
バスの座席から始まる話題の“ラブ未満コメディー”が『ふたりバス』(豊林サカネ/小学館)だ。1巻は6刷、2巻は4刷と、続々と単行本が重版になっており、ゆっくりとだが着実に人気が高まってきているマンガである。

小さな町の、そのまた奥の地区に住んでいる桧木春平は、バスで地元の中学校に通っていた。同じ便には、小さいころ仲良しで、同じ小学校だったあんちゃんこと高屋川あんも乗り合わせる。ただ、春平と別の私立中学に進学した彼女とは、何年も全く会話をしていなかった。物語は、ある日あんちゃんが久々に話しかけてきたところから動き出す。
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■小さい頃は仲良しだった、今は微妙な関係のあの子は変わったのか?
毎朝のバスでは、春平とあんちゃんのふたりが顔を合わせて静かな時間が流れ、その後春平の中学の同級生(あんちゃんとも同じ小学校)たちが乗り込んできて賑やかになる。同級生の一人は「私立中学のあんちゃん自分たちを見下しているんじゃないか」などと言う。なお、これは悪意というか単純に幼稚な男子あるあるだ。
春平は彼女が変わったとは考えていない。思い出すのは、あんちゃんが誰よりマジメで成績が良く、皆が頼れる同級生だったこと。つまり私立に進学しても不思議ではない。そしてもうひとつ記憶にあるのは彼女の笑顔だった。ただ今のあんちゃんは、バスに乗ると無表情で静かに勉強をしているのだが。
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そしてある日、帰りのバスでふたりが一緒になり、彼らの住む地区にバスが差し掛かったとき、窓の外を見ていた春平は何かに気づき思わず叫んだ。「自販機が無くなってる!」。あんちゃんも「え、嘘!?」と声を上げ「ほんとだ、今朝はあったよね」と話しかけてきた。
全然たいしたことではない会話をかわしたこの日から、ふたりはバスのなかで少しずつ、喋るようになっていく。
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中学生になったあんちゃんは、バスで春平を含む地域の知り合いと乗り合わせても絡まず、静かに座っているだけだった。子ども同士の気まずさがあったかもしれない。でも春平と“どうでもいい話”をするようになった彼女は大きく口を開けて笑う。それは春平が覚えていた、小さい頃と同じ笑顔だった。

彼女は笑った顔がかわいいマジメな女の子のままであった。朝、バスに乗ってこなかった春平を心配したり(ボケっとしていてバスに乗り遅れただけ)、春平のクラスにいるあんちゃんと一番仲良しだった牟田ルルカが学校を休みがちなだといったことを話したりもする。
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もちろん、中学生は変わっていく時期だ。心身ともに成長するし、思春期を迎える。同級生との関係も子ども同士のそれとは違ってくる。ただ、春平とあんちゃんの変化は非常にゆるやかである。『ふたりバス』はゆっくりと進んでいくのだ。
■離れていた距離が近づき感情が動くラブ未満コメディー
本作の魅力は、のどかな地方の空気感と同質の、ゆるやかな物語の進展だ。バスのなかで少しずつ変化するふたりが丁寧に描かれており、毎回読んでいてニコニコな笑顔になる。ここで、そんなふたりの絶妙な感情と距離感を描いたシーンをいくつか紹介する。
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第3話「となりバス」。バスでは、今まで(おそらく中学生になってからずっと)離れて座っていたふたり。ただ春平が話しかけると、あんちゃんは通路を挟んだ隣の席に移動してくる。心が浮き立ったのは春平だけだったのか。

第5話「はながさく」。ふたりの同級生同士が正式に付き合うことになった。春平は妙にテンションが高い。このカップルはあんちゃんとも小学校からの知り合いで、ちょっと嬉しそうだ。彼女は恋する彼らを「中学生なんだなって感じがするね」と表現する。そして「すごいね10年来の知り合いと付き合うとかって」とつぶやく。そのときのあんちゃんは背中を向けていて表情は分からない。
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第11話「そまるいろ」。あんちゃんと子どもっぽい雑談をしていた春平は、ふと彼女よりも背が高くなっていたことに気づく。あんちゃんは靴を脱いで足の大きさも比べ、自分の足で彼の足をちょんとつつく。また幼さの残る笑顔を浮かべて。このとき春平は自分のなかの特別な感情を意識する。身体だけでなく感情も大人に近づいたのだ。

ゆっくりと成長して近づいていくふたりは、簡単に恋に落ちたりはしない。本稿のライターは、そんな春平とあんちゃんにじれったさは感じていない。何なら「まだ恋愛にならないでほしい」とまで考えてしまう。この恋愛手前の何とも言えない関係が読んでいて非常に心地良いのだ。とはいえ、彼らのなかに湧いてくる感情にはっきりと名前がつくことも期待している。2巻以降もゆるやかな変化と優しいドラマは続く。ふたりの乗るバスを、ぜひ一緒に見守ってほしい。
文=古林恭
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