※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年9月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。
イラスト=千野エー
[読得指数]★★★★★
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

誰かと話したくなる現代病との奮闘記
他人と関わる上で、今の科学技術は欠かせない。でも、多くの人がその生活を便利にするためのものに、かえって振り回されてしまってはいないだろうか。
主人公の野上もその一人で、仕事のチャット通知に追われ眠れなくなる。私も、睡眠に不調を感じているのでその辛さが分かる。そして、解決するために色々な方法に手を出す野上の姿は、およそ他人事とは思えなかった。
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野上は我々と同様に、現代社会に揉まれ、気づかないうちに疲弊していく。自分で自分の調子を整えることを押し付けてくる息苦しさ、ポジティブに生きようと推奨してくる社会の圧力。それに、知らぬうちに受け身で身を削っているのだ。そして、読み進めるうち、野上を通じてそれに抗おうとも思えた一冊だった。
芥川賞候補作なのに、ユーモアに富んでいて堅苦しさもなく読みやすいのもオススメの理由の1つだ。
文芸/小説
不眠症との奮闘度
★★★★★

現代の結婚に切り込む祈りと叫びの物語
現代の結婚に正面から向き合って書かれた5つの短編小説だ。
恋愛や結婚生活の中に社会問題を詰め込み、それでいて登場人物の一方だけを悪者にして否定しないのがこの小説と作者の良さだと感じた。
描かれるリアルな都会の生活の生きづらさにこの辛さは自分だけではないと思える読者もきっと多いはず。
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5つの短編の順番も秀逸で、最初の章は人の優しさを感じつつ、最後の章を読む頃には、作者の私達に向けた別のメッセージを感じると思う。
他人と上手に関わっていくことは難しい。結婚生活なんて尚更だ。価値観の違いをどう許容し、どう向き合っていくのがいいのか。自分はどうあるべきで、どう生きていくべきなのだろうかと考えさせられるだろう。
そして、登場人物の価値観が変わる過渡期を見て、人間って死ぬまで変わっていくもので、変わらないものなんてないのだなと実感する一冊だった。
文芸/小説
結婚の気づきを与えてくれる度
★★★★★

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。
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歌舞伎町が今の日本を象徴している
インバウンド客が熱心に撮影する日本の風景を見るのが好きだ。そしてここ数年、大挙して押し寄せる彼らが熱心に探索するスポットがある。歌舞伎町だ。時には家族連れが、夜のネオン街を歩く姿もあり、ぎょっとするわけだが、果たして自分は何にぎょっとしているのか、自分はそこまで歌舞伎町を知っているのかと疑問に思い、手にした一冊。トー横、立ちんぼ、半グレ、メン地下、トクリュウ……目にしたことはあるものの、今まで完全に理解していたとは言いがたい歌舞伎町の実態が実に詳細に描かれている。著者がインタビューしたヤクザが言った「普通に道を歩いているんだったら裏の道を覗こうと思わないことだね」という言葉が歌舞伎町を言い表していると思う。歌舞伎町の真実を理解したい読者にはうってつけの一冊だ。それにしても、日本の未来はどうなっていくのだろう。自分には所詮遠い世界だとは思わない方がいいかもしれない。
文芸/ノンフィクション
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本当の歌舞伎町を理解できる度
★★★★★

やっぱり紙がいいですよね
本業は英日翻訳家のため、洋書を頻繁に購入する。そして購入するときはほとんどの場合、電子書籍で買う。理由は検索機能が便利だからだ。いざ翻訳作業に入ると、この機能が何よりありがたい。そんな私だが、これぞという勝負本(?)は紙で買う。理由は、紙の本の雰囲気が好きだし、本をモノとして考えたときに、実際に手に取って何度も味わうようにして読める紙が最高だと思うから。著者リンボウ先生も紙の本が断然お好きなようで、なぜ紙がいいのかという理由が8章にわたって説得力のある筆致で書かれていて、頷きながら、ちょっとクスクスと笑いながら読んだ。実はリンボウ先生に白状しなければならないのだが、私は本書を電子書籍で購入した。締め切りが迫っており、急いでいたからだ。しかし後日、しっかり紙で買い直した。急ぎの原稿がない日の午後に、寝転がってゆるゆると読み返したくなる日がきっと来ると思える一冊だったから。
文芸/エッセイ
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やっぱり私も紙をオススメします度
★★★★★

本間 悠
ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

犯人を追い込んだのは何か。ゴミたちの叫びを聞け!
「本が高いんじゃない 給料が安いんだよ」とポストして万バズしたのは2021年のことだ。あれから5年、本をはじめ、物価はじわじわと上がり続け、給料は横這いのまま。生活は苦しくなる一方で、今日明日行き詰るわけではないが、やがて訪れるであろう“限界”にぼんやり怯える日々を過ごしている。
そんな暮らしの延長線上にあるのが『氷河期のゴミ』だ。1970〜1985年頃に生まれ、バブル崩壊後の不況と、第二次ベビーブームの人口過多が重なり、企業の採用枠が極端に絞られた時代に就職活動を経験した氷河期世代の悲哀を描いた、ひたすら切実で重厚な社会派ミステリである。氷河期世代が歩んできた社会情勢を振り返りながら、何が彼らを凶行に追い込んだかに迫る。同世代の私は、思わず犯人たちに感情移入してしまったし、“人生を返せ!”との訴えに共鳴せずにはいられなかった。社会の理不尽さを感じている全ての人に届いてほしい。
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文芸/小説
政治に無関心ではいられない度
★★★★★

ちっちゃいけれど超本格。○○すら伏線、さぁ驚け!
背筋氏の『口に関するアンケート』、知念実希人氏のスマホ型小説『スワイプ厳禁』『エゴサ厳禁』など、変わった判型の小さな本が増えている。その薄さと手軽さゆえか、若い世代の読者を中心によく売れている印象だ。そしてまた一つ、新たな“小名作”が誕生したので紹介します!
話の内容もぶっ飛び気味、出てくる名称も超ヘンテコ。速読術セミナーを経営する男が殺されるのだが、目撃者は、彼を地球に潜入する宇宙人だと信じている調査員の少年だ。もうこの時点で意味不明だと思うが、読み終えて納得、ちゃんとした(?)推理小説だ。1ページ当たりの文字数も少ないので、一般的な単行本であれば3、40ページくらいだろうか。短編だが行きつ戻りつして推理の過程を楽しめたし、この本で無ければ……! という見事なオチすら待っている。話題作りのためにおかしな判型にしただなんて思って、申し訳ありませんでしたっ!
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文芸/小説
ブックカバーが難しい度
★★★★★

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

時代のセットアップから「言語化」を考え直す
YouTubeやラジオで、映画やドラマの批評を行う大島育宙の初の著書だ。挑発的なタイトルの通り、コンテンツに関する感想をどう紡ぐかがテーマになっている。ただし、その具体的な方針は中盤以降だ。本書はまず、なぜ感想がふつうになりがちなのか、その原因を現代の時代背景から明らかにする。SNSの台頭、文章が金銭と直結する仕組み、そして考察ブームなど、当事者だから見える時代の特性を簡潔に整理していく。それを一言で言えば「感想検索病の時代」だ。
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他者の感想を検索しがちな現代、著者はむしろそれを肯定していく。徹底的に調べることで、感想のテンプレや傾向が見えたり、翻って自分独自の視点が浮き彫りになると言う。つまり本書は、短期的な小手先のテクニックではなく、時代の必然性を見定め、情報が氾濫した現代の中で、感受性を守り育てる長期の成長を促す。言語化はそれらの最後の一端に過ぎない。
文芸/エッセイ
一歩立ち止まれる度
★★★★★

能登半島は端っこなのか?
教養や人文知が喧伝される際、その筆頭に上がるのは歴史か哲学である。だが地理を忘れないでくれと言いたい。歴史は繰り返すとは言え、政治制度や社会制度の耐用年数はせいぜい数百年。ところが地理は数千年から数万年単位で変わらない、暮らしのセットアップである。言うなれば、地理は「世界の定数」だ。
本書は、地理から日本を見る。例えば我々は日本地理について、鉄道網で捉えがちだが、歴史的には海路も重要だ。大阪京都を中心に、北海道や北陸、山口の沿岸部を船で結ぶ北前船という交易船が存在した。その目線に立つと、陸路では端に位置する能登が重要拠点になるし、離れて見える地域が結びつく。更に気候で見ると、鹿児島と静岡は極めて似た特徴や特産品を持つことも分かる。このように本書では、地理によって、日本地図の見方をガラリと変えてくれる。切り口が面白く、情報も充実しており、おすすめ。
論考/地理学
地図アプリを開きたくなる度
★★★★★
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