※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年10月号からの転載です。

SNSで父に連絡を試みつつ、勘違いから同姓同名の別人と友情を育んだ実体験を、人間味あふれるドラメディへと昇華。
「顔も知らない他人の何気ないやさしさに救われた自分だからこそ、この物語を伝えなければと使命感を覚えて。とくに印象深い出来事や核心部分は残しながら、フィクションを織り交ぜてゆきました。こだわったのは、からかいや見下すような笑いとは一線を画すユーモアの使い方。自分にとっては痛みも伴う物語のなかに観客が喜びや繋がりを見出し、一緒に笑い合えるような作品にしたかったんです。ナルシストな父のキャラについては“どうやって創作したの”とよく聞かれますが、生物学上の父そのままで、むしろ少しマイルドにしたくらい(苦笑)。ただ訴訟問題が起きたらマズいので名前は変えようと思ったとき、浮かんだのは初仕事でご一緒した、20歳上の先輩でした。落ち込みがちな私に奥さまともども、すごく親切に接してくれた、とても温かいハートの持ち主です。ボブ・トレヴィノというその名をお借りすることによって、フェイスブックで出会った“父”と先輩が私に与えてくれたものに、お礼を言うような気持ちで脚本に向かえる気がしたわけです」
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監督の分身であるリリーがセラピーを受けるエピソードは、ドラメディの真骨頂。フィクションかと思いきや「実話なんです。大学にカウンセリングサービスがあったので利用したら、私の身の上話を聞いた新人カウンセラーがショックで言葉を失って。私が彼女の肩を叩き、逆に励ます形となりました(苦笑)」
長編初監督作ながら、世界各地の映画祭で観客賞を受賞。
「“Chosen Family”、つまり血の繋がりがない〈自分が選んだ家族〉というのが今作のテーマですけど、映画制作も同じですね。誰と組むか、自分で選んだ者同士が時間を共有し、お互いが支え合う最高の現場でした」」
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取材・文:柴田メグミ
トレイシー・レイモン●テキサス大学で映画制作を学びながら、Time Warner Newsで映像ジャーナリストとして経験を積む。またリチャード・リンクレイター監督率いるDetour Filmでインターンを務めた。映像業界で15年以上にわたりキャリアを重ね、『私たちは、ちょうどいい。』で長編監督デビュー。SXSW映画祭審査員特別賞&観客賞ほか、数々の賞を受賞。

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『私たちは、ちょうどいい。』
監督:トレイシー・レイモン 出演:バービー・フェレイラ、ジョン・レグイザモ 2025年アメリカ 102分 配給:AMGエンタテインメント 9月11日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中●介護ヘルパーとして友人宅に暮らすリリー。幼い頃に母に捨てられ、20代で父と疎遠になった彼女は、家族との繋がりを強く求めている。そんなある日、電話に出ない父に連絡すべくFacebookで名前を検索した彼女は、“もうひとりのボブ”に出会う……。
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