
こんなに情け容赦なく「ヒロインが選ばれない」なんて、ありなのだろうか。「間違いない。君が、僕の、唯一の伴侶だ」――池に落ちた女子高生に、美しい御曹司がそう告げた……かと思いきや、彼が抱き上げたのは別の女の子。ヒロインは誰からも心配されぬまま、無様な姿で池の中に取り残された。選ばれなかった。期待もされなかった。そんな彼女に手を差し伸べたのは、同じく「落ちこぼれ」と呼ばれる中学生ほどに見える少年。けれど、この少年も、ヒロインも、どうやらただものではない。
そんな先の読めない展開が続くのが『宵を待つ月の物語』(富士見L文庫/KADOKAWA刊)。『わたしの幸せな結婚』(富士見L文庫/KADOKAWA刊)で知られる顎木あくみによる、引力の強い現代和風ファンタジーだ。
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「出来損ない」の少女が、神がかりの力をもつ「まれびと」に
舞台は、怪異を退治・管理する神祇官の一族・社城家が絶大な権力を持つ、現代のある町。高校2年生の坂木夜花もその血筋だが、術師の才能に恵まれず「出来損ない」とされてきた。両親を亡くし、祖母ともわかり合えず、どこにも居場所を見いだせない夜花は、ある時「変わりたい」と異界で差し出された水を飲み、神がかりの力を持つ「まれびと」となる。その「護り手」となったのが、社城家では序列外の「落ちこぼれ」とされる千歳だった。
最新第2巻では、夜花たちは怪奇現象が相次ぐ廃村・酒坏村を調査する。そこは偶然にも祖母の故郷。しかし村は邪気が濃く、夜花は足を踏み入れることすらできない。引き返そうとしたそのとき、どこからか彼女を呼ぶ声が聞こえてきて……。
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「期待外れ」だった夜花が、どんどんカッコよくなる
この物語の大きな魅力は、なんといっても夜花だ。夜花は、「変わりたい」と「まれびと」になったものの、すぐに強大な力を得たわけではない。同じ頃に「まれびと」となった同級生は、御曹司からみそめられた上に、早くも目立つ能力を発現。一方、夜花に現れたのは怪異を見る力くらいだ。ところが千歳によれば、夜花は「能力が強すぎて、いっぺんには発現しない」大器晩成型なのではないかという。ならばと、体力作りから始める夜花の努力家ぶりもいいが、何より惹かれるのは、力が足りなくても、怖くても、誰かを守るために進んで前へ出るところ。怖い。逃げたい。それでも夜花は「このままでいいのか」と自分を奮い立たせ、仲間を守ろうとする。誰かに選ばれるのを待たず、自分で選び、自分から変わろうとする夜花は、なんてカッコいいのだろう。第2巻では未知数だった能力も少しずつ姿を現し始め、ますます目が離せなくなる。
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少年にも美青年にもなる最強ヒーロー。なのに恋には不器用!?
そして夜花を支える千歳がまた、なんとも“業の深い”ヒーローなのだ。千歳は、普段は中学生ほどに見える美少年で、黒い学ランに学帽、マント、高下駄。長い黒髪に赤い鳥居の耳飾りという妖しげな姿をしている。その正体を知る者は多くないが、実は千歳は不老不死の呪いを負う存在。新月の日だけ本来の大人の姿へ戻れば、息をのむほどの美青年。その力も桁違いで、社城家では「生ける伝説」と呼ばれるほどだ。少年の可愛さと大人の色気、圧倒的な強さ。これほどの魅力を一人で兼ね備えるなんて、反則にもほどがある。
だが、千歳は人間関係には不器用。当初は夜花なら自分の呪いを解けるかもしれないと、その力を利用する思惑もあった千歳だが、やがて彼女自身を放っておけなくなり、二人は「互いを互いの居場所にしよう」と約束した。ところが第2巻では、千歳は夜花を危険な世界に縛りつけたくないからこそ距離を置く。
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引用----
「私が訊きたいのは――千歳くんは、私をどうしたいの?ってこと」
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守られるだけでは嫌な夜花と、大切だから遠ざけたい千歳。互いを思うがあまりすれ違う二人が、なんともじれったい。
恐ろしくも美しい。日本神話と怪異が織りなす世界
二人が出会う怪異は、その姿も性質も一様ではない。手のひらに乗る雪うさぎのような愛らしい怪異がいる一方、第2巻では、廃村を覆う真っ黒な靄、その中に浮かぶ無数の顔、巨大な純白の大蛇など、不気味で幻想的な存在が次々と現れる。さらに、「黄泉戸喫」をはじめ、夏越しの大祓、茅の輪など、日本神話や神道、民俗学のモチーフが自然に溶け込んでいるのもこの作品の魅力。恐ろしい。それなのに、次はどんな怪異が現れるのかとページをめくる手が止まらない。
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不気味な怪異にぞくりとし、怪異との戦いには心臓をどくどくと脈打たせられる。かと思えば、夜花と千歳のすれ違いにはやきもきさせられ、ときにキュンとする。けれど何より見届けたいのは、「落ちこぼれ」だった夜花が、どんな未来を自分で選び取っていくかということ。ページを閉じたそばから、もう続きが気になってたまらない。この宵の先には何が待っているのか。神と人と運命が交錯するこの物語を、どうかあなたもひもといてみてほしい。
文=アサトーミナミ
『宵を待つ月の物語』特設サイト
https://promo.kadokawa.co.jp/lbunko/special/yoimachizuki/
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