
マドンナやレディ・ガガなど、詳しい活動までは知らなくても日本人の多くが知っている海外のスターたち。映画界でいえばブラッド・ピットやハリソン・フォード、ディカプリオ、そしてジョニー・デップもそうだろう。いわゆる「海外セレブ」な彼らだが、有名であることはいいことばかりなわけではない。大金を稼ぐ代わりにパパラッチに追いかけられたり、おかしな噂を流されたり…「有名税」とでもいうべき代償を払わされることも多いのだ。
中でも近年、ジョニー・デップを襲ったスキャンダルの破壊力は甚大だった。ジョニーは元妻アンバー・ハードとの離婚劇が泥沼化し、なんとハリウッドでの仕事を失う事態にまで追い込まれてしまった。事情に詳しくない方は「確かに、近頃なんか見ないかも」くらいかもしれないが、デップの代名詞的な役どころ『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの主役であるジャック・スパロウも消されかけていたと聞けば、事の重大さがわかるだろう。『ジョニー・デップの戦い DV疑惑の真実と復活への道』(猿渡由紀/文藝春秋)は、一体ジョニーに何が起きたのかを追った衝撃のノンフィクションだ。
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元妻の主張は事実無根? 泥沼の離婚スキャンダル
本書では彼の生い立ちから数々の恋愛遍歴も含めて丁寧に半生を追っていくが、なんといってもメインは「泥沼離婚スキャンダル」について。2009年、ジョニーは映画『ラム・ダイアリー』の撮影を機にアンバーと急接近して密かに仲を深め、子供二人をもうけたヴァネッサ・パラディとの破局を発表した8ヶ月後の2013年4月にアンバーとの交際を公にする。その後、二人は2015年に結婚。ジョニー51歳、アンバー28歳の23歳の年の差婚だった。これだけならいかにも「華やかなセレブライフ」だが、問題はここから。2年後の2017年には二人は離婚し、2020年には足掛け5年に及ぶ「名誉毀損裁判」がスタートしたのだ。
なぜ裁判が起きたのか。実はアンバーは「ジョニーから日常的にDVを受けていた。薬物やアルコール中毒でモンスターと化した彼は暴力を振るった」と世間にアピールしたのだ。だが、これは全くの事実無根。アンバーは言葉巧みに周囲を巻き込み、それらしい証拠を捏造して世論を誘導したが、実は暴力を受けていたのはジョニーのほうだった(なんと諍いの中で中指を切断するという悲劇にまで見舞われていた)。DV加害者としてハリウッドから干されてしまったジョニーは、真実を訴えるべく裁判を起こしたのだ。
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それにしても、誤った情報がいとも簡単に事実化していくSNS社会の恐ろしさよ。しかも弱者である女性の「DV被害」のほうが同情も受けやすく(結果的にアンバーは女性の権利をうたうキャンペーンにも担ぎ出されるほど)、一方のジョニーは強者の男性であり明らかにセレブだからこそ容赦なく叩かれる。アメリカ社会は裁判の行方を固唾を飲んで見守ったというが、最終的にはジョニーが勝訴して和解。1度目のイギリスでの裁判でジョニー側が敗訴したこともあり、辛くも「真実」が勝利したことに心底ホッとした。
著者の猿渡由紀さんは映画ジャーナリスト。日本では断片的にしか伝わらなかった裁判の記録を翻訳本なのかと思うほどの詳細さで解き明かし、真実に迫っていくのはちょっとしたサスペンス並みの面白さがある。それにしても、「悪意のある人」に目をつけられたら簡単に落とし穴に落ちる恐ろしさが身に染みる。セレブの話ではあるが、身近にも起きかねない時代であることにあらためて戦慄することだろう。
文=荒井理恵
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