サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第48回はやまぎわ回。
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第48回(やまぎわ)「話題に疲れる僕たちの、感情はどこへ行く」
第48回(やまぎわ) 「話題に疲れる僕たちの、感情はどこへ行く」
お疲れ様です。やまぎわです。
このコラムを書き始めて、早いもので1年半が経とうとしています。その間もお笑い界から、「話題」が尽きることは無さそうです。
M-1の話、あのテレビの話、あの劇場の話……日々話題は尽きません。
その話題は決してポジティブなものだけではありません。僕も本当は面白いネタや面白いくだりを見たいだけなのに、いつの間にかネガティブな話題に心を囚われていたりします。
飽和するほど情報があふれる社会の中で、「閲覧」の価値は日に日に高まり続けています。われわれ芸人はもちろんのこと、あらゆる娯楽や製品サービスにとって、閲覧数が力や金と直結しています。
閲覧数が大きな価値を持つアルゴリズムのもとで現在何が起こっているかというと、「考える隙を与えない、感情に直接訴えかける」ような事象・コンテンツの価値があがっています。
例えば、お笑い界を席巻する「炎上」といったことも、その流れの中におかれます。笑いや感動だけでなく、怒りや嫌悪、対立もまた、人を画面に釘付けにします。
メディアにとっても、面白いかどうかだけでなく、議論を呼ぶかどうかが、重要な要素になっているように感じます。
閲覧数のアルゴリズムの下に、感情を強く揺さぶるコンテンツが選択され続け、われわれは興奮の中で疲弊し続けています。僕らは閲覧した情報によって生まれた感情に、さらにカロリーを使わされ続けています。
ネガティブな事象に触れたとき、ある人は悲しみ、ある人は怒ります。自分の居場所を侵害された、危機にさらされたということを主張する人もいます。
そういう言葉のスパーリングは、一見「正しさ」を理屈で戦わせあう議論・論争の類に見えますが、よくよく見れば、その出発点には「この人なんか嫌いやねん」とか「この発言は気に入らない」という感情があることも少なくありません。「カレーに”なす”入れんなや!」みたいな感情の投げかけが、「なす差別」「なすは日本の伝統的文脈の中で...」「いやいやなすアレルギーの人は...」みたいな、社会全体の正しさにすり替わっていきます。
もちろんすべての話題がそうではないですが、話題の元をたどれば、個々人の価値観や好みの問題に帰結することも少なくないのです。そして、われわれの生活を根本的に脅かすものなのかと思えば、これもまた必ずしもそうではありません。
こうした光景を見ていると、社会は思ったよりも子どもっぽいのかもな、と思います。
小中学校の教室では、誰と誰が仲がいいか、誰がグループの中心にいるか、誰が誰を嫌っているかといったことが、僕らにとっては死活問題でした。疲弊した僕は、大人になれば、もっと合理的なシステムの下で物事が判断されるようになるのだと思っていました。
ところが大人になって社会に出て見えてきたのは、全く似たようなことの繰り返しです。子どもの皆さん、本当にすみません。大人が一番、大人げないことにご執心で、感情に振り回されているんです。
これはもう人間の特性として受け入れなければならないのでしょう。
人間から感情を完全に切り離すことはできません。そもそも誰かと感動を共有したりすることの価値は決して陳腐化しません。何より僕ら芸人も、もっと認められたい・もっと面白いと思われたいという感情の奴隷で、人に評価されることを求める以上、評価されない悲しみとも向き合わざるを得ません。
僕たちは感情を人質に取られています。きっとそれも今まで以上に、です。
僕は自分や皆さんの感情を間違っていると否定する気はありません。捨て去るべきとは思いませんし、自分の中に押し込めておくべきとも思いません。
ただ感情は必ずしも正しい結論を導いてくれるわけではありません。さらに同じ出来事でも、昨日食べたものとか、その日のコンディションで、受け取り方は変わってしまいます。あのときは自分にとって一大事だった問題も、後から「そんなこと考えている間に作業進めとけばよかった…!」と思うことが僕にもたくさんあります。
だからこそ何かに感情が反応したとき、そもそも自分の利害に関係することなのか、他人に感情をいいように操られているのか、ちょっと俯瞰してみることが必要なのではないでしょうか。第一に、これは僕たちの感情を守る戦いでもあります。自分の仕事だけで忙しいのに、余暇の時間まで「閲覧社会」の思惑にのっかってやることはありません。
あなたの感情はあなたのものです。そして、簡単に他人に揺さぶられ、簡単に他人を揺さぶります。何にどのように感情を揺さぶられ、揺さぶりたいのか。それを少し考える時間が、僕らには必要なのかもしれません。
■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。
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