウルスのキラリが登場していました。まさに、言葉だからこそ気持ちを伝えられる存在ですね。
宮西:『星の王子さま』もそうですが、目に見えないものが大事だと思うんです。目に見えるものは手に入れられるけど、目に見えないものは簡単に手に入れられませんよね。目が見えないキラリは、相手が肉食のトロンだと知らないから、“心の目”でトロンの心の中を見ます。すると、トロンのやさしさが見えてきて、のちにトロンがティラノサウルスだと気づいたとしても怖くない。
トロンは力が強くて怖いティラノサウルスだけど、キラリと出会ってからやさしい気持ちが生まれる。キラリも目が見えづらく一歩ふみだす勇気を持てずにいたけど強くなる。2人とも、腕力ではない、本当の力を手に入れるんですよね。
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——トロンたちが手に入れた本当の力とは何なのか…。
宮西:帯で「本当の力の強さって何だろう」と問いかけました。ニュースを見ていると、お金や権力のある人が誰かを傷つけながら平然とのし上がっていますよね。その人がいけないことをしているとわかっているけど、お金や権力を持っているから従わないと…そんなふうに誤解している人もいる。でも本当の力って違うじゃないですか。トロンたちはだれかを思いやることで本当の力を持っていたから強くなれたんだと思います。
——恐竜たちはみんなそれぞれ成長して、本当の力を発揮していきますね。
宮西:恐竜はみんなそれぞれ違っていて、それは人間と同じなんです。僕はキラリや、スピノサウルスのメソメソみたいに、小さくて弱そうに見える存在でも、強くなれると信じています。それぞれの恐竜たちから、生きていく上で何が大事なのかを感じ取ってもらえたら嬉しいなと思います。
取材・文=吉田あき 撮影=川口宗道
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