※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年11月号からの転載です。

9月18日(金)にキャラクター文芸レーベル「アース・スター文庫」が創刊となった。「すべての人に、ページをめくる喜びを――」をコンセプトに、ホラー・ミステリー・サスペンス・ファンタジー・ロマンス・現代のお仕事ものなど、豊富な作品ラインナップを展開していくという本レーベルの注目6作品を紹介!
大人気シリーズが待望の文庫化!

ごく普通の高校生・綾小路静子は、祖父の家からの帰り道に突然、時空を超えて戦国時代にタイムスリップしてしまう。そして気がつけば目の前には、かの有名な織田信長が立っていた。静子は農村を一つ与えられ、得意の農業で「才を示す」ことに……。尾張国の富国強兵からの天下布武ムーブメントに否応なく巻き込まれていく静子の運命は?
退魔師コンビがオカルト事件を追う! 刺激的なバディホラーミステリー

テレビドラマ化された警察小説「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」をはじめとして、「よろず建物因縁帳」「警視庁異能処理班ミカヅチ」など、ホラーやミステリーの人気シリーズを数多く手がけてきた内藤了さん。このほどアース・スター文庫の創刊ラインナップとして刊行された『TSUKIMONO 退魔師AKT』は、著者が大得意とする民俗学ホラーにミステリー要素を絡め、さらにバディものの面白さも盛りこんだ期待の新シリーズだ。
物語は山間部にある廃墓地を、作業員たちが取り壊しているシーンから幕を開ける。墓石が撤去され、あと少しで工事が完了するというところで、木の根元から古い石棺が発掘された。雷鳴がとどろくなか、作業員たちが棺の蓋をずらすと、中から“無数の動物が融合した異形の人骨”が現れた。
石棺を託された都立大江戸大学の教授・青龍仁は、学生たちとともに石棺の調査を始める。側面に赤い塗料が塗られ封印の呪文が書かれた石棺は、いかにもいわくありげだ。しかし中に収められていたのはただの人骨であり、工事現場で撮られた写真とは似ても似つかないものだった。
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その後、墓地の解体工事に立ち会っていた業者の社員が、自宅アパートで死体となって見つかる。しかも彼の体は魚のように三枚におろされていた。新聞で事実を知った仁は、彼の屋敷に下宿しているフリーターの若者・重堂大牙(タイガ)と、大学の教え子である有田楡(エル)をともなって石棺発掘現場に向かう。そこで待ち受けていたのは工事関係者のさらなる変死体。しかも現場ではタイガの身体に異変が起きる。事件の背後に凶悪な“憑き物”が絡んでいることを察知した仁は、タイガを助手に解決に乗り出した。仁とタイガはともに四神の霊を宿した、現代の退魔師だったのだ。
冒頭からぐいぐいと興味を惹きつけてくる小説だ。謎の石棺、異形の人骨、75人を祟り殺そうとする憑き物。被害者は次々とショッキングな最期を遂げていき、とても警察の手には負えない。オカルト的な事象をいかにも実際にありそうな、現代的なタッチで描くのが内藤ホラーのひとつの特色だが、今回もソーラーパネル建設の名目で破壊された墓地から呪いが広がるという恐ろしい出来事が、リアルかつサスペンスフルに語られていく。
この怪奇な事件に対処するのが、仁とタイガの退魔師コンビだ。仁は御殿と呼ばれる豪邸に住む資産家の息子で、いつもクールで理知的な性格。一方のタイガは肉体労働をして稼いだ下宿代を、困っている人に貸してしまうような根っからのお人好しだ。タイプが正反対の二人だが仁には“青龍”、タイガには“白虎”の霊が宿っており、それが退魔師としての力の源になっている。二人のバックボーンにまだ謎は多いが、オカルトバディものとしてすでに十分な魅力を感じさせる。
それ以外のキャラクターも個性的だ。祖母に命じられて20代半ばで大学に入学したエルは、銭湯の娘で背中流しの達人。青龍家に長年仕えるお手伝いさんのヨネは、タイガに向けた嫌味たっぷりの台詞で笑わせてくれる。こうした人間味を備えたキャラクターが織りなすドラマも、内藤作品の読みどころ。憑き物をめぐる不可解な事件はミステリー的展開を見せながら、手に汗握る最終章までノンストップで突き進んでいく。果たして仁とタイガは死の連鎖を止めることができるのか?
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ちなみに四神とは東西南北をつかさどる古代中国の霊獣のことで、青龍と白虎の他にもあと二体(朱雀と玄武)存在する。シリーズが進めば、それらを宿した新たな退魔師も登場するのだろうか。仁とタイガのこれからの活躍と併せて、大いに気になるところである。エンタメホラーの面白さをこれでもかと詰めこんだ「退魔師」シリーズから、すでに目が離せない。
書評:朝宮運河
人間とあやかしがわかり合うその姿は現代の希望になり得る

理解の範疇を超えた存在と対峙したとき、どうしたって人は“恐怖”する。どう接したらいいのかわからず、危害を加えられるのではないか、あるいは不用意に傷つけてしまうのではないか、と怯えてしまう。故に、人は理解不能な存在と自分との間に、境界線を引く。あなたと私は違うのだから交わらないようにしましょう、と。そして、現代社会にはそういった境界線が至るところで引かれている。
それはとても寂しいことだ。しかし、絶望ばかりではない。そんな現実を打破していく希望に満ちた作品が生まれたからだ。それこそが、蝉川夏哉さんによる新作『あやかし喫茶沙界亭へようこそ』である。
主人公・菅原結梅は過酷な労働環境であった会社を辞め、東京から大阪に戻ってきた女性だ。住処にしているのは祖父が遺した喫茶店「沙界亭」の二階。しかしながら、結梅は店を継ぐ気もなく、会社員時代の貯金を切り崩しながらしばらく休養をとるつもりであった。
ところが、ある日、祖父の古い知り合いだという美しい男・黄崎涼之介が訪ねてきたことから、結梅の日々は大きく変わっていくことになる。曰く、この沙界亭はあやかし─人ならざる者たちが訪れる店らしい。だから、結梅に継いでもらいたい。しかも結梅は、どうやら店を継ぐ条件をクリアしているという。突然のことに戸惑いながらも、黄崎に丸め込まれた結梅は沙界亭に立つことになるのだが……。
本作の舞台となる沙界亭には、実にさまざまなあやかしが足を運ぶ。自身の衝動に思い悩む〈かまいたち〉の子孫である女子高生、ヘッドマッサージ屋で人の悪夢を食らっている〈獏〉、どうしてもパンケーキが食べたい〈ヒダル神〉、沙界亭で働いてみたい〈火の玉〉。「あやかし」の一言で括ってしまうにはいずれも個性豊かであり、とてもチャーミングなキャラクターばかりだ。そして、彼らを前にしても結梅は決して動じることなく、望まれるままに紅茶や菓子を提供する。どうしてそう平然としていられるのか。それはきっと、結梅にとって彼らは「あやかし」である前に、自分の店に来てくれた「お客さん」だからなのだろう。相手が人間なのか人間ではないのか、どんな特性があるのか、どんな見た目なのか、結梅はそういった観点で判断しようとしない。ただただ、一人のお客さんとしてもてなすだけだ。その姿勢に、自然と心が解れていく。
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そうして中盤、結梅はこんなセリフを口にする。
「境界は切り分けるところ、っていう意味だけじゃなくて、接するところっていう意味で捉えてもいいんじゃないですか?」
男と女、日本人と外国人、マジョリティとマイノリティ。現代社会ではあらゆるところに境界線が引かれ、分断が生まれている。それを前にして、諦めてしまっている人も少なくないだろう。
でも、結梅の言葉を信じるならば、境界線とは異なる者同士の接地面になり得るのだ。そして、その接地面を取っ掛かりにして、わかり合うために歩み寄ることができるかもしれない。そう、沙界亭が、人間とあやかしとの世界をつなぐ場所であるように。
そんな希望を体現するかのように、本作の後半で結梅は、とある二種族の争いを収めるために奔走する。そうして大団円を迎えた後、黄崎は結梅に「店を継ぐ条件」について打ち明けるのだが、その一文を読んだとき、きっと誰もが思わず膝を打ってしまうはずだ。なるほど、結梅の生き方ならば納得だ、と。
人間である結梅とあやかしたちがわかり合っていくさまを描いた本作は、現代人がどこかに置き忘れてきた大切なものを思い出させてくれるだろう。そんな作品が生まれたことに、ただただ感謝したい。
書評:イガラシダイ
茨城県をアニメや映画の聖地に! 力をくれるお仕事小説

埼玉の県民性が“自虐”だとしたら、茨城はさしずめ“諦念”だろうか。実際、「都道府県魅力度ランキング」の最下位に何度なろうと、茨城生まれの知人は「まあ、何もないしね……」と虚無の顔でつぶやくばかり。いや、そんなことはないだろう、とチーバくんの舌あたりで生まれた私は思う。茨城にだっていろいろあるはずだ。納豆とかサツマイモとか水戸黄門とか、えーと、あと納豆とか? 茨城県行方市出身の著者・額賀澪さんも主人公に語らせているじゃないか。「豊かな自然、そして美味しい農産物。この土地は魅力にあふれています」「私の血は納豆でできています」と。……まぁ、それは採用面接のために用意した建前だけど。ともあれ、これはそんな茨城県に“聖地”を作ろうと奔走する人たちの物語だ。
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舞台は、茨城県庁の窓際部署「茨城ロケーション連絡室」、通称「ロケ連」。わずかふたりのこの部署では、県内で行われる映像作品の撮影を支援する、いわゆるフィルムコミッション業務を担っている。テレビ局から「明日までに病院を用意してほしい」と頼まれればロケ弁も含めて手配し、「沖縄という設定で海の撮影をしたい」と言われたらヤシの木が並ぶ海岸を探し出して案内する。次々に舞い込む無茶ぶりに頭を悩ませながらも、あらゆるツテをたどってロケを成立させるのが彼らの仕事だ。
速水律子は、そんな「ロケ連」に配属されたばかりの新入職員。だが、本来は官僚志望で、茨城の弱小部署で働くことに不満たらたらだ。そのうえ、上司の結束和平は、のほほんとしたお人よし。近隣住民と話し込んでは遅刻を繰り返しており、なんともだらしない。この仕事を受け入れられず、ことあるごとに「この私が、どうして」「早く異動したい」とふて腐れている。
それでも、結束の仕事ぶりに間近で接するうちに、律子の心も少しずつ動き始める。茨城が撮影場所に選ばれれば、ロケ地の使用料、撮影クルーの宿泊費や食事代などのお金が地元に落ちる。さらに、出演俳優に農産物をPRしてもらえば、県の魅力も発信できる。結束はそれをわかったうえで、地元の人たちがロケに協力してくれるよう独自のネットワークを築いていたのだ。その根底にあるのは、「自分の故郷がドラマや映画に残るのって、嬉しくない?」という純粋な思い。彼の故郷は、ある事情を抱えている。それもあって、ある時はやる気を失った撮影隊を鼓舞し、またある時はご当地アニメの監督の心情に寄り添い、無理難題をクリアしていく。終盤には「ロケ連」最大のピンチが降りかかるが、のらりくらりと、それでいてしたたかに立ち向かう姿に胸打たれる。
作中では、納豆嫌いの律子に対し、結束がこんな言葉をかける場面がある。「ストレートに納豆とタレとごはんで食べるのって、結構強者の食べ方だからね。速水さんの好きな食べ方が見つかるといいんじゃないかな」─これは、きっと納豆の食べ方だけでなく、仕事の向き合い方に関する助言も兼ねているのだろう。苦手な納豆だって、オクラやヤマイモと合わせたり、薬味や刻んだ漬物を混ぜたりすれば食べやすくなる。意に染まない仕事でも、自分なりの意義を見いだせば、やりがいを感じられるかもしれない。そもそも、子どもの頃に夢見た職業に就ける人なんて、ほんのひと握り。思い描いていた未来とは違う現実が待っていたからといって、ただ腐っているだけじゃもったいない。腐敗ではなく発酵させれば、旨味が出るかもしれないじゃないか。それこそ納豆みたいに。
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職場や学校など今の環境に不満がある。やりたいことが見つからない。自分は正当に評価されていない気がする。そんな人こそ、この小説をぜひ読んでほしい。いきなりやる気全開にはならないかもしれないが、腹の底からじんわり力が湧いてくるだろう。そして、読み終える頃には、茨城を好きになっているはずだ。
書評:野本由起
キュンが止まらない! 十夜が紡ぐ異類婚姻譚

ライト文芸では人気のジャンルである異類婚姻譚。文字通り、人間とは異なる類の者と婚姻する物語群であるが、ライト文芸で考えると自然に主人公の女性と、人外の男性が結び付くお話であることが多いように感じる。虐げられていた主人公が、圧倒的に強い存在と結婚することになり溺愛されていく……という流れの中で、『シンデレラ』のようなラブロマンスと、ある種の「ざまぁ」展開が描かれる。そのキュンと爽快感が読者の心を掴んでたまらないジャンルである。
しかし、いくつもの異類婚姻譚を読んでいると、きっと、こうなるんでしょ、と読者の中にもテンプレートの予測ができるようになってくるはずだ。テンプレートは求めているものでもあるので、その通りに描かれれば安心には繋がるが、やはりどこか意外性も欲しいもの。例えば、カレーが大好きで毎日ずっと同じお店でカレーライスを頼んでいたとしても、時々はカツカレーも食べたくなるし、別のお店の欧風カレーにも手を出したくなるだろう。Web小説は特にその競争が激しく、異世界ものや悪役令嬢もののテンプレートからいかに外れて面白いものを出していくか、という大喜利性によって多種多様な作品が生まれてきた。何故こんな話をするのかといえば、『半妖の運命婚』は異類婚姻譚ものではあるものの、テンプレート通りではなく、十夜のエスプリが効いた新風になっているからだ。
そもそも、十夜は2020年代の女性向けライトノベルを語るのであればその名を外せない作家の一人。同社刊行、TVアニメも絶賛放送中の『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』や『悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?』(SQEXノベル刊)などの代表作においても、ある種Web小説でのお約束から一歩外しつつ、多くの読者の心を掴んできた。宝島社が行っている「このライトノベルがすごい!」でも毎年のように上位へランクインしていることも十夜人気の証左といえよう。そんな著者による初めての文庫書き下ろし作品となる本作は、やはり異類婚姻譚という人気ジャンルから半歩ずらし、独自のフィールドで展開するメロドラマになっている。
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物語の主人公は、あやかしと契約し、皇都を守る六家の中の一つ、紅家で暮らしている紅草望。彼女はその出自から疎まれており、身体を酷使した結果、ひどい火傷を追うようになっていた。加えて、仕えていた相手からは酷い目に遭い、これからの人生が好転する兆しもない。そんな中、彼女の前に現れたのは望のことを半妖だと見抜いた謎多き男・蜉蝣で……。
物語の導入からも分かるように、本作は異類婚姻譚ではあるものの、異類であるのは読者が感情移入をするであろう主人公の望である。名家の中で蔑まれているところから溺愛へ、という流れこそあるものの望は半妖。つまり、私たちができないことまでやってしまう場面がある。そんな人間離れした描写があるのだが、そこは流石の十夜節で、すぐに共感の渦に感情を誘っていくのだ。
終盤に明かされる怒涛の皇都の謎も楽しいが、やはり肝は脳内で自然とテンポよく流れていくようなキャラクターたちの掛け合いと、どんどん深まっていく望と蜉蝣の関係性。いきなり溺愛されるというわけでもなく、そこに至る過程にはきちんと理由があり、その内容一つ一つに胸を打たれるのだ。まさか、もう流れは知っているであろう異類婚姻譚でこんなにキュンキュンすることがあるとは! そんな驚きに満ちた一冊であることは間違いない。
ところで、十夜作品の本領発揮は、キャラクターたちが出揃ってからである。『転生した大聖女』も続けば続くほど、物語が予想も付かない方向へ広がっていき、さらに面白くなっていった。本作も続巻が出た暁には、読者の予想の範疇を超えた展開が描かれること間違いない。今のうちに青田買いしておくべき新作である。
書評:太田祥暉
選ばれた少女たちは、運命を書きかえる

姫は塔で鐘を鳴らし、魔女はその音に導かれて旅をする。ふたりが集うと国はますます豊かになる――。なんとも美しい伝説だ。だけど、もしもその「めでたし、めでたし」が、選ばれた者の犠牲によって成り立っているとしたら? そして選ばれた当人たちさえ、そのことを知らずにいるとしたら……。
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「ちょー」シリーズ(集英社刊)で知られる野梨原花南の『岬の魔女と頂の姫』は、おとぎ話の醍醐味を存分に生かしながら、その構造を鮮やかに引っくり返す。
トーリンリマンでは、代々「頂の者」と「岬の者」が出会うことで神との契約が結ばれてきた。幽閉されて育った16歳のリッタ姫は、父王の側近ガンザの妨害をものともせず、成人の儀式でみごと塔の鐘を鳴らす。その鐘音を受けとったのが、孤児の少女ルルだ。過酷な環境のなかで生き延びる術として魔法を習得したルルは、自分が「岬の者」だと信じ、「頂の者」に会うため王都へ向かう。
運命に選ばれたふたりの少女。建付け自体は実に王道なファンタジーだ。
だけどこのルル、ファンタジーもののヒロインという型には、どうにもおさまらない。虐げられた境遇から這い上がってきた彼女は、けっして健気で心やさしい少女ではない。現実的で打算的。ときに魔法で他者を痛めつけることにも、ためらいがない。人間として大切にされなかったから、人の痛みが分かるやさしい少女になりました……というおとぎ話的なセオリーを作者は踏まない。
むしろルルは、大切にされてこなかったから、自分も他人も大切にする方法を知らないのだろう。
旅の途中でルルは、訳ありげな青年アンザハンと出会い、行動を共にする。自分とは対照的におっとりとして人のいい彼に、警戒しながらも少しずつ心を許していく。アンザハンは、何もかもを自分ひとりで背負おうとするルルに「自分を安全に、大切に扱って」と呼びかける。それがルルにはぴんとこない。今まで誰からもそんなこと、言われたことがなかったから。アンザハンと旅をしながら、ルルは自分を大切にするとはどういうことなのか、学んでいく。
そんなアンザハンを、幼いころ王宮から連れだし、王子ではなくごく普通の子どもとして育てられる環境を用意したのは他ならぬガンザだった。
ガンザはリッタを軟禁し、ルルの命を奪うため刺客を放った張本人。いわば、この物語における“悪役”である。だけど彼もまた、かつて「岬の者」に選ばれ、人生を奪われた背景があった。
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奪われた者が、また別の誰かから奪おうとする。そうして傷は次々に手渡される。
作者は人間を、善人と悪人にきっぱり分けない。傷つけられたからやさしくなるとも、傷つけられたから残酷になるとも決めつけない。人はもっと矛盾していて身勝手で、曖昧なもの。その複雑さを体現しているのが、ガンザというやっかいで魅力的な“悪役”だ。
そして、傷はルルとアンザハンの間にも手渡される。
アンザハンは、自分がガンザの手下であり、ある目的のもとルルに接近したことを終盤で打ち明ける。ルルは彼を許さない。けれど偽物の短剣と血糊で自分の死を装い、ガンザを欺くという提案には乗る。裏切られた事実を消すのではなく、その裏切りさえも味方につけて、ふたりは王宮へ向かう。許すことだけが、関係を結び直す方法ではない。ルルはルルのやり方で、もう一度アンザハンを選ぶのだ。
姫と魔女が出会えば、古い伝説は完成する。でも、彼女たちの人生はそこからはじまる。傷つけたことも、傷つけられたことも消えない。それでも人は誰かと関係を結び直し、自分の望む人生を歩みだせる。「めでたし、めでたし」のその先にあるもの。未来へ。
書評:皆川ちか
『第1回アース・スター文庫 キャラクター小説大賞』開催決定!
新レーベルの創刊を記念して「カクヨム」とタッグを組み、『第1回アース・スター文庫キャラクター小説大賞』の開催も決定。
募集ジャンルは和風中華西洋等のファンタジー・現実世界・恋愛・ホラー・青春・ミステリー・お仕事・歴史・SF などと幅広く、受賞作はすべて書籍化もしくはコミカライズが確約されている。
さらに、特別審査員賞はアース・スター文庫イメージキャラクターを務める声優の福山潤さんが選定し、豪華副賞も。
ふくやま・じゅん●1978年生まれ、大阪府出身。声優。主な出演作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』ルルーシュ・ランペルージ役や『ペルソナ5』雨宮蓮/ジョーカー役、『おそ松さん』松野一松役、『暗殺教室』殺せんせー役などがある。アーティスト活動も行うほか、俳優として映画に出演するなど幅広く活躍している。
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あさみや・うんが●ホラー、怪談、怪奇幻想小説を専門にライター、書評家、アンソロジストとして活動。著書に『現代ホラー小説を知るための100冊』『日本ホラー小説史 怪談、オカルト、モキュメンタリー』など。
イガラシダイ●障害者、難病者、性的少数者など、さまざまな社会的マイノリティへの取材を手掛ける。「五十嵐大」の名義で作家としても活動している。著書に『その手は明日を紡ぐために』ほか。
のもと・ゆき●ライター。編集プロダクション勤務を経てフリーランスとなり、本、アニメ、ゲームなどのエンタメを中心に、作家や著名人のインタビューなど幅広い記事の執筆・制作を手掛けている。
おおた・さき●アニメやライトノベルを中心に、書籍や雑誌、Web記事の編集・取材・執筆を手掛け、2025年からは制作会社oriminartの代表も務めている。著書に『ライトノベル50年・読んでおきたい100冊』。
みながわ・ちか●キネマ旬報社勤務を経てライターとなり、映画・小説・マンガ関連を中心としたインタビューやレビューを手掛ける。
「草野來」名義で作家活動も行っている。著書に『異世界転移ヤクザ』ほか。
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