
子どもの世話より、自分を優先してほしい。そんな夫からの要望に、妻の心はどんどんすり減っていく。『うずら男 モラハラかまって夫が人間をやめるまで』(前川さなえ/KADOKAWA LifeDesign)は、ふたりの男の子を育てる専業主婦・あすかと、妻への執着が止まらない夫・和史の歪な夫婦関係を描いた衝撃作だ。
ある日、あすかは和史から、8個のうずらの卵を育てるように命じられる。やがて孵化したうずらたちは、かわいいような、不気味なような…。この小さな生き物が、夫婦の歯車をさらに大きく狂わせていくストーリーは、多くの読者の心を揺さぶった。
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本作の著者・前川さなえさんに、幼少期の家庭環境に傷を抱え、大人になっても生きづらさを感じる「アダルトチルドレン」や「モラハラ」をテーマに描いた本作の制作背景や、夫婦関係、自分らしく生きるためのヒントについてお話を伺った。
――本作は、夫からの「うずらの世話」というハラスメントを受けていた妻が主人公です。彼女の人生はどうなってしまうんだろう、と不安に駆られながらも、ラスト数ページで一気にゾワッとさせられたのが印象的でした。結末に至るまでのストーリーは、事前にどれぐらい決めていたのでしょうか?
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前川さなえさん(以下、前川):しっかり決めていた部分もありますが、結末は描きながら導き出しました。
家族間や夫婦で今まさに苦しんでいる方も読むのでは、と考え、具体的でリアルな「答え」を示してしまえば「自分はここまでの境地へ辿り着けなかった」と傷ついてしまう方がいるかもしれない。読み終えた後に、読者をしんどい気持ちにはさせたくなかったので、あえて余白が生まれるような結末を選びました。
――数々のモラハラ的言動のなかでも、つわりで苦しむあすかへ、和史が「妊娠やめたら?」と言い放つシーンはとくに衝撃的でした。
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前川:和史は、苦痛を与えることを楽しむ“サディスト”的な人物ではなくて、目の前のあすかが苦しんでいるから「そんなに辛いなら、やめれば?」と短絡的に言っているだけなんですよね。ただ、悪意がないのが問題で。この感覚のズレが、あすかにとってはすごく怖いんだと思います。
――あすかはなぜ、和史の「一般的な感覚とのズレ」や「モラハラ気質」を交際中に察知できなかったと思いますか? もちろん、事前に気づくことのほうが珍しいのは大前提ですが…。
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前川:「交際中は優しかったのに」という話は、よく聞きますよね。好きなときって、多少の短所もかわいらしく見えてしまう。でも、それが「生活」になってくるとアラが見えてくる。
和史はかつての母の姿から「妻とはこういうものである」という、確固たるテンプレートを持っている男性です。そんな部分が、関係性の変化によって見えてきたのもあるでしょうね。おそらくあすかは、子どもが生まれても父親然としない和史の様子から気になり始めたのではないでしょうか。
取材・文=松本温美
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