
「小受」。就学前の子どもたちが、名門小学校への入学を目指す小学校受験のことだ。未就学児たちの進学塾とも言える幼児教室の送迎や、親子揃っての面接など、保護者がかかわるタスクの多い小受は、家族全員にとっての戦いでもある。しかし、中学受験や高校受験に比べると受験者は少ないため、小受とはどんなものなのか詳しく知る人は多くないだろう。
『君の背中に見た夢は』(外山薫:原作、たちばな豊可:漫画/KADOKAWA)は、そんな小学校受験に挑む家族の物語である。「子どもの将来の選択肢を増やせるのは自分だけ」という責任を感じながら、仕事との両立や夫との関係で葛藤する母親・茜の姿は共感必至だ。
続きを読む
原作小説の著者であり、慶應義塾大学出身という経歴を生かして教育分野での発信を続ける作家の外山薫さんと、3人の子どもを育てながら漫画家として活躍するコミカライズ版の著者・たちばな豊可さんのふたりに、本作に込めた想いや制作の裏話について伺った。
※個人の体験、お話をもとにインタビューを行っています。ご了承の上お読みください。
——主人公の茜は、夫・総介が引き起こすトラブルや、娘・結衣がはじめて挫折を味わうような紆余曲折を経て、お受験の最後の面接に挑みます。このクライマックスは本当に見応えがありました。
続きを読む
たちばな豊可さん(以下、たちばな):夫のトラブルについて、コミカライズ版では完全に女性目線にシフトしていたので総介をフルパワーでボコボコにしてしまって。
「茜さんの歪んだ顔をどれくらい描き続けたらいいんだろう」というしんどさもありましたが、浮上したときの喜びをしっかりと伝えられるように、主人公夫婦ふたりには落ちるところまで落ちていただきました。
編集担当:怒りに震える茜の表情は、般若のお面をモデルにしていましたよね。
続きを読む
たちばな:そうなんですよ。能のお面を見ながら、夫に向けた怒りと憎しみと諦めが混じった顔を段階ごとに描きました。能面の感情と姿は、生成(なまなり)・般若(はんにゃ)・真蛇(しんじゃ)と変化していくんです。最初はちょっと怖いくらいの顔なんですけど、最後には顔が赤くなって、目を見開き、口が裂けて、鬼のようなツノがさらに伸びるんですね。「このあと、本気の怒りがあるから今はまだこの辺りですよね」と、怒りレベルの調節は編集さんに相談させていただきました。
いつも漫画で描きたいと思っているのが、感情がむき出しになった人物の表情なんです。この作品に関しては、上品さをキープしながらそこを描いていきました。
続きを読む
——家族揃って面接を受けたときの茜の“独白”が、コミカライズ版ではインパクトのある見開きになっていました。かなり力が入っていたのではないでしょうか。
たちばな:原作を読んだときからここは見開きだと勝手に思い込んでいて、序盤から編集さんに相談していました。
外山薫さん:原作者としては、クライマックスの面接シーンに関しては本当に申し訳ないな、と。作品全体にも言えることですが、登場人物の心情にフォーカスしている小説なのであまり動きがないし、ドラマティックな展開もないので漫画にしにくいだろうなと思っていました。それを、画力やキャラクターの表情でカバーしていただいて、本当に嬉しかったです。
続きを読む
Xで漫画の一部を投稿したら、母親に同情する人もいれば、母親が勝手に必死になっている! とツッコミを入れる人もいたんです。プラスであれマイナスであれ、人の感情を強く動かせるのは絵の力だな、とあらためて感じましたね。
取材・文=吉田あき
記事一覧に戻る