
「昭和」の思い出深いTV番組として『8時だョ!全員集合』は欠かせない。毎週土曜8時に公開生放送で繰り広げられたドリフターズのお笑いバラエティ。金タライが上から落ちてきたり、コントの最後に舞台が総崩れになったり、いきなり加トちゃんのお色気コーナーが始まったり、コントに登場したのが大人気アイドルだったり…今では考えられないスケールのコントを、毎度、ホールを借り切って生放送していたのだから驚きだ。あの時代を知っている人なら、いくつもの名場面&みんなで笑い転げた風景を思い出すだろう。
ポプラ新書の新刊『ドリフターズと全員集合から学んだ流儀』(園田憲/ポプラ社)は、そんな全員集合の「最後の現場」に立ち会ったTVマンによる一冊だ。著者の園田憲氏は1985年のTBS入社早々から当時社内で「地獄」と呼ばれていた『全員集合』に配属、下っ端ADとなる。その後『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』『さんまのSUPERからくりTV』などでTVマンとしてのキャリアを築き、今では普通になった「市井の人々を主役にしたバラエティ番組」の基盤を作った人物だ(のちにTBS取締役、関連企業の社長などを歴任)。
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本書にはそんな園田氏が『全員集合』の現場でリアルに体験したびっくりエピソードが盛りだくさん(舞台資料など貴重な資料も豊富だ)。6月の配属からのわずか4カ月とはいえ、園田氏が寝る間もなく没入せざるを得なかった現場の「濃さ」にはひたすら驚かされる。
ハードワークを「日本一の面白いものを作る」という熱意にかえた「現場の力」
一番の驚きは、やはりその驚異的なスケジュールだろう。基本的に「週一で大型セット(しかも危険)を用いたコント。1回きりの生本番」なので、当然出演者以外のスタッフも多く、お金のかかり方だけでも相当だが、なによりこんなハードな現場を毎週、しかも1969年から85年まで延べ16年間続けていたというのだからすごい。基本的にはネタ1本ができあがるのに10日間。放送前週の木曜日のネタ作りから1週間でセットほかの仕込みを完了、金曜日に立ち稽古、翌日に本番。なお仕込み中にその次の週の企画が同時にスタートする。
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こうして書くのは簡単だが、リアルに人が動く様を想像すると驚くべきハードさだ。こんなことがなぜ可能だったのかといえば、大変さを「苦労/負担」と捉えるのではなく、人と人とが本気でぶつかり合いながら「日本一の面白いものを作る」という熱意にかえた「現場の力」があったからにほかならない。働きすぎ防止でハードワークがしにくい現在では信じられないが、かつてはこんな苦労を、むしろ「やりがい」にしてきた人々がいたのだ。
著者の園田氏もそのひとり。本書には彼が現場でたたきこまれた鉄則が紹介されているが、実はその中には今にも通じる仕事のヒントがたくさんつまっている。そのため本書は秘話の回顧にとどまらず、チーム論、リーダーシップ、競争戦略、イノベーション、人材育成の視点で『全員集合』を読み解いていくという意欲的な一冊になっている。
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本書を書く上で、著者がこだわったのは「未来志向」。単に「昭和生まれの武勇伝」で終わることなく、いまどきの時流に当時学んだ現場の教訓を当てはめ、人生の先輩として「どうすれば自分にプラスになるか」と仕事の流儀を指南する。「ワークライフバランス」は大事だけれど、もう少し先を目指したい――そんな気持ちがある人には、大きな刺激にもなるはずだ。
文=荒井理恵
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