※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年10月号からの転載です。

目当ての本がなくても、フラット書店に立ち寄るという奥さん。この本との出会いも、偶然の産物だった。
「魚が好きなので、魚に関する小説や専門書がないかなと思って。そんな中、ふと目に入ったのが『窓の魚』という恋愛小説でした」
登場するのはふた組のカップル。だが、互いの思いはすれ違っている。
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「それぞれに欠落があって、どこか乾いていて。つかみどころがないからもっと知りたくなるし、時には不気味に思えて突き放したくもなる。そそられる書き方で人間の暗部を表現していて、西さん独特の感性が色濃く表れていると思いました」
中でも印象に残っているのは、心と体に傷を抱えるアキオ。
「恋人のナツから見たアキオは、少し子どもっぽいけれど優しい彼氏に見えます。でも、アキオ視点の章では、違った一面が見えてくる。その裏切りにぞわっとしましたし、タイトルを象徴する人物だとも思いました。水槽にいる魚と同じように、彼はガラス1枚隔てた向こう側の他者を拒絶すると同時に、他人と相容れない疎外感や孤独も感じている。読後にほの暗い余韻が残りますが、読みやすいので多くの方に手に取っていただきたいです」
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そんな奥さんが、映画『八つ墓村』に出演。Huluオリジナル『十角館の殺人』での演技が評価され、物語の鍵を握る井川辰弥役に選ばれた。
「何度も映画化された名作ですから、並みの覚悟では務まりません。最初はプレッシャーも感じましたが、僕なりにできることを精一杯やろうと思って臨みました」
母親の訃報を受け、自身が莫大な遺産の相続人だと知った辰弥は八つ墓村へ。探偵・金田一耕助とともに連続殺人事件に巻き込まれていく。
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「辰弥は就職先も決まらない、無気力な大学生です。あくの強い人物が次々に登場するので、新鮮なリアクションを大事にしながら演じました。撮影の合間には、滝藤賢一さんとふたりでお話しする機会もあり、忘れられない幸せな時間になりました」
完成したのは、舞台を現代に移した令和ならではの『八つ墓村』。
「村人が扇動されて屋敷に雪崩れ込む場面では、SNSが発達した現代らしい集団心理の危うさを感じました。謎解きの面白さ、人の怖さ、村のおどろおどろしさもありつつ、人とのつながり、家族愛なども感じられます。いい意味で予想を裏切る作品に仕上がったので、気軽にご覧いただけたらうれしいです」
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取材・文:野本由起 写真:TOWA
ヘアメイク:八十島優吾 スタイリング:村留利弘
おく・ともや●2004年、神奈川県生まれ。20年、俳優デビュー。24年、Huluオリジナル『十角館の殺人』でドラマ初主演を務める。『時計館の殺人』でも主演。他の出演作に、ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』、『君は夏のなか』など。10月から放送のドラマ『俺たちの箱根駅伝』に出演予定。

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『窓の魚』
(西 加奈子/新潮文庫 605円(税込)
温泉宿で一夜を過ごす、ふた組の恋人たち。静かなナツ、優しいアキオ、かわいいハルナ、無関心なトウヤマ。彼らはそれぞれに深刻な欠落を隠し合っていた。決して交わることなく、お互いを求め合う4人。そして翌朝、宿には何者かの死体が……。静寂に満ちた、美しくも孤独な恋愛小説。

映画『八つ墓村』
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原作:横溝正史『八つ墓村 金田一耕助ファイル1』(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:清水 崇 脚本:尾ヶ井慎太郎、清水 崇
出演:尾上松也、奥 智哉、堀田真由、高島礼子、滝藤賢一ほか
配給:松竹、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 9月18日より全国公開
●大学生・井川辰弥のもとに舞い込んだ母の訃報。奇妙な探偵・金田一に誘われ、岡山県山奥に潜む「八つ墓村」を訪れたことから、封印されたルーツと怨念の記憶が目を覚ます。
©2026「八つ墓村」製作委員会 ©Yokomizo Seishi/KADOKAWA
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