
テレビ東京入社4年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。
こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて…。
また出会ってしまった。
「まるで映画の世界に迷い込んじゃったみたいだ」
私はなぜ、この類の映画のセリフが苦手なのだろうか。
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「映画の世界だろ!」と冷静に思う。映画の中の登場人物が、映画の世界に迷い込んだと言っている。期せずして、映画in映画のメタを見せられた。
だが、作り手はそんな安易なメタを意図していないだろう。非日常的な事件に巻き込まれた登場人物の動揺を、分かりやすく描写しているだけである。このセリフはむしろ、観客はすでに作品へ完全没入しているから何ら違和感を覚えない、という強気な前提のもとに成り立っている。映画を観ている意識が吹き飛び、虚実の境目に無頓着になっている、と決めつけている。観客としての私は、「そこまでのめり込んでないよ」とささやかに反発したくなるのだ。
「これが小説の中の出来事だったら、どんなに良かっただろう」ないし、「事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ」という小説の一文も同様にかなり厳しい。私は、フィクションと現実を錯誤しない分別を持っている。読みながら家を出て交差点を渡ったり、そのまま電車へ乗り、登場人物と間違えて居合わせた誰かに話しかけたりはしない。その限りで、「小説の中だろ!」とつっこみたくなる程度に私のメタ認知は生きている。
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作品自体が嫌いになるまでの激烈な拒絶反応ではない。ただ、映画in映画系のフレーズに遭遇すると、途端に寂しくなる。作り手との疎遠な距離を感じる。観客が虚実の区別を失うほど熱中している、と疑わない無邪気な自信にけおされる。自分の全てが承認されていると信じて過ごしてきた人生観が透けて見えて悔しい。
私が高校生の頃、昼休みに教室の机を大移動して手巻き寿司パーティーを開いていた七人組みたいなタイプなんだろうなと思う。各々が家から具材を持ち寄り、立食バイキング形式で青春する。クラスの残り三十五人は、肩身狭そうに、静かに個の弁当を食う。私は、迷惑だとは思っていない。己の立ち食い青春が世界に承認されない、ひいては世界的にすべっている可能性を恐れないポジティブさが眩しい。私は、弁当にカレーを持ってきて、匂いが漂って「カレー?」と周囲に聞かれることに怯えていた。自分のカレーの匂いが世界に受け入れられるかさえ不安である。
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もちろん、フィクションと現実を明確に区別したいわけではない。私が担当しているコント番組も、現実離れした世界を描きながら、人間社会の課題を考えさせられるような読後感を意識している。フィクションと現実の境界など、溶ければ溶けるほど面白い。
あくまで苦手なのは、映画in映画系フレーズの根底に流れるパーティー精神である。ねえ! 楽しんでるよな! 虚実ドロンドロンでしょ♪ と無茶を言って、肩を組んで来られると、つい息が詰まるのだ。
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思えば、世の中は無自覚なパーティー精神だらけである。「隠れ家的レストラン」なら、自分で言わない方がいいと思う。トイレの張り紙の「いつも綺麗に使っていただきありがとうございます」は、厚かましい。家の近所のスーパーで、「8/20は鮮魚部門×レジ部門のコラボスペシャル」という告知があった。知らねえよ、と思った。
そんな私の性格上、担当番組ではあらゆるパーティーな表現を使わないように注意している。例えば、「実験的企画」という打ち出し文言。制作サイドから「実験的」と売り込まれると、「そこまで実験的じゃないよ」と反発したくなる。「実験的」かどうかは、作り手ではなくて、視聴者が判断することである。
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本気じゃなくて実験なんだ、と思われることも絶対に避けたい。私の実験に視聴者を付き合わせてしまうのは、恐縮である。
『アリフォルニアseason1』をご覧になった方はお気付きかもしれないが、笑い声の効果音も使わないようにしている。スタッフの笑い声も禁止している。コント番組では珍しいと思う。ココ面白いでしょ♪ と笑いどころを押し付けない程度の奥ゆかしさは保ちたかったのである。
このパーティーコンプライアンスは、ごく個人的な規制である。
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だがしかし、笑い声を使わない判断も、とてもパーティーなのではないかと思えてきた。笑い声がなくても伝わるでしょ、という自信の表れと捉えられる。いや、正直、そう思っている自分がいる。私の中に眠るパーティー精神が好きじゃない。
牧島俊介●テレビ東京入社4年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』、有田哲平主演、Snow Man深澤辰哉、空気階段鈴木もぐら、ロングコートダディ兎共演のシチュエーションコメディ『アリフォルニア』など。
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