
ありったけの力で未来をぶん殴る。決して強くはない少年の、死力を尽くす戦いに思わず息を呑んだ。もう誰も失いたくない。大切な人をみんな守りたい。その思いだけで突き進む少年とともに、荒れ果てた世界を駆け抜けるうちに、いつしか私の心にまで熱いものが宿る。
読めば読むほど、全身に力がみなぎってくるようなコミックが『ワールドエンダー ―世界に嫌われた君とのN回目―』(細音啓:原作、素与雨々:漫画/白泉社)。大人気ライトノベル作家・細音啓が、初のオリジナル漫画原作で描く本格ファンタジーだ。
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「天使」に侵略された世界で、少年は“ヒーロー”を目指す

舞台は、「天使」と呼ばれる謎の生命体に地球が侵略された世界。30年前、世界サミットに突如現れたその生命体によって、侵攻開始からわずか2時間で主要国家の首脳級は全滅。14日で人類生存圏の21%が消滅し、各国政府も機能を失った。人類に残された唯一の希望は、天使討伐のエリート部隊「メサイア機関」。自警団の少年・ユージンは、その存在にずっと憧れを抱いてきた。

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だが、危機的な状況のなかで現れた隊員たちは、犠牲者よりも天使を倒した功績を気にする、ユージンが思い描いていたヒーローとはかけ離れた存在だった。いつか自分がメサイア機関に入り、「本当のヒーロー集団」に変えると決意するユージン。その夜、本来なら現れないはずの時間帯に天使が襲来。圧倒的な力を誇るはずのメサイア機関の隊員たちさえ倒され、ユージンも死の淵へと追い詰められて……。
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「俺自身の幸せのために」全部救う少年・ユージン

ユージンはなんて熱い少年なのだろう。彼はいつだって自分を犠牲にしてでも他人を助けようとする。だが、決して強いわけではない。メサイア機関の試験には2年連続で不合格だし、片腕は潰れて空き缶ひとつ持てない。誰かを救う余裕があるほど強くはないのに、それでも無謀な行動ばかりを繰り返す。その危なっかしさにハラハラさせられながらも、次第に彼から目が離せなくなる。
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ユージンの運命を変える「悪魔」と呼ばれる少女・シュキ
そんなユージンの前に現れるのが「悪魔」と呼ばれる少女シュキだ。メサイア機関と行動をともにしながら、監視対象ともされている謎多きこの少女は、もともと人間には期待していない様子。

天使の襲撃によって死の危機に瀕しても、自分の命に執着する様子さえ見せない。だが、ユージンは潰れた腕をシュキに差し出して言う。「掴め」と。「生きててほしい」「俺はもう誰にも死んでほしくない」。相手が悪魔であろうと何だろうと関係ない。大切な人をみんな守ったうえで、自分も幸せになりたい。自分が幸せであるために彼女にも生きてほしいと願うユージンの言葉が彼女の心を動かすのだ。
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「ぷろぽーず?」

ユージンのまっすぐな言葉を受けて、そう頰を赤らめるシュキについ吹き出してしまう。そう、このシュキはやたら乙女。強いのに、たまらなく可愛いのだ。ユージンの言葉を拡大解釈するシュキと、それに困惑するユージンとのやりとりは楽しい。そして、シュキは、「私を幸せにするまで、お前が死ぬことを許さない」「何度死んでも必ず私を幸せにしてみせろ」と告げる。その直後、ユージンの時間は天使が襲来する数時間前へと巻き戻った。このタイムリープは、シュキによるものなのか。だが、過去に戻れたからといって、未来を変えられるとは限らない。それでもユージンは戦おうとする。シュキのために。仲間のために。何より、自分自身が幸せになるために。その姿に、どうしてこんなにも心を動かされてしまうのだろう。
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未来をぶん殴る!

「何も救えない未来はどんな未来よりも怖い」
ユージンの言葉が心に響く。彼は恐怖を知らないわけではない。傷つくのも怖いし、死ぬのだって怖い。それでも、ただ運命に巻き込まれているだけではない。怖いと知りながら、自らその渦へ飛び込み、厳しい戦いに身を投じていく。
ああ、細部まで描き込まれた画面と迫力ある戦闘シーンに、何度、目を奪われたことだろう。さすがは、「超画力新人」と呼ばれる漫画家・素与雨々の作画。ユージンの死闘が眼前に迫ってくる。天使との攻防は凄惨で、次々と人の命が奪われる。絶望的な状況が続くからこそ、何も諦めようとしないユージンの存在がまばゆいばかりに輝いてみえる。そのひたむきな思いに胸を撃ち抜かれ、シュキとともにこれからどんな未来を切り開いていくのか、気になってたまらない。そしていつしか、自分も前へ進む勇気をもらったような気がしてくる。熱くて、まっすぐ。そんな物語を探しているなら、ぜひこのコミックを手に取ってほしい。
文=アサトーミナミ
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