
『団地のふたり』(藤野千夜:原作、志村貴子:漫画/双葉社)は、50歳、独身、実家暮らしの幼なじみふたりの、生まれ育った団地での日々を描いた物語。芥川賞作家・藤野千夜氏の同名小説(U-NEXT、双葉社)を、『青い花』や『淡島百景』(どちらも太田出版)、『放浪息子』(KADOKAWA)などの著者・志村貴子氏がコミカライズし、2026年10月8日に第1巻が発売に。小泉今日子と小林聡美のW主演で2024年にNHK BSプレミアムで初放送され、2026年7月に地上波で放送となったドラマも話題の作品だ。
主人公は「なっちゃん」こと奈津子と、「ノエチ」こと野枝。ふたりは同じ団地で育った幼なじみで、ともに50歳で独身。売れないイラストレーターのなっちゃんはご近所さんから預かった「お品物」をネットで売り、ノエチは大学の非常勤講師をしている。若い頃には恋愛も仕事もいろいろあったが、今はふたりとも生まれ育った築古団地に戻ってきたのだった。
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なっちゃんの部屋で一緒にご飯を食べ、くだらない話をして、時にはケンカをして何日も口をきかないことも。昭和の古い品物が高く売れた日には、いつもの食卓をほんの少しだけ豪華にするなど、本作にあるのは、そんな何気ない毎日の繰り返しだ。大きな成功を手に入れるわけでも、劇的に人生が変わるわけでもない。それなのに、なっちゃんとノエチがご飯を食べながら他愛のない話をしている姿を眺めていると、妙に心が落ち着くのだ。
50歳で独身、実家暮らしという、世間の価値観で見れば「こうあるべき」と言われてしまいそうな生き方をしているふたりだ。しかし本人たちは、自分たちなりの暮らしを楽しんでいる。長い付き合いだから格好をつける必要もなく、ひとりでいたいときにはひとりでいて、誰かとご飯を食べたくなれば声を掛けられる相手がいる。近すぎず、遠すぎない。そんなふたりの距離がなんとも心地いい。
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結婚していなくても、大きな仕事を成し遂げていなくてもいい。気の置けない友人がいて、おいしいご飯を食べられ、今日を楽しく過ごせたなら、それもひとつのかけがえのない幸せだ。本作は、そんな当たり前なことをふと思い出させてくれる作品である。
文=七井レコア
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