
何なんだ、この最強の女子高生は。戦国時代へのタイムスリップもののはずなのに、まさかテレビのサバイバル企画を見ているような気持ちにさせられるとは思わなかった。たとえば、「ザ!鉄腕!DASH!!」の「DASH村」のような、限られた環境のなかで知恵と工夫を凝らし、できることをひとつずつ増やしていくあのワクワク感だ。しかも、この女子高生がすごい。豊富な知識を武器に、次々と降りかかる無理難題を乗り越えていく。その姿は、まるでスター誕生の瞬間を目撃しているようで、ニヤニヤが止まらなくなってしまう。
そんな作品が『【文庫版】 戦国小町苦労譚 一、邂逅の刻』(夾竹桃/平沢下戸/アース・スター文庫)。「小説家になろう」発、豆知識ふんだん系の新感覚時代小説だ。2016年にアース・スター エンターテイメントが刊行する「アース・スター ノベル」から発売され今年で10周年。このたび、同社の新レーベル「アース・スター文庫」より文庫版として登場。シリーズ累計発行部数は360万部を突破し、コミカライズも好評連載中だ。戦国時代へタイムスリップした農業高校の女子高生が、現代知識を駆使して農業改革に挑むこの物語は、とにかく痛快。これほど面白い戦国タイムスリップストーリーを、今の今まで知らなかったなんて、悔しくてならない。
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生き延びるため、織田信長に、農業で「才」を示す女子高生
主人公は、農業高校に通う歴史&地理オタクの女子高生・静子。ある日突然、戦国時代へタイムスリップした彼女の前に現れたのは、なんと織田信長。「どうにかこの時代で生き延びねば」と考えた静子は、信長に「農業で才を示す」と約束する。そこで任されたのが、年貢を十分に納められないほど疲弊した村の立て直しだった。
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「普通の女子高生」なんて、とんでもない
静子は、自分のことを「ごく普通のいわゆる一般人であり、農業の知識と実践経験がそこそこある程度」と考えている。……いやいや、どこが普通なのか。祖父の家で農作業を手伝った帰りだった静子の手元には、サツマイモやカボチャ、スイートコーン、トマトなどの種や苗がある。彼女はそれらを使って、荒れた村の農業を立て直していくのだが、その手際がとにかくすごい。畑を見れば、土地の傾斜によって土の栄養が流れ出していることを見抜き、整備する農地を絞り込む。現代なら買えば済む堆肥や腐葉土も、戦国時代にはない。ならばゼロからつくってしまう。しかも、その知識は農業だけにとどまらない。天然の湯を見つければ、ろ過器を設置して湯船をつくり、害獣に悩まされれば対策を考え、さらにはオオカミまで飼いならし、養蜂にも挑む。何かが足りなければ、手元にあるものでどうにかする。欲しいものがなければ、つくる。「そんなことまでできるの?」と静子に驚かされながら、気づけば「今度は何を生み出すんだろう」と楽しみになってくるのだ。
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信長の無茶振りに「どうする、静子?」
それにしても、静子は肝の据わり方からして違う。突然戦国時代へ放り込まれたというのに、取り乱したのはほんの一瞬。すぐに生き延びる方法を考え、信長を前にしても物怖じしない。
そんな静子の「才」に、信長も惹きつけられていく。しかも、彼女が成果を出せば出すほど、課される仕事は大きくなる。ひとつの難題を突破すれば、また新たな難題。ひとりに課すノルマとしては、いくらなんでも高すぎやしないか。それでも、私たちは期待してしまう。心配するより先に、「今度はどうする、静子?」と次の一手を楽しみにしてしまうのだ。
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信長の運命は静子によってどう変わるのか
そんな静子を認める信長の姿もまた魅力的だ。女性が自由に意見を述べ、能力を発揮することが難しかった時代にあっても、信長は古いしきたりより、その人間に「才」があるかどうかを見る。だからこそ、現代からやってきた女子高校生にも容赦なく結果を求める。静子の正体は知らなくても、その能力は見逃さない。
そして読み進めるほど、静子だけではなく、信長の行く末まで気になってしまう。国をひとつにまとめ、その先には南蛮や明を超える国にしたいと夢を語る信長。だが、私たちも静子も、信長が夢半ばで謀反に遭い、その人生を終えることを知っている。それでも、静子という本来いるはずのなかった存在がそばにいれば、その運命すら変わるのではないか。そう期待してしまうのはいけないことだろうか。
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まだまだ、静子には隠された引き出しがありそうだ。農業だけでなく歴史や地理にも詳しく、ミリタリーオタクの姉から得た知識まである。農村を立て直すところから始まった物語は、やがて国を、ひいては歴史そのものを動かしていくのではないか。
歴史好きなら、読まないままなんてもったいない。武力ではなく、知識で戦国の世を駆け上がっていく最強の女子高生。その活躍と、彼女によって変わり始める信長の運命を、ぜひともあなたも追いかけてほしい。
文=アサトーミナミ
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