
2026年1月、文芸小説、ファンタジー小説を中心に制作する出版社・星嶺舎が誕生した。代表を務めるのは作家でもある浅里紘太さん。星嶺舎は小説を書いていた浅里さんが、自身の小説を出版するために立ち上げた出版社である。自分の作品を出版するために自費出版という手段を取るのはよく聞く話だが、出版社を立ち上げるというのは珍しい。エンジニア経験もある浅里さんはなぜ出版社を立ち上げ、ひとりで小説を出版することができたのか? ご自身の原点でもあるファンタジー小説との出会い、最初に出版された小説のひとつである『白花冥幻譚(しろはなめいげんたん)』についてなど、幅広くお話を伺った。

――まず個人出版社を立ち上げた理由から教えてください。
浅里紘太さん(以下、浅里):昔から趣味でずっと小説を書いて、Webサイトに投稿していたんです。そこで続きを楽しみにしてくれる方が結構いてくれて。まずは文学フリマで販売するために、本を作ろうと考えました。さらに「どうせ作るなら、もっといろんな人に読んでもらいたいし黒字化も目指したい」と。そこからまず自費出版を考え、最終的には出版社を立ち上げることになりました。
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――自費出版という手段もあった中、なぜ出版社を立ち上げることになったのでしょうか?
浅里:自費出版と出版社立ち上げだったら、出版社の立ち上げの方が面白いかなと(笑)。あとは節約ですね。自費出版として出版社にお願いするよりも、装丁とかも自分で直接頼めばそんなに高くないし、デザインソフトも自分で覚えられるなと思ったんです。結果として節約にはならなかった気もするのですが、自分の中でこだわりたいところをこだわって作ることができたので、そこはすごくよかったですね。
――専門の方の手を借りながらも、すべての工程をご自身でおこなったということですが、難しさは感じませんか?
浅里:基本的に難しいです。絶対手分けした方がいい(笑)。まず中に編集者さんがおらず、頼める知人もいなかったので、外部の添削サービスをお願いしました。それでも作品を練る作業には編集の手がほとんど入っていない状態なので。小説講座に通っていた時期に学んだ批評の仕方を駆使してどうにか形にしましたが、最初はもう不安しかありませんでしたね。いまは外部の編集さんの力を借りられるようになってきました。
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――ほかにも難しかった工程はありますか?
浅里:販売、営業活動ですね。実際に書店さんに置いてもらうにしても、最初は平台に置いておいてもらえますが、売れないと棚差し(本を棚に背表紙が見えるように差し込んで並べる陳列方法)になり、最終的には返本といって本を返されるわけです。そもそもまず、書店さんに「この本はこのジャンルの棚に置かれる本です」と説明できないと入荷してもらえないし、ニーズに合った場所に入れてもらわないと読者の手に届きにくくなってしまう。
――最初は「自分が想定した棚と違う棚に置かれた」ということが起きたのでしょうか?
浅里:自分の中では“文芸とファンタジーの中間”くらいの想定でいたのですが、装丁がアニメ寄りだったこともあって、ライトノベルの棚に置かれることが多かったです。それ自体はうれしいことなのですが、ライトノベルだと思って読んだ人の反応としては「ちょっと重たい」「ルビが少ない」といった感想をいただくこともありました。
「自分がこう売り出したい」だけではなく「どう受け取られるか」を考えながら制作するのが重要なんだと学ばせていただきました。
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――反対に、ひとりでやって良かったことは?
浅里:経営者的に言うと、まず固定費がかからない。人にお願いするということはその分、出費があるわけなので。そこにハラハラせず、納得いくまで時間をかけられたのはよかったです。
――ITエンジニアとして働かれていたとのことですが、その経験も活きていますか?
浅里:パソコンスキルは役に立っていると思います。InDesignというソフトも3、4日独学して使えるようになりましたし、ホームページ制作も自分でやっています。電話も秘書センターにつなげたり、FAXもデジタル化したり……エンジニア経験が活きている部分は大きいと思います。
架空の世界だからこそ書きたいことをダイレクトに書ける
――星嶺舎の紹介文に「文芸小説、ファンタジー小説中心にお届けする」とありました。ファンタジー小説には思い入れがあるのでしょうか?
浅里:子どもの頃からファンタジー小説が好きでした。特にアーシュラ・K・ル=グウィンという『ゲド戦記』の作家の作品が好きで。歴史とか古代史・宗教史みたいなものにも興味があって、会社員時代には弥生時代を舞台にした卑弥呼の小説を書いたりしていましたね。でもなかなか面白く書けなくて「今の人たちに昔の時代の話をファンタジーとして面白く届けるにはどうしたらいいのか」みたいなことを考え続けて、今に至ります。
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――そもそも小説を書き始めたのは?
浅里:中学生ぐらいにテーブルトークRPG(会話型で進めていくロールプレイングゲーム)のリプレイ(ゲームの記録)を書いてみたのが最初です。小学生くらいから本を読むのが好きで、図書室に入り浸っている子どもでした。授業中もこっそり読んで、一日一冊くらいのペースで読んでいましたね。
――ご自身のnoteに「物語に救われた経験が多かった」とありましたが、それも小学生くらいのことでしょうか?
浅里:そうですね。家庭もあまり裕福ではなかったですし、逆境と感じることが自分の中で多々あって。大人になってからも、大変な時は好きだった物語を読み返して元気をもらったりしました。だからおこがましくはありますが、物語への恩返しをしたいと思っているんです。誰かを救える物語を書きたいという気持ちがあります
――中でもファンタジー小説の魅力というのはどんなところにあるでしょうか?
浅里:ファンタジー小説って、ファンタジーだからこそ本当のことが書けるんです。リアルな世界が舞台だと、風刺的なものや人間の深い部分を書くとそのまま重くなってしまうと思うのですが、ファンタジーは作品自体をひとつの比喩として、一番書きたいことをダイレクトに書ける。世界自体を作ることができるので、比較的シンプルな社会環境を作って描くべきテーマに特化できるというのも魅力だと思います。
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――なるほど、すごくわかりやすいです。
浅里:単純に好きだからというのが一番ですけどね。僕は昔から白昼夢を見たりする子どもで、学校から帰る時に「角から妖怪とか出てきたらどうしよう」と考え始めて、気が付いたら家についているような(笑)、ファンタジーの住人だったので。
構想10年、出版第一作は和風ハイファンタジー

――4月に出版された『白花冥幻譚』について伺わせてください。本作は「白花ユニバース」と呼ばれるシリーズの第一作ということもあり、世界観が壮大ですよね。最初にこの世界を考え始めたのはいつ頃ですか?
浅里:10年くらい前です。今話したように、正夢や白昼夢をよく見ていたのですが、その中で「もしまだ見えていない世界があるとしたら、どんな世界なんだろう」と考えるようになって。そこを突き詰めるためには哲学や古代史、脳科学とかも理解しないといけないなと勉強し始めるうちに、なんとなく自分の中で世界ができてきました。例えば日本だと沖縄の“ニライカナイ”みたいな、遠いところに魂が帰っていってまた戻ってくるという循環の思想だったり、中国の「陽と陰の気が交わりながら等価なものとして循環している」という陰陽思想だったりに影響を受けていますね。だから「白花ユニバース」の世界では「物事が循環していくから成り立っているんだ」みたいなところがテーマになっています。ル=グウィンも同じようなことを言っているので、そこからの影響もあると思います。
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――ファンタジーとなると『ゲド戦記』もそうですし、海外の要素が入っている人気作が多いイメージですが、和というか、日本を舞台にしたことに理由はありますか?
浅里:僕自身は西洋を舞台にしたファンタジーも書いていますし、時代劇みたいなものも書いていますし、いろいろな要素のあるものを書いています。今回、舞台を日本にしたのは「せっかく日本人なんだから、日本を舞台にしたハイファンタジーを書いてみたい」という気持ちがあったからです。
――作品はいつもどこから考え始めますか?
浅里:作品の舞台や設定から考え始めることが多いです。今回だったら、「白花ユニバース」の世界観では感情エネルギーみたいなものが大地とか世界自体を循環している、というところから想像し始めて、この世界の神様を定義しました。そこから「なぜそういう環境になったのか」を考えるうちに、地形や国の分かれ方が見えてきたんです。
――土台から固めていくんですね。一番書きたかったテーマはやっぱり最初にお話しいただいた“世界の循環”というところでしょうか。
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浅里:そうですね。世界観自体を皆さんに楽しんでほしいな、という気持ちがTRPGを楽しんでいた頃から変わらずにあります。
――『白花冥幻譚』の詳細な内容はどのようにして考えましたか?
浅里:詳しくはお伝えできませんが、最初から「ラストに世界観を覆す仕掛けを入れよう」というのは考えていました。
――本作はWebサイトで連載していたとのことですが、読者の方の反応を参考にしたりしていましたか?
浅里:いただいたコメントは読むのですが、あまり作品には取り入れないかもしれないですね。自分の作品は個性があるというか「変わっていて、賛否両論ある」くらいのポジションかなという自認があるので。「難しい」と書かれることもありますが、受け止めてくれる方たちの中には読み応えの部分や珍しい文章の語り口を評価してくださっている方もいますし、「ニッチに刺していく方向で考えた方がいいのかな」と思う部分もあります。僕自身、時代劇っぽかったり、重たかったりする文章が好きなので、そこにシンクロする人に、まずはしっかり届けていきたいなと思っています。
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――現在、星嶺舎からはもう一冊『滅びの国の魔女紀行: 灰と灯りのふたり旅』も出版されています。
浅里:同じく4月に出した小説で、まずこの2冊で弊社が出す小説の幅を見せたいと思って選びました。『白花冥幻譚』は弊社の出版物の中で一番重たい、文芸寄りの核。その反対にいるのが、柔らかい作風でライトに読める『滅びの国の魔女紀行: 灰と灯りのふたり旅』。「この範囲で作品を出していきますよ」という決意表明の二冊です。
――今後の作家・会社としての展望をお聞かせいただけますか?
浅里:作家としては「白花ユニバース」のストックが5冊分あるのですが最終的には10作を目指しているので、直しつつ年間2〜3作を目標に出版していきたいです。

会社としてはまず自分の作品で認知を広げつつ、今の市場で評価されにくいけど面白いファンタジー作品を出していけたらなと思っています。営業を外注化したりと、自分の時間を使わない方向で仕組みを作れているので、しばらくは書くことに集中してシリーズを仕上げていきたいですね。コミカライズなどいろいろな切り口を考えているので、楽しみにしていてもらいたいです。

取材・文=原智香
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