
1990年代の少女マンガは、運命と書いてさだめと読む、運命系女子の宝庫であった。『美少女戦士セーラームーン』に『魔法騎士レイアース』、『天は赤い河のほとり』。前世の因縁を引き継いでいたり、異世界や過去に飛ばされてしまったり、さまざまなかたちで、ごく普通の女の子が果たすべき使命を与えられ、そして戦いをともにする魅力的な男の子と恋をする。躍動の物語に読者の少女たちは魅了された。このたびアニメ化され、小冊子付き愛蔵版が発売された『彼方から』(ひかわきょうこ/白泉社)もそのひとつ。シリーズ累計発行部数は400万部を突破し、すぐれたSF作品に贈られる星雲賞のコミック部門も受賞した作品である。
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異世界に飛ばされた女子高生は、言葉が通じない青年に出会う――彼の目的は彼女を「消し去る」こと!?


主人公の立木典子は、SF作家の父をもつ、ちょっと夢見がちな高校生。学校帰りに無差別爆破事件に巻き込まれ、気づいたときには金色の苔むす大地に倒れ、巨大な木々に囲まれていた。さらに異形の虫に襲われたところを、助けてくれたのが長い黒髪の青年・イザーク。言葉は通じないが、めっぽう強くて頼りがいのある彼のおかげで、どうにか樹海を抜け出すことのできた典子(漢字のない世界ゆえに、以後はノリコと表記される)だが、実は彼の目的はノリコを「消し去る」ことだった。

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というのも、ノリコはどうやら邪悪な化け物「天上鬼」を呼び覚ます、「目覚め」と呼ばれる存在らしいのである。そのことを、ノリコ自身は知らない。イザークが教えないからだ。言葉が通じないから、だけでなく、みずからの標的かもしれないノリコをイザークは助けながらも注意深く観察する。どう見ても普通の女の子、しかも健気でひたむき。そんな彼女が本当に「目覚め」なのか? 戸惑いながら、イザークは次第に殺すのではなく守る存在として、ノリコにほだされていく。
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今の自分にできることに最大限の力を尽くす、主人公ノリコの魅力


重要なのは、イザークがノリコに好意を向けるのは、若くてかわいい女の子だからではない、ということだ。最初は家に帰りたいと泣いていたノリコだが、泣いてもどうにもならないとわかってからは、この世界で生き抜くために肚をくくる。守られるばかりの自分をよしとせず「言葉がわからなければ学べばいい」「嘆いている暇があったら、今の自分にできることをしよう」とみずから心をふるいたたせるのだ。
無力な自分に打ちのめされながら、2巻でノリコが「今の自分ができることに集中するんだ」と改めて立ち上がるシーンがある。できないこと、足りないことは、山のようにある。だけど「人のできることをする」のではなく、今の自分に何ができるかを考え、最大限の力を尽くして自分の価値を見出そうとする。そんな彼女の姿に、それこそが「ありのままの自分を肯定する」ということなのだと、心を打たれた。だからこそ、イザークを筆頭に物語の登場人物たちも、ノリコを足手まといとはせず、ともに戦おうとふるいたつのである。
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イザークの抱える病と、なぜノリコを消し去ろうとしていたのかの理由。物語には謎と悲劇が潜んでいる。天上鬼をめぐるさだめに、ノリコはどう立ち向かうのか。そして、イザークとどんな関係を紡いでいくのか。人の心を惑わし争いを生む邪悪な力に立ち向かう彼女の強さにぜひ、今こそ触れてほしい。
文=立花もも
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