
引用----
幽霊を「見る」ということは、幽霊に「見られている」ということの証明にもなります。
----
『目が』(背筋/ポプラ社)は、「視線」という人間にとって極めて身近な、しかし、敢えて意識していなかった存在の「不気味さ」を浮き彫りにしてくれるような短編ホラー小説だ。
都内の大学に通うIは、あるネットの怪談を知る。
心霊スポットの「視線」にまつわるお話だ。高齢女性が孤独死した廃屋。その前の道で、通行人は妙に視線を感じるらしい。……その視線というのが、実に奇妙で。
続きを読む
理系学部のIは、「認知情報学」を専攻しており、その分野の一つに「視線」を研究対象として扱う研究室に所属していた。
人が誰かに「見られていると感じる状態」を調査するために、「視線圧」という指標があるそうだ。
「視線圧」は【視線量】と≪注視度≫で構成されており、前者は【何人に見られているか】。後者は≪どれくらい注目されているか≫を表すという。
一般的に人通りの多い繁華街などでは、【視線量】は多い(多くの人に見られている感覚になる)。一方で≪注視度≫は低い(人が多い分、自分が注目されているとは思わないから)。
続きを読む
さて本題。
その心霊スポットの廃屋は、人通りの少ない道にある。
そこで視線圧を測定してみたところ……結果はどうなったであろうか?
章が変わり、Mという人物の話になる。
Mはお金が欲しいあまり、怪しい高額バイトをすることに。殺風景なホテルの一室にいる男性を、監視カメラで監視するという仕事だ。難しい業務ではない。しかしこの仕事、日給は5万円。高額で楽な仕事ということで、最初はラッキーとさえ思い監視業務を行っていたMだが、次第にその男の様子がおかしくなり……。
続きを読む
またもや章が変わる。
とあるカップルのお話。彼女が突然、こんなことを口にし始める。
引用----
「目って二つだと不便じゃない?」
「教えてもらったの。目を増やす方法」
----
それを聞いた彼氏は、「誰に?」と問う。彼女の答えは。
一見、関係の無さそうに思える章ごとの登場人物。彼、彼女らが1つの線に繋がる時、読者は「視線」の恐怖に気づくことになるのだが……。
著者の背筋さんは、今大注目のホラー作家である。デビュー作『近畿地方のある場所について』は、シリーズ関連本も含めて累計100万部を突破し、映画化もした話題作だ。
続きを読む
その背筋さんの描く短編ホラーである本作は、読後の後味はもう……「最悪」である(もちろんこれは、ホラー小説にとって「最高の褒め言葉」だと思って使っている)。
「視線」とは、実に不思議なものだと思う。
目には見えないけれど、誰でも感じたことがあるだろうし、どこか生理的な嫌悪感をもたらすものでもある(見てくる相手が、自分にとって不快な存在ならば)。
このような身近なものがモチーフになっているせいで、読者はこの本を読み終わった後も、視線の「奇妙さ」に気づいてしまった今、そこから抜け出すことができないのだ。だから後味が「最悪(最高!)」と書かせてもらった。
続きを読む
短いお話ではあるので、それほど時間もかからず読めるため、最近小説離れしてしまっているなぁという方にもオススメしたい。しかし、当たり前に感じていた日常が、ぐにゃり……と変形したまま、もう二度と元には戻らないかもしれないので、それだけはご注意を。
本を閉じた後、視線を感じても、その視線に深入りしてはいけない。
文=雨野裾
記事一覧に戻る