
シリーズ累計発行部数50万部を突破している深町秋生さんの人気警察小説『組織犯罪対策課 八神瑛子』シリーズ(幻冬舎文庫)がドラマ化。2026年7月24日(金)からHuluで独占配信中だ。主演を務めるのは、11年ぶりに連続ドラマで単独主演を果たす黒木メイサさん。
ダ・ヴィンチWebでは、原作者の深町秋生さんと主演の黒木メイサさんに単独インタビューを実施。黒木さんがスタントなしで挑んだ迫力のアクションシーンをはじめ、共演する小島健さん(Aぇ! group)や高良健吾さんら共演陣との撮影秘話、そして原作とドラマそれぞれの魅力についてたっぷり語ってもらった。
黒木メイサ「彼女が背負っているものを知れば知るほど、寄り添いたくなってしまう」

――警視庁上野署組織犯罪対策課の警部補であり、亡き夫の復讐を果たすためなら裏社会ともつながる八神瑛子を描いたシリーズ。ドラマは、3巻までの内容をぎゅっと濃縮したうえで再構成されていて、とても見ごたえがありました。
深町秋生(以下、深町):本作は、簡単に言ってしまえば、闇落ちした刑事の話。原作小説では、夫が死んだあとのアウトローな彼女の側面を軸に描いていますが、ドラマではもっとまっとうに刑事らしかった、心が壊れる前の彼女と、夫・雅也とのエピソードをしっかり描いてくれているので、大変おもしろかったです。準主役的な存在感を示す(雅也を演じる)毎熊(克哉)さんの姿に、その手があったか、とちょっと悔しくなりながら、うるっときてしまいました。
続きを読む

黒木メイサ(以下、黒木):よかったです。私は八神瑛子のような女性が好き……というと語弊があるかもしれませんが、最初に原作と台本を読んだときから、応援したくなるような気持ちを抱いていたんですね。誰もが正面衝突を避けるような相手にも立ち向かっていく強さにも共感してしまうというか、彼女が背負っているものを知れば知るほど、寄り添いたくなってしまう。撮影前に廣木隆一監督とお会いしたときも、八神瑛子はただ強いだけの女性ではないことを意識してほしい、と言われましたので、そんな彼女を大事に演じたいと思っていました。
深町:すばらしかったですよ。僕は、自分の書いた小説については我が子のような気持ちを抱いていますが、映像化作品は孫のように見守っている。この部分を削って、ここを足したんだな、と客観的に眺めながらおもしろがっている、という感じです。
黒木:孫ですか。おもしろい表現ですが、なんとなく腑に落ちるものがあります。じゃあ、脚本にも提案などはされなかったんですか。
深町「最初の構想では、主人公を男性にするつもりだった」

深町:まったくしていません。もちろん、確認はさせていただきましたが、僕が口出しすると映像ならではの創作を邪魔してしまうし、役者の演技も制限してしまうことになるでしょう。創造性を削りたくないので、ご自由につくってくださいというスタンスです。もちろん、自分で脚本を書かれる方もいますし、どっちが正しいということはないのですが……あ、でも、舞台が上野であるということと、女性刑事が主人公であることは変えないでほしいとは言ったかな。でも実は、最初の構想では、主人公を男性にするつもりだったんですよ。
続きを読む
黒木:そうなんですか?
深町:僕は大沢在昌先生の『新宿鮫』が大好きで、あんなふうに一匹狼の刑事を描きたいと思っていたんですよね。でも、いざ書こうと思ってもなかなかピンとくるものが浮かばなかった。でも、編集部から「これは女性でやったほうがいい」と言われたとき「それだ」と思ったんです。警察というのはまだまだ男性中心社会。2011年ごろは女性の警察官が10パーセントにも満たない時代でした。そんな状況で、組織犯罪を行う大悪党たちを相手に活躍させたらおもしろそうだな、と。
黒木:女性が主人公だからこそ浮き上がってくるものが、この作品にはたくさんあると思います。暴力団のところにも臆することなく乗り込んでいって、脅されても、裏社会とのつながりを指摘されても「だからなに?」と一蹴する。その姿にはめちゃくちゃ憧れました。いろんな人が生きづらさを感じている世の中で、誰になんと言われようと自分の目的のためにはためらわずに突っ込んでいく彼女の姿に、励まされる気持ちになる人もいるんじゃないでしょうか。一方で、瑛子が裏社会をただ取り締まるわけじゃないからこそ、必要悪という存在についても考えさせられますし……。
続きを読む
深町:それでいうと、夫を想ってふと悲しみをたたえるときの、黒木さんのまなざしが大変印象的で、本作は悲恋の物語でもあったのだと気づかされたんですよね。それもまた、一匹狼の男性刑事を主人公にしていたら、描けなかったことかもしれません。そして、演じてくださったのが黒木さんだったからこそ、新しい側面を浮かびあがらせてくれたのだと思います。
黒木:瑛子は、誰が敵か味方かわからないギリギリの状況で常に駆け引きをしていなきゃいけないんですよね。大切な人を失った悲しみと、一人になったときだけ吐露する弱さ、りょうさん演じるインリーという中国マフィアのボスと会うときだけは見せるちょっと気の抜けた顔なども、強い側面と同じくらい大事にしなくちゃいけないなと思っていました。そのためには、八神瑛子という一人の人間の人生を、楽しみながらちゃんと生きようと思ったんです。うまくできていたら、よいのですが。
「そろそろ、上野の小説があってもいいんじゃない?」舞台が上野になった理由

――舞台が上野であることもこだわりがあったとのことですが、それはなぜなのでしょう。
深町:一作目が刊行されたのは2011年。まだスカイツリーも完成しておらず、今のようなインバウンドの波も訪れていないころの上野には、かなり混沌としたものを感じていたんですよね。美術館に博物館、動物園と文化的な施設が密集している一方で、東南アジアのような雰囲気の漂うアメ横商店街があって、御徒町にはインドのジャイナ教徒の方々が宝石商を営んでいて。コリアンタウンがあったかと思えば、観光地化されていない老舗のゲイタウンもある。多種多様という表現では追いつかないディープな土地なのに、フィクションの舞台に選ばれるのはたいてい渋谷、新宿、池袋。そろそろ、上野の小説があってもいいんじゃない? と思って書きはじめました。
続きを読む

黒木:上野だからこそ浮かびあがるものもたくさんありますよね。今回、実際に上野でロケさせてもらえたのは幸運だったなと思います。店と店の間に裏路地があって、すべりこむと表とはまたちがう混沌とした空気が漂っている。あの空気感は現場でしか醸し出せないものだと思うので、風景として撮影できたのはもちろん、私自身が肌で感じながら演じられたのが嬉しかったです。
深町:アメ横をかなり激走されていましたね(笑)。僕はふだん、あまりアテ書きというものをしないのですが、八神瑛子シリーズに関しては、梶芽衣子さんの主演映画『女囚さそり』を頭の片隅に思い浮かべながら書いていたんです。特殊警棒を振る黒木さんはかっこよかったし、豹のような敏捷さがイメージとぴったりで僕も嬉しかった。
黒木:警棒を扱うのは初めてだったんですけど、意外と、人との距離感をつかむのが難しかったです。日本刀なら、過去に経験があるんですけどね(笑)。ロケ先が決まってから、その間合いを設定した稽古を事前に行えたので助かりました。
黒木メイサ、ノースタントで挑んだアクションシーン

深町:アクションシーンの迫力は想像を超えていました。ノースタントなんですよね。
続きを読む
黒木:そうなんですよ。暑い時期だったので、とにかく体力をつけなくちゃと、まずは自主的にキックボクシングに通って、そこから稽古に入って。
深町:僕もキックボクシングに4年通っているんですよ。だからこそ気になったのですが、膝蹴りを喰らうシーン、大丈夫でした? けっこうしっかり入ってましたよね? 遊びでエキシビジョンマッチをしたこともありますが、見た目は地味だけどいちばん痛かった記憶があるのでハラハラしました。
黒木:ネタバレになるので演者は伏せますが、あの方、かなり激しかったんですよ。でも、当てているフリの芝居をすると、やっぱり観る人にはバレてしまう。観る人の気持ちが冷めないよう、お互いにちゃんと入れていました。もちろんパッドは入っていますが、痛くない、ことはなかったです(笑)。
小島健さん(Aぇ! group)の演技は「色気があって心をわしづかみにされた」
深町:小島健さん(Aぇ! group)演じるグラニソのあやしげな色気と無敵感も凄みがありましたね。
――小島さんとは、アクション稽古でもずっとご一緒だったんですよね。
黒木:小島さんとアクションするシーンが多かったので、稽古を通じてお互いの距離感や呼吸をつかむことができたのもよかったなと思います。ただ、小島さんはアクション以上にフィリピンの殺し屋という役作りが大変そうでした。
続きを読む
深町:小島さんだけでなく、男性陣の演技は色気があって心をわしづかみにされましたね。瑛子の上司・川上を演じる池内博之さんは、中国・香港映画の『イップ・マン序章』に出演されているのを見たときから、ずっと気になっていた方で。若い頃は爽やかなイケメンだったけど、今は凄みのある貫禄を放つ、いい歳のとり方をされたなあと改めて思いました。新宿南署の五条を演じる高良健吾さんも、どこか得体が知れなくて、よかったな。
黒木:高良さんは隙のあるお芝居が上手なんですよね。誰が敵なのかわからないスリリングな展開も今作の見どころなのですが、瑛子として誰に対しても警戒心を怠らずに接しているはずなのに、高良さんのにこっとした笑顔を見ると、なんだか気がゆるんでしまう。ずるいなって思いました。あやしいと見せかけて、本当に味方なのか、それとも。という演出は、高良さんに限らずすべての人に通じるものなので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
深町:僕も、展開を知っているはずなのにハラハラしました(笑)。
黒木:上野の街並みとか、映像としてもおもしろい出来になっていると思うんですけど、誰の視点で見るかによって正義が変わるのもおもしろいですよね。監督が、瑛子の人間味を出していきたい、とおっしゃっていたのも、たぶん、正しさなんて視点によって変わるのだということを表現したかったからじゃないかと思うんですよ。この人はこういう人、とひとつの側面で演じるのではなく、善と悪も、強さも弱さも、揺らしながら表現したいという熱い思いが現場にはたぎっていた気がします。
続きを読む
深町「フィクションの中では好きなことさせてくれと思うし、思う存分悪党をしばきたい(笑)」
――何か印象に残っているシーンはありますか?
黒木:そういえば、廣木監督にいきなり橋のうえで「ここからばかやろうって叫んでみて」って言われてやったら、そのまま使われていたことがありましたね。生の感情を大事にされていたんじゃないかな。他にもお二人、監督がいらっしゃいましたが、それぞれのアプローチで演出しながらまとめあげていく過程も、興味深かったです。
深町:実は僕も本編に出演しているんですよね。
黒木:そうそう!(笑) 懸賞金をかけられているんですよね。
深町:撮影見学に行ったら、いきなり写真を撮られて、どうするのかと思ったら指名手配写真にされていた。700万円も懸賞金をかけられていて、どんな悪事を働いたのかと(笑)。これからご覧になる方は、ぜひ探してみてください。
黒木:探していただきつつ(笑)、一人ひとりのキャラクターだけじゃなく、人間関係にもいろんな側面があって、何事も「これはこう」と言いきることなんてできないってことが伝わってくるストーリーなので、そこを是非楽しんでいただきたいです。路地の裏に入れば本当にこういう闇の社会が存在しているのだろうと思わされるリアリティもありますし。上野の裏社会を牛耳る奥田瑛二さん演じる有嶋とのやりとりも、注目していただきたいです。他のヤクザとはまたちがう緊張感のある関係ですが、彼の存在が、瑛子を一歩先に進ませてくれるというのも、おもしろいなと思うんですよね。
続きを読む
――奥田さんの、あの顔の傷跡もすごかったですね。
黒木:現場で、どれくらいの傷跡にするか、監督と細かく話しあっていました。そういう細部にまでこだわりのつまった作品だと思います。
深町:僕はやっぱり、アクションシーンに注目していただきたい。凄腕の殺し屋と腕自慢の女性刑事のぶつかりあいをみるだけで、シンプルに胸がすく。原作も、読んでスカッとしてほしいという気持ちがあるんですよ。地元の山形では作家として面が割れてきたので、品行方正に生きなきゃいけないのですが、フィクションの中では好きなことさせてくれと思うし、思う存分悪党をしばきたい(笑)。警察という組織にも思うところがあるので、「腐った警官を許さない」という義憤を抱きつつ、清廉潔白ではいられない人の姿も描きたい。その想いを、黒木さんをはじめとするみなさんが見事に体現してくださっていると思うので、どうぞ期待していてください。

取材・文=立花もも 写真=島本絵梨佳
記事一覧に戻る