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“勇一君、助けて”
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もう、この世にはいないはずだ。それなのに、電話口から聞こえるのは最愛の人の声。非現実的な出来事だとしても、声や話し方の癖から彼女だと疑いようもない。微かな希望が湧き、突き動かされるまま彼女を捜しはじめる。しかし、行方を追うなかで彼女がとある秘密を抱えていたことを知り――。
「屍人荘の殺人」シリーズ(東京創元社)などで知られる今村昌弘氏の新刊『0秒前の彼女』(双葉社)は、一言一句見逃せないミステリとなっている。
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公安調査官 津倉勇一(つくら・ゆういち)は、近年目覚ましい成長を遂げる政党「協創党」を支持する、市民団体「リヴ・コモンズ」の動向を調査していた。ある日、団体関係者から内部情報を聞き出していた時、爆発事件に巻き込まれる。そしてそこには、なぜか最愛の恋人・紗奈(さな)の姿もあり、帰らぬ人となってしまうのだ。
事件への関与が疑われた津倉は、恋人の最期にも立ち会えぬまま日本を離れ身を隠すことになる。その1年後、紗奈を失った痛みが癒えない津倉の携帯電話に、非通知の着信が入る。不審に思いながら電話に出ると、耳に届いたのは愛する彼女の声だった。「彼女の身に何が起きているのか」「なぜ、公安の数人しか知らない携帯電話の番号を知っているのか」いくつか疑問は浮かぶが、津倉はこの電話をきっかけに日本へ戻ることを決意する。
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紗奈の捜査は、彼女の弟である翔太や津倉の上司である柊など、さまざまな人の力を借りて進む。なかなか足取りを掴めず、時に彼女の生存そのものを否定されるが、ようやく再会の時を迎える。だがそれは、「リヴ・コモンズ」の男に連れ去られそうになっている場面だった。しかも彼は、紗奈のことを「京佳」と呼んでいるのだ。
津倉が捜している恋人の「紗奈」と、リヴ・コモンズが捜す「京佳」という女性。彼女たちは同一人物なのか、それとも異なる人間なのか。本書では、彼女の存在が津倉たちをたびたび翻弄する。筆者も、確信に辿り着いたと思ったらひらりとかわされることを何度も経験した。掴めそうで掴めないもどかしさ。だが、ここからどうなっていくのだろう、という期待感のほうが強い。
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そして、自身の思い込みに気づくたびに、プロローグの言葉が頭に浮かぶのだ。
引用----
“彼女の言動を思い出せ。
一つたりとも見逃すことなく。
そうすれば、彼女が何者か必ずわかる。”
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彼女の言葉、津倉たちが語る彼女との記憶など、本書にちりばめられた彼女の痕跡を振り返る。一つひとつ、確かめ照らし合わせていく。そうした過程を経ていくと、思いもよらぬ事実を知ることになる。
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紗奈が抱えていた秘密、爆発事件が起きた理由、彼女の正体、すべてが明らかになっていく。それと同時に、彼女を通して宿怨の根源を今度こそ壊し、ゼロからやり直そうとする者の存在にも気づくのだ。
また本書を読み進めるうえで、彼女の言動以外にも「自身の当たり前」を疑うことが大切だと感じた。これのせいで、本来あるはずの選択肢が見えなくなってしまう。そうならないためにも、当たり前を一旦横に置くことをおすすめしたい。そのほうが、まわり道をせず彼女に近づけるだろう。
彼女のために、津倉がどのような答えを出し動くのか。辿り着いた先には、どのような未来が待っているのか。ぜひあなたにも見届けてもらいたい。
文=鶴田有紀
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