
愛美は夫・賢二とごく普通の夫婦として、幸せに暮らしていた。しかしある日、突然賢二の両親が事故に遭い、義父が亡くなる。悲しみに暮れる中、義父の葬儀に現れたのは怪しげな男。その男は、夫の兄・聡一だった……。聡一という兄がいること、聡一は高校生の頃から引きこもっていることを愛美は初めて知る。義家族はなぜ聡一の存在を隠していたのか?
『隠された家族』(のむ吉:著、小瀬古伸幸:監修/KADOKAWA)は統合失調症を患う兄をめぐり、家族がどう向き合っていくかを描いた物語だ。本作を監修した精神科認定看護師の小瀬古伸幸さんにインタビュー。精神疾患を抱える家族のサポートにも力を入れる小瀬古さんに、家族が抱えている問題とその解決の糸口、精神疾患に関する近年の研究成果についてまで、広くお話を伺った。
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※統合失調症をはじめとした精神疾患の進行や症状は個人差がありますので、詳細は医療機関等にご確認ください
――小瀬古さんは本作のあとがきも書いていらっしゃいますが、そこに「家族が援助を求める場がなければ、この問題は根本的には解決していかない」と書かれていましたよね。“家族が援助を求める場”というのはどんなところのことでしょうか?
小瀬古伸幸さん(以下、小瀬古):まずはどの都道府県にもある精神保健福祉センターが、その役割を担っているのかなと思います。ただその存在自体があまり普及しておらず、多くの方は保健所や市役所の障害福祉課などの、精神保健を担当する窓口へ相談に行かれます。そこで「本人を病院へ連れて来てもらわないと何もできません」と言われてしまって、「今の段階では相談しても無理なんだ」と諦めて帰ってしまうケースが少なくないんです。もう一つ、もっと知られてほしいと思うのが家族会です。統合失調症の家族会は、全国各地にあります。同じ経験をしている方がたくさんいるので、「自分だけじゃない」と思えることがまず大きいですね。
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――家族の方同士がお話しする場ということですか?
小瀬古:そうですね。「こういう時はこうしたほうがいい」「先生にはこういう伝え方をするといい」「精神保健福祉センターではこう相談すると動いてもらいやすい」という実践的なアドバイスや「このクリニックの先生なら相談しやすい」といった同じ地域に住む方ならではの情報をたくさん持っています。電話相談を定期的に受け付けているところや、緊急相談に対応しているところもあります。家族会の存在はもっと広く知られてほしいですね。病院が独自に家族会を運営しているところもあります。
――同じくあとがきに「家族も自分の人生を生きていい」とも書かれていました。
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小瀬古:本人の症状がある程度落ち着き、自立して生活できるようにならないと、ご家族もそう思える段階にはなかなかなれません。ただ、家族支援をしっかり学んでいる支援者は、ご家族自身の目標や、本当はやりたかったこと、ご本人とどんな関係を築いていきたいのかということまで一緒に考えます。
特に本作のようにお子さんに精神疾患がある場合、親御さんの中にはご自分を責める方が少なくありません。でも、一生懸命お子さんを支えてこられたということは、その時その時で最善を尽くしてこられたということなんです。それをお伝えした上で、「ご本人のことももちろん大事だけれど、ご家族自身はこれから5年後、10年後、どんな人生を送りたいですか」とお聞きするようにしています。「友達とお茶に行きたい」「旅行に行きたい」などの思いを整理しながらご家族自身の人生を取り戻していく支援をしていきます。
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――なるほど。家族が変わっていくことで患者さんにも変化はありますか?
小瀬古:いい方向に変わっていくことが多いですね。患者さんの中には、自分のせいで家族に迷惑がかかっているという罪悪感がある方もいらっしゃるんですよ。家族の意識が全部本人に向いていたところから変わっていくことで、ご本人も罪悪感から少し解放されるんですね。患者さんの中には「ようやく母が自分の人生に目を向けるようになってくれた」と話してくれた方もいらっしゃいました。
もちろん、本人の回復がある程度進んでいないと難しい部分はありますし、長年積み重ねてきた生活がありますから、いきなり「今日から自分の人生を生きましょう」と言われても受け入れられません。ご本人の回復段階を見ながら、ご家族との関係を築き、少しずつ「本人中心」だった意識をご家族自身の人生にも向けられるよう支援していくことが大切だと思っています。
取材・文=原智香
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