
「お食い締め(おくいじめ)」病気や高齢で口から食べられなくなった人に対し、最後まで“食べること”へ丁寧に向き合えるように、本人や家族を支えていく食支援のことである。この言葉を考案し20年以上前から活動しているのが、言語聴覚士で摂食嚥下障害領域(飲み込み)を専門とする牧野日和先生だ。
『お食い締め 口から食べられないアナタへ ~言語聴覚士が見たそれぞれの選択~』(牧野日和(愛知学院大学教授):原案・監修、かなしろにゃんこ。:漫画/竹書房)には、牧野先生がこれまで出会ってきた患者や家族の葛藤が描かれている。
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もう一度焼き肉を食べたいと願う、寝たきりの男性。生きる気力をなくした高齢の母に、なんとか好物を食べてもらいたい娘。「食べること」にまつわる最期の時間を、牧野先生はどのように見つめてきたのだろうか。原案者・監修者としての想いを伺った。
——牧野先生が専門とする、言語聴覚士のお仕事について教えてください。
牧野日和先生(以下、牧野):言語聴覚士はスピーチランゲージヒアリングセラピストのことで、略してSTと呼ばれています。耳で聞く、喋る、食べるなどの専門家で、私は勝手に「喋る(S)と食べる(T)のST」と呼んでいます。私は飲み込み領域の専門です。
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——「お食い締め」という言葉には、口から食べることが難しくなった方への最期の食支援、本人と家族が命や死に向き合って絆を深める時間を作る、といった背景があるそうですね。
牧野:看取り期の患者さんの多くは自分がじきに死ぬことがわかっています。残されるご家族もまた、亡くなっていく人に感謝しながら折り合いをつけ、最期まで寄り添う。「お食い締め」はそういう場だと思っています。
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その方にとってそれがたまたま「食事」であったというだけで、「最期が迫ったときに、食事をしなければいけない」というわけではありません。最後まで本人の意思を確認し、できるだけその意思に背を向けずに向き合うことを目指しています。
——牧野先生がこの言葉を提唱するようになった経緯とは?
牧野:2003年、私が35歳のころ、島根県で学校の先生をしていたのですが、医療法人社団(病院や老人保健施設、グループホームなどを兼ね備えた場所)から「助けてほしい」とお声がかかりまして。そこの施設長は世の中の10年も15年も先をいっているようなお医者さんで、その方から「最後まで食べさせる支援を叶えてくれ」と。
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そのころ、「食べたら窒息して死んでしまうような人には食べさせない」という風潮がありましたが、それが必ずしも本人の意思を尊重しているとは言えなかった。このことをきっかけに、食べない原因を探すのではなく、食べられる活路を見いだすための「お食い締め」を広めるようになりました。
全国にも多少はいたと思いますが、講演を含め、社会的にそういう支援をオープンにしたのは私が最初なのかなと思います。当初は批判も多かったですね。
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——そこから二十数年が経ち、「お食い締め」という言葉はずいぶん広がってきたのではないでしょうか。
牧野:当時から比べるとそうですが、まだ知らない人は多いんじゃないかと思います。認定ナースの会や日本言語聴覚士協会ではこの言葉を使うようになってきました。そのおかげで、お食い締めに積極的な医療者や患者さんが増えてきたとは思います。
一方で、安全性を軽んじて安易に食べさせてしまう人も増えている印象です。
取材・文=吉田あき
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