
『絵画修復師 天野洋子』(浪川修作/KADOKAWA)は、傷ついた美術作品をよみがえらせ、未来へとつないでいく「絵画修復師」の仕事を描いた芸術ドラマである。美術館に並ぶ数百年前に描かれた名画たち。なぜそれらは、長い年月を経た今も美しい姿を保っているのか。その裏側で活躍する、いわば「芸術作品のお医者さん」を主役にした作品だ。
主人公は、若き絵画修復師・天野洋子。彼女のもとには日々、さまざまな事情で傷ついた美術作品と、それを救ってほしいという依頼が持ち込まれる。絵画の劣化は経年によるものだけではない。自然災害に見舞われることもあれば、人為的な事故によって傷つくこともある。作品の状態を見極め、適切な処置を施し、可能な限り本来の姿に近づけていくのが絵画修復師の仕事だ。
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面白いのは、修復が単に「汚れを落とし、きれいに描き直す」作業ではないところだ。長い年月を生き延びてきた作品には、それぞれに歴史がある。どこまで手を加えるべきなのか。作者が描いたものをどう残し、後世へ伝えていくのか。天野が傷ついた絵画と向き合う姿からは、一枚の作品を未来へ残すために必要な知識や技術、そして大きな責任感が伝わってくる。
さらに天野が向き合うのは絵画だけではない。その作品を大切にしてきた人とや、作品に特別な思いを抱く人たちの気持ちとも触れ合っていく。依頼人にとってその作品にはどんな意味があるのか。作品に秘められた物語をひもといていくことで、傷ついた人の心も修復していくという、「芸術×診療ドラマ」なのである。
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美術館で何気なく眺めている一枚の絵も、何十年、何百年という時間の中で、多くの人たちの手によって守られてきた。本作を読むと、美術館を訪れたときには作品の素晴らしさだけでなく、それを未来へ残そうとしてきた人々の存在にも思いを馳せるだろう。知られざる絵画修復の世界を通して、芸術を「残す」ことの意味を描いた稀有な作品である。
文=富野安彦
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