※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年10月号からの転載です。

幼なじみが子どもの頃のタイムカプセルを掘り返すため、地元の寺を偵察したら、やっぱり幼なじみでまじめだったはずの跡継ぎ娘がギャルメイクでマルシェで法話をしていた。いったい、どうしたら、そんなつかみが抜群の設定ばかり思いつくのだろう。
「実を言うと、あんまり覚えていないんですよ」と宮島さんは苦笑しながら首をひねる。
「KADOKAWAで出すならエンタメ色の強いものがいいなと思ったときに、ふと、寺が舞台で若い尼さんが出てきたらおもしろいかなと思いついたんじゃないかな。そこから打ち合わせを重ねるうち、埋蔵金が出るのはどうか、ラブコメもありだねという話になり、全部詰め込んだのが第一章の『ひかるリザードン』。書き終えた時点でも、まだどういうお話にするかは決めていなかったんだけど、『成瀬』シリーズの舞台ともなった私の地元、大津ではいろんなお寺でマルシェが行われていて、それを舞台にしたことで、地方を描くというこれまでと変わらないテーマが根を張ってくれたと思います」
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実家の寺を有名にするため、マルシェに人を集めようとするのが、ギャルの跡取り娘・真実子、通称まみたん。〈お寺は人をつなぐ場所だからね。縁日もマルシェも同じようなものだよ〉と彼女が語る場面には、なるほど、とうなずかされる。
「大津には紫式部ゆかりの石山寺があり、座主は30代の女性。ギャルではないし、まみたんのモデルでもないんだけれど、取材させていただきました。お父さまが亡くなったのをきっかけに跡を継がれたそうですが、会社勤めをした時期があったり、ストレートに僧侶になろうとしていたわけではなかった。ただ、寺の娘として生まれ、あたりまえに育ったその場所に戻ってくるのが自然だと思えた、と語る彼女の感覚は、参考にさせていただいています。商店街にも二代目、三代目として家業を継いでいる人は多く、みんな、大きく反発するでも迎合するでもなくあたりまえにそこに着地することを受け入れている。それもまた地方で生きることの一つの姿だよな、と」
主人公の英介も、酒屋の三代目。真実子との再会では、男女の惹かれあい以上に、地元を支える同志としての絆が育っていく。
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「幼なじみって響きは甘酸っぱいし、そのために出したワードではあったけど、生まれたときから同じ地域で育つということはそれ以上の何かが育まれるはずだし、ラブコメという体裁をとらなくてもおもしろくなるはずだという確信が、書きながら生まれたんです。そういう意味でも、地方に住む私だからこそ描ける小説になったんじゃないでしょうか」
思いつきの行動が自然と必然につながっていく
そんな二人をふりまわすのが、かつてタイムカプセルに入れたポケモンカードに今や数十万の値がついていると知って地元に帰ってきた光司である。が、埋めた場所は覚えておらず、本来の目的を棚上げしたまま、マルシェで占い師商売をはじめたり、まみたんグッズを売ったりと、好き放題しては英介たちをふりまわす。
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「私の原点に『こちら葛飾区亀有公園前派出所』があるという話は、以前『ダ・ヴィンチ』でもさせていただきましたが、光司はいわば両さん的存在なんですよ。突然ふらっと帰ってくるところは、『男はつらいよ』の寅さんみがありますが、行き当たりばったりのわりには勝負勘が強くて、占いを勉強すれば思いのほか上手に習得して儲けを得られてしまう。とんとん拍子と思いきや、思わぬ騒ぎに巻き込まれて痛い目を見てしまう、というところは、まさしく両さん。彼のキャラクターが確立してくれたから、私自身、行き当たりばったりながらに小説として組み上げていくことができたんだと思います」
〈人生はたまたまの積み重ねなのよ〉と光司が占いを始めるきっかけとなった女性が言う。思いつきの行動で呼び寄せた偶然を、必然に変えていくのが光司の強さであり、そして巻き込まれながらも逃げずに立ち向かう英介や真実子の魅力でもある。
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「もちろん、最初からしっかり考えて計画どおり物事を進められるのがいちばんだし、努力が報われる過程も美しい。だけど、私自身、『成瀬』シリーズが売れたのは努力だけじゃない、偶然の力も大きいと感じているからこそ、物語においても行き当たりばったりの大切さを感じているのかもしれません。そして、その偶然を呼び寄せるのに、寺マルシェという場はぴったりだったんですよね。これも石山寺の座主さんから聞いたことですが、貴族だろうと庶民だろうと関係なく詣でる場である寺は、昔から出会いの場でもあった。それもあって、真実子のギャルメイクには実は人探しの意図がある……という別の物語軸をつくったのですが、人と人との人生がつかのま交差する寺の魅力を、いろんな角度から描いてみたかったし、寺を介してだから浮かびあがる人の魅力というのもあるんじゃないかと思いました」
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最後の一文にたどりついて自分は大丈夫だと思えた
『成瀬』シリーズ同様、本作が魅力的なのは、光司にふりまわされ、真実子に心ひかれながらも、英介が誰にも依存しないことである。あくまで淡々と、自分のペースを守りながら日々の平穏を守ろうとする英介が、実はいちばん強いのかもしれない。
「たぶん私自身が、我が子を前にしても一定の距離をとろうとする人間だからかもしれませんね。人の感情はあやういもので、よかれと思ってしたことがうまくまわるとは限らないし、まっすぐな気持ちをそのまま受け止めてもらえるとも限らない。愛しすぎて、過干渉になることもある。自分自身のことも含めて、人間というものをあまり信用していないから、小説で描く人間関係にもどこか淡々とした距離感が生まれがちです。でも、それでも誰かと関わろうとしたり、自分が大切にしていたものを手放してでも誰かに寄り添おうとする姿にぐっとくるんじゃないかとも思うんですよ。現実ではそうそううまくはいかないことも、力強いハッピーエンドとして描けるのが小説のよさだし、物語に浸っているときくらいは、現実の生きづらさも忘れてしまうような軽さで、ただただ楽しんでもらいたい。それが私の作家性なのだとしたら、そういう物語もこれからも描いていきたいと、今作を通じて改めて感じました」
昨秋、宮島さんと会う機会を得たとき、ふと「『成瀬』シリーズが完結して、書くモチベーションが見つけられずにいる」とこぼしていた。だが今作を読むと確信できる。宮島未奈は、まだまだこれから。日常の陰鬱を吹っ飛ばすような物語を、どんどん描き出してくれるはずだと。
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「あのときはまだ二章までしか書けていなくて、体調も崩し気味で、気分が落ちていたんですよね。でも駆け抜けるように今作を書き上げ、最後の一文にたどりついたとき、私は大丈夫だって思えました。『成瀬』シリーズがあまりに売れて、他の作品がかすんでしまうのもさみしかったんだけど、私にとってはすべてが同じくらい大切で愛おしい作品。『成瀬』はもう別枠の存在として、今作を『婚活マエストロ』『それいけ!平安部』に続く三作目だと考えると、上々な仕上がりじゃないかなとも思うんです。一作ごとに作家として成長しているのを感じるし、いずれはもっと長い小説も書いてみたい。地方に根差すというテーマを抱き続けるためにも、子どもが大きくなったら東京に住んで、都会で暮らすまなざしも得てみたいですが、まずは、ギャルという言葉に敬遠せず、みなさんに今作を読んでほしいですね。胸を張って自信作といえる作品が出せたことに、今は幸せを感じています」
取材・文:立花もも 写真:山口宏之
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みやじま・みな●1983年、静岡県生まれ。地元・滋賀県大津市を舞台にした「ありがとう西武大津店」で女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞し、同作を収録した『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。同作は坪田譲治文学賞、本屋大賞を受賞し、続く二作をふくめシリーズ累計250万部突破。

『ギャルにひかれて寺マルシェ』
(宮島未奈/KADOKAWA) 2035円(税込)
父が亡くなり、酒屋を継いだ30歳の英介。やる気もなく、なんとなく日々を過ごしてきたところに、腐れ縁の幼なじみ・光司が突然現れ、寺に埋めたはずのタイムカプセルを掘り起こすという。出禁を喰らっている光司にかわり、寺に偵察にいった英介は、ギャルメイクで法話を行う幼なじみで寺の副住職の真実子と再会。そこから英介の日々は、騒がしくも色づき始める。
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