
ホラー小説の良さは、ただ怖がらせるところにない。読者の「いつも通り」をほんの少しだけねじり、部屋の角、家族の会話、駅までの道、スマホの通知音といった日常のパーツに、別の意味を生やしてしまうところにある。怪物が出てこなくても、血が一滴も流れなくても、読後に世界が“薄く不穏”になる――それがホラーの底力だ。
しかもホラーは、怖さの種類が幅広い。土地や家に染みついた気配にじっとり浸される作品もあれば、資料や記録の断片を拾い集めるうちに、読者自身の解釈が恐怖を完成させてしまう作品もある。人間の悪意が社会の仕組みと結びついて逃げ場を塞ぐもの、スマホやネットがそのまま恐怖装置になるもの、古典的な幽霊屋敷や吸血鬼譚が“今読むからこそ”鋭く刺さるもの――同じ「怖い」でも手触りはまるで違う。
2026年最新のホラー小説おすすめ30選を厳選。「怖さ」「読みやすさ」「後引き度」の基準でダ・ヴィンチWeb編集部が独自評価。あなたの“怖さの好み”に合う一冊を見つけてみては。
▶残穢(ざんえ)
▶イン ザ・ミソスープ
▶オーディション
▶撮ってはいけない家
▶近畿地方のある場所について
▶穢れた聖地巡礼について
▶変な家
▶書店怪談
▶フェイクドキュメンタリーQ
▶ぼぎわんが、来る
▶ずうのめ人形
▶深淵のテレパス
▶スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ
▶閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書
▶ファントム・ピークス
▶黒い家
▶をんごく
▶湖の女たち
▶禁じられた遊び
▶或る集落の●
▶みんなこわい話が大すき
▶闇祓
▶メタモルフォセス群島
▶IT
▶ペット・セマタリー
▶シャイニング
▶ミスト
▶深夜勤務
▶ミザリー
▶隣の家の少女
『残穢(ざんえ)』(小野不由美/新潮社)

物語は、著者自身がモデルと思われる作家の元にファンの女性から手紙が届くところから始まる。彼女の話によると、マンションの部屋で自分以外誰もいないのに時折、背後で物音が聞こえ、振り返ると着物の帯が床を這うのが見えるという…。しかし、マンションの過去をいくら調べても自殺者や不審死などといった因縁めいた話はでてこない。さらに調査を続けていく内に怪異はマンションだけでなく、近隣地域一帯に広がっていることが分かってくる…。
人が生き、死に、逃げた痕跡は、否応なくその土地に染みついてしまう。住人が入れ替わっても消えない“土地の記憶”が、穢れとして蓄積していく恐怖を描いた傑作だ。ドキュメンタリー的な淡々とした筆致が、かえって現実に侵食してくるような恐怖を生んでいる。読後、部屋から鳴る何気ない物音に敏感になり、必要以上に恐怖を覚えてしまうかもしれない。もしかしたらあなたの家にも穢れがあるのかも…。実話怪談のような手触りを求める人におすすめ。映画「残穢」も怖すぎるという声多数。
評価:怖さ★★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
『イン ザ・ミソスープ』(村上龍/幻冬舎)

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色と欲にまみれた歌舞伎町を舞台に描かれる、村上龍のサイコスリラー小説だ。主人公のケンジは歌舞伎町で、外国人向けの風俗案内の仕事をしていた。ホームレスや高校生が殺されたニュースが流れていたとある年末、ケンジの前にアメリカからビジネスでやってきたという男・フランクが現れる。人工的な奇妙な肌をした男の顔と、流暢ではあるものの整合性がなく嘘しか言っていないような話し方に違和感を抱き、彼がホームレスや高校生を殺した犯人なのではないかと疑うようになる。いったい誰が犯人なのか? フランクの狂気と恐怖は、やがて主人公だけではなく、読者にまでじわりじわりと差し迫ってくる…。あなたはこの恐怖に耐えられるだろうか? なお、この作品は1998年に第49回読売文学賞を受賞している。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★/後引き★★★★★/総合★★★★
『オーディション』(村上龍/幻冬舎)

三池崇史が監督を務めた最恐ホラー映画「オーディション」の原作としても有名な本作。主人公は、7年前に妻を癌で亡くし、男手ひとつで息子を育ててきたビデオ制作会社社長・青山重治。ある日、15歳になった息子に再婚を勧められる。青山は、友人の提案で映画のオーディションという名目で集めた女性から秘密裡に再婚相手を選ぶ「オーディション」を開催することに。そして24歳の山崎麻美という女性に一目で惹かれてしまう。一見、育ちのよさそうな美しい女だったが、その正体は…。
村上龍の小説の中では異質なスプラッター作品となっている。表面的な情報だけで人を判断して恐ろしい目に遭ってしまう……その恐怖を最も冷酷な形で小説化した一作だ。あまり知らない人と出会うマッチングアプリをよく使う人は、その恐怖をより身近に感じられるかも?
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『撮ってはいけない家』(矢樹純/講談社)

「その旧家の男子は皆、十二歳で命を落とす――」
ある映像制作チームが、モキュメンタリーの映像のロケハンのために、山梨県の旧家へ向かう。そこで撮影を進めるうちに、映像プロットと、現実世界で起きることとの間に奇妙な共通点を見出してしまう。やがて、冒頭の文言を暗示するように、映画プロデューサーの息子が、十二歳を目前にして行方不明になってしまう…。「知ってはいけない」真実があると知りながら、それでも本書をめくる手を止められないホラー体験を味わうことができるだろう。至極のモキュメンタリーホラー小説だ。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『近畿地方のある場所について』(背筋/KADOKAWA)

菅野美穂、赤楚衛二が演じ、「貞子vs伽椰子」「サユリ」の白石晃士監督が映画化したことで話題になったホラー小説。「ある地域」に関する怪談を集めていた編集者が失踪した。次第に浮かび上がる恐ろしい事実とは……? 噂と断片資料が積み重なり、「ある場所」の輪郭が勝手に立ち上がってくる構成のホラーである。怖さの正体は怪物ではなく、読者自身が情報を“つなげてしまう”手つきにある。読み進めるほど日常の地図が不穏に塗り替わるタイプ。モキュメンタリー風の語りが好きな人へ。
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ダ・ヴィンチWebでは、本作の漫画版のレビュー記事を掲載している。
評価:怖さ★★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
『穢れた聖地巡礼について』(背筋/KADOKAWA)

フリーの編集者・小林と心霊スポット突撃系YouTuberの池田が、心霊スポットの考察をでっちあげていくというストーリーの長編ホラー。Amazonなどネット書店の書籍概要に書かれている「げんきなあなたがうまれます」という訳の分からない文言が強烈だ。これはいったい何を意味するのか?
もともと変態が盗撮した写真のコレクションを保管するための場所ではないかという噂で有名だった「変態小屋」が、追加取材により実は全く別の目的で使われていたことが判明…。いったいどんな目的で使われていたのか? 「行ってはいけない場所」への巡礼の熱狂と、土地に蓄積した穢れの相性が最悪で、軽い気持ちの一歩が取り返しのつかない連鎖へ転がるのが怖い。現代の“取材”ホラーが読みたい人に刺さるだろう。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『変な家』(雨穴/飛鳥新社)

2024年に間宮祥太朗氏の主演で実写映画化された雨穴氏による衝撃のデビュー小説『変な家』。物語の主人公はオカルト専門フリーライターの〈私〉。そんな主人公のもとに、あるとき、1枚の間取り図が持ち込まれる。閑静な住宅街に建つ2階建ての家で、一見、優良物件のようだ。しかし、よくよく見てみると、謎の空間があることに気づく。ダイニング、寝室、キッチンに囲まれた箇所に、扉のない小さなスペースがあるのだ。不思議に思った主人公は、この間取り図をオカルト好きな建築士・栗原にも見せる。すると栗原は、たった1枚の奇妙な間取り図から導き出せる恐ろしい推理を披露してくれる。この家では「殺人」が行われていたのではないか、と……。考察しながら読みたい人、図解系ミステリー好きへ。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『書店怪談』(岡崎隼人/講談社)

本が並ぶ場所は、安心の象徴に見えて実は“よくないもの”が寄ってくる。書店員という現場目線で語られる怪談は、派手さよりも「あるある」の皮膚感覚で迫ってくるのが怖い。
新作が思うように書けず焦っていた岡崎は、担当編集の菱川と話し合い、書店にまつわる怪談を集め、モキュメンタリー調に書き直したホラー小説にすることを思いつく。怪談は続々と集まり、順調に執筆は進んでいたが、寄せられた怪談には共通点があることに気づいてしまう。その裏に隠された恐ろしい真実とは…? 読書好きほど刺さる怖さがあり、夜に本屋へ行く足が少し鈍る。怪談入門にも。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『フェイクドキュメンタリーQ』(フェイクドキュメンタリーQ/双葉社)

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ページをペラペラとめくってみたところ、目に飛び込んでくる写真の気色悪さが半端ない。モキュメンタリーホラーのパイオニア的存在とされるYouTube番組「フェイクドキュメンタリーQ」が初めて書籍化された一冊である。ファンの間でも人気が高いというエピソード「フィルムインフェルノ」が収録されている。
あるカップルが洞窟のなかを彷徨うのだが、“何かがいる”ことを匂わせる、首のない人形やら、メモの破片やら、不気味なものが次々と現れる。気がつくと後ろ側が壁になっている(つまり、歩いてきた道が突然塞がれてしまう)…。
自分の意思に反して、恐ろしい出来事が自分の日常にも起こり得るという臨場感。“日常と隣り合わせ”のおぞましさに身がすくむ。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
『ぼぎわんが、来る』(澤村伊智/KADOKAWA)

「来る」という題名で、中島哲也監督、岡田准一主演で2018年に公開されたことでも話題の本作。
幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者がある。それは、生誕を目前にした娘の名前を知る人物からの伝言だった。原因不明の怪我を負った後輩、周囲に届く不審な電話やメール。それらは亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか? 愛する家族を守るため、秀樹は女性霊媒師・比嘉真琴と共に、極めて凶暴な怪異へと立ち向かうが…。
家族という現実の重さに説明不能の存在が重なる、逃げ道のない圧巻のノンストップ・ホラー。怖さは怪異の派手さよりも、生活が破壊されていく過程のリアルさにある。ホラーが苦手でも読めるが、読後に玄関の気配が変わる体験を味わえるだろう。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『ずうのめ人形』(澤村伊智/KADOKAWA)

オカルト雑誌『月刊ブルシット』の若手編集者・藤間は、締め切りが過ぎても一向に連絡がつかないフリーライター・湯水の自宅マンションを訪れた。鍵を開け、部屋に足を踏みいれた藤間が見たものは、両目をくり抜かれ、仰向けに横たわっている湯水の死体だった…。
編集者・藤間が受け取った原稿に登場する人形が現実にも現れるようになり、迫りくる死を防ぐためには、呪いの原稿の謎を解かなければならない! 「来る」系の不穏を、民俗と現代生活の接点で増幅させた長編。呪いの理屈が分かりそうで分からない“湿度”があり、説明できないものが近づく怖さがある。怖さの種類は、突然の驚きよりも、生活が壊れていく過程のリアルさ。じっとり系の長編が読みたい人へ。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『深淵のテレパス』(上條一輝/東京創元社)

事の起こりは、ある怪談を聞いたことだった。会社の部下に誘われ、大学のオカルト研究会の怪談イベントを訪れた高山カレンは、それ以来、怪談をなぞるかのような奇妙な現象に悩まされることになる。部屋の暗がりから響く、濡れた布を叩きつけるような異音。ドブ川のような悪臭。足跡の形をした汚水。心霊や呪いなど一切信じていなかったカレンだが、相次ぐ怪現象に追い詰められ、徐々に精神の均衡を崩していく。
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やがて恐怖を感じるようになったカレンは、動画サイトで心霊現象の実地調査を行うチャンネル「あしや超常現象調査」のことを知り、藁にも縋る思いで相談をするのだが…。
水にまつわる怪異は、意外なほどスケールの大きい事件へと繋がっていく。結末に向かってペースを上げていくエンタメ力の高さと、怪談的なリアリティのバランスが絶妙で、ホラーを初めて読む人にも、マニアにもおすすめできる良作である。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★/後引き★★★★★/総合★★★★
『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(知念実希人/双葉社)

『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(知念実希人/双葉社)は、“スマホ特化型モキュメンタリー”と言うにふさわしい、極めて斬新な構成のモキュメンタリー・ホラーである。
大学生の一色和馬は、オカルト専門ライターになった大学時代の先輩から頼まれた、“都市伝説の調査”という怪しいバイトを引き受ける。事前資料によると、“ドウメキ”と呼ばれる怪物の棲むゴーストタウンが山奥にあるらしい。どうせよくあるフェイクだろう、と高をくくって始めた調査の先には、恐るべき体験が待ち受けていた……。
スマホという“私そのもの”の中に、死の痕跡が残る。覗き見の快感と罪悪感を煽りながら、画面の向こうからじわじわ迫ってくる怖さが上手い。怪異というより、現代の生活動線が恐怖装置になるタイプ。サクサク読めて、読後は通知音が少し怖くなる。SNS世代に強烈に刺さるだろう。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』(知念実希人/双葉社)

東京都多摩市、祭りの会場で凄惨な無差別殺人事件が起こった。犯人は不可解な言動を繰り返しており、精神疾患の疑いがもたれる。その精神鑑定を担当した医師・上原は、犯人へのインタビューから得た情報をきっかけに、事件の真相に迫る独自調査を行う。上原が体験したことを、読者はそのインタビューを読みながら追体験していく……。
「読んではいけない」体裁が、読む手を止められなくする。報告書形式で迫るのは、理性で整理できるはずの狂気が、実は整理不能だという事実である。怖さは派手さよりも、理解した瞬間に背中を冷やすタイプ。ミステリー好きにも届く構成で、仕事終わりの一気読みが特に危険なモキュメンタリーホラーだ。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『ファントム・ピークス』(北林一光/KADOKAWA)

長野県安曇野。半年前に失踪した妻の頭蓋骨が見つかり遭難死とされるが、三井周平は用心深かった妻が山で遭難したことをいぶかる。その後、同じような女性の失踪事件が次々と発生。周平は研究者の山口凜子と謎の解明に乗り出すが、やがて「それ」の正体が明らかになって。ミステリー? パニック? ホラー? ジェットコースターのような驚愕の展開に目が離せない…。
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実はこの作品、『幻の山』というタイトルで、2005年第12回松本清張賞の最終選考に残った作品。しかし落選。本来なら(旧)角川書店で改題して出すのはありえない話だった。ところが、著者が2006年に45歳の若さで亡くなってしまったことを受けて、友人たちが動き出す。映画宣伝会社のプロデューサーとして活躍していた著者には映画関係の友人が多く、この原稿を読み「これがこのまま消えてしまうのは惜しい。何とか世に出したい」と周囲が動き出し、その結果本の出版に至ったのだった。
無名だった著者の本が、その内容の面白さ一本で死後に出版されたというストーリーにも惹かれる一冊。カバーはスティーヴン・キングの文庫本でよく見る藤田新策さんが担当している。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
『黒い家』(貴志祐介/KADOKAWA)

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。
怖いのは幽霊ではなく、保険という現代の仕組みに寄生する人間の悪意である。淡々と現実寄りに進むぶん、逃げ場がない。イヤミスとも違う、社会派ホラーの迫力がある。人間が一番怖い系が好きな人、後味の悪さを求める人へ。読者を未だかつてない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
『をんごく』(北沢 陶/KADOKAWA)

大正末期、最愛の妻・倭子を失った壮一郎。失意の中、彼は死者の霊を降ろす巫女の手を握り締め、生前の妻と同じ愛おしい感触に息を呑む。だが、巫女は震えながら不吉な言葉を吐いた――「奥さんな、行んではらへんかもしれへん」。声、手、顔…時間をかけ徐々に姿を顕現させていく「何か」。それは果たして愛した妻なのか、それとも人を狂わす禍々しい「化け物」なのか。引き返せない戦慄の怪異が、静かにあなたを蝕んでいく。
『をんごく』は凶悪にして荘厳な予感を実現させるのと同時に、登場人物のセリフを借りれば「何かがおかしい」という新たな予感を発生させる。それが膨らみ、実現し、さらなる予感が膨らみ……と、ホラーの感触が持続し続ける恐ろしい一冊。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『湖の女たち』(吉田修一/新潮社)

舞台は琵琶湖周辺。ある介護療養施設で、100歳の男が殺される。子どもがうまれたばかりの刑事・濱中は、捜査を進める中で介護士・佳代と出会い、急速に仲を深めていく。その事件を取材する記者・池田は、事件で死亡した男の人生をひもとくためにハルビン(旧満州の中心都市)を訪ねる。
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静かな湖面にジャボンと石を投げ入れるように、ある出来事の波及効果や、人と人の「境界線」を描いた作品だ。エグいシーンも多いが、人の心に湖面のようなものがあるとして、どうすれば自分・自分たちの湖面に変化をもたらすことができるかという探求がなされているマジメさもある作品である。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『禁じられた遊び』(清水カルマ/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

会社員の伊原は、郊外に念願のマイホームを購入。妻・息子と共に幸せな生活を送っている。しかし、妻が交通事故で命を落とす。息子は母の指をマイホームの庭に埋めて、まじないをかけるようになる。同じ頃、映像ディレクター・比呂子の周囲でホラー映画のような怪奇現象が立て続けに起こる…。
『禁じられた遊び』というと1950年代のフランスの名画を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。そちらは第二次世界大戦中に親を亡くした子どもが主人公で、劇中で容赦なく執拗に爆撃され、いとも簡単に人が亡くなる悲しいシーンがある。Jホラーの本作も、多少フランス映画へのオマージュがあるのかもしれないが、そうした「容赦ない感じ」と畳み掛けるような「しつこさ」のリズムが、読者に怖さを与え、ページをめくる手を止めることができないだろう。
なお本作は、映画『リング』シリーズの中田秀夫が監督を務め、主演は橋本環奈と重岡大毅が演じる形で映画化されている。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『或る集落の●』(矢樹純/講談社)

閉鎖的な村、薄暗い山道、青森弁の持つ響きといった要素群にじわりと汗がにじむ因習ホラー小説。P集落に関連する物語が続く連作短編小説となっている。冒頭作「べらの社」から読者を引きずり込む力が強烈だ。
伯父の家に引き取られ、青森県のP集落で暮らしていた姉。彼女の様子がおかしいという連絡を受けた主人公はP集落へ向かう。山奥の社のそばで再会した姉は、透き通るように青白い。彼女は痰が絡んだような割れた声でこう言った――「あの家(え)のわらしは、膨れで死ぬぞ」。
日本的な恐怖を好む方、または、伝統的でありながらも新鮮な読後感をもたらすホラーを求めている方は、ぜひ本書を手にとっていただきたい。ホラー好きなら、きっと深く刺さる読書体験になるはずだ。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『みんなこわい話が大すき』(尾八原ジュージ/KADOKAWA)

いじめに苦しむ少女が押し入れの「秘密の友達」に助けを求めた時、凄惨な事件の幕が上がる。語り手が次々と入れ替わり浮き彫りになるのは、人間の恨みや妬みが紡ぎ出す本物の「呪い」だ。だが真に恐ろしいのは呪いそのものではなく、それを操る人間の歪んだ心と、毒された人々が異形に変貌していく絶望的な過程。読む者の精神をジワジワと侵食し、救いなき底なしの恐怖へ引きずり込むだろう。
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タイトルの軽さに騙されると痛い目を見るに違いない。怪談の“語り”そのものが現実へ染み出し、好きで集めた怖い話に、こちらが集められていく感覚がある。怖さは笑いと背筋を同時に走らせるタイプで、読み味が独特だ。怪談のメタ構造が好きな人、ネット怪談に慣れた人ほど刺さるだろう。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『闇祓』(辻村深月/KADOKAWA)

辻村深月初のホラーミステリー長編小説。転校生の白石要は、少し不思議な青年だった。背は高いが、髪はボサボサでどこを見ているかよくわからない…。「あいつらが来ると、人が死ぬ」と恐れられる、その謎とは? 善意や無自覚な悪意が、閉鎖的なコミュニティで最悪の「闇」へと醸成されていく。身近な人間関係がじわじわと恐怖装置に変わる構成が巧みで、心理的な逃げ場を塞がれる感覚がある。イヤミス的な不快感と、本格ホラーの戦慄を同時に味わいたい人に刺さる一冊。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『メタモルフォセス群島』(筒井康隆/新潮社)

筒井康隆と聞いて、SFやスラップスティック、あるいは映画化もされた『時をかける少女』や『パプリカ』をまず想起するかもしれない。しかし実は全身を震わせるような恐ろしいホラー小説も得意だとご存じだろうか?
『メタモルフォセス群島』は、表題作を含む11編を収録した、恐ろしさとグロテスクが混在するブラックユーモア短編集である。表題作で描かれるのは、ある国が行った水爆実験によって放射能濃度が高まり、影響を受けたあらゆる生物が突然変異体(ミュータント)と化してしまった不気味な世界だ。生物学者ふたりが生態調査のためにある島を訪れるのだが、そこには足の生えている果実や、木の枝に寄生している小動物、そして人間を食べて首に似た果実をつける植物がいた……。ズドンと絶望の底に叩き落される苦い毒気の強い恐怖短編集である。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★
海外ホラー
『IT』(スティーヴン・キング/文藝春秋)

ピエロ(ペニーワイズ)役をビル・スカルスガルドが演じた映画が2017年にリメイク上映されたことで話題になった本作。あのどうしようもない絶望感に震える映像は、今でも忘れられない。
1985年、アメリカ・メイン州の田舎町デリーでは、不可解な行方不明や死亡事故が相次いでいた。まるで27年前の惨劇をなぞるかのように……。旧友マイク・ハンロンからの電話を受け、「あれ」がまた始まったことを悟ったビル・デンブロウらかつての仲間たちは、少年時代の約束を果たすため、仕事をなげうってデリーに結集する。大人になり、守るべきものが増えたビルたちは、11歳の夏のように町に巣くった怪物(=IT)を倒すことができるのか…。
町という共同体が抱える罪と恐怖が、子どもたちの“それ”として具現化する。怪物の形をしているのに、結局怖いのは人間の記憶と沈黙である。分厚いが、乗ったら止まらない。長編ホラーでしか出せない重さがある。物語に沈みたい人、キングの代表作から入る人におすすめ。
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評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★/後引き★★★★★/総合★★★★
『ペット・セマタリー』(スティーヴン・キング/文藝春秋)

舞台はアメリカ最北東部・メイン州の田舎町。医師・ルイスが一家の主の家族が、大都会・シカゴから引っ越してくる。家族構成は、妻・レーチェル、思春期の娘・エリー、まだ幼い息子・ゲージ、猫・チャーチ。理想的なマイホームと、ルイスには大学の医療センターという新たな職場を得て、新生活は順調に思えた。しかし、車にはねられた学生・ヴィクターの死をきっかけに、不吉な出来事が連鎖していく…。
“取り返したい”という願いが、最悪の形で叶う恐怖。死の不可逆性を無視した瞬間、家族の物語がホラーへ反転する。怖さは怪異の派手さではなく、喪失に触れた時の人間の脆さにある。心が弱っている時に読むとガツンと来るので注意。倫理の境界を踏み越える話が読みたい人へ。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
『シャイニング』(スティーヴン・キング/文藝春秋)

舞台はアメリカ、自然豊かなコロラド州。山奥の豪華なホテルの管理人職を得た小説家志望のジャックは、妻・ウェンディーと霊感の強い息子・ダニーと共に、冬の豪雪の間の管理人として住まうことになる。実は過去に管理人が家族を惨殺するという事件が起きており、ホテル全体がさながら「事故物件」のようであることが明らかになってもジャックは気に留めない。しかし、ダニーの持つ「シャイニング」(テレパシー)の力は、ジャック一家が恐怖の世界に迷い込んでいくことを予期していた…。
閉ざされたホテル、雪、家族、孤立。条件が揃いすぎて、狂気が“合理的に”育つのが怖い。超常現象の気配はあるのに、核心は家庭の内部にあるという嫌さがある。じわじわ追い詰められる心理ホラーとして強度が高い。家族ものが好きな人ほど、壊れていく過程に目が離せなくなる。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★
『ミスト』(スティーヴン・キング/文藝春秋)

物語は、災害級の嵐の後に主人公が幼い息子と隣人と、スーパーマーケットへ買い物に行くところから始まる。すると、買い物中にすさまじい勢いで霧が発生する。そのさまはこれから何が起こるのかと恐怖心を運んでくるが、先が見えない濃い霧の中からやってきたのは謎のモンスターたちだった。彼らはバラエティ豊か。キバと口の付いた触手が巻きついてきたり、巨大蜘蛛のような生き物が酸性の糸で襲ってきたり人に卵を産み付けたりする。
霧がたちこめる外に出てしまうと襲われかねないため、人々はスーパーマーケットの中に留まることになる。スーパーの扉を開けて霧の中へ踏み出せば、襲われるかもしれない。しかし、いつまでスーパーに留まっていなければならないのか。疲弊していく人々の心理が細かく描かれることになる…。
映画「ミスト」の苦い記憶がいまだに鮮明に残っているが、公開はもう20年近く前。アメリカで2007年に公開され、日本では2008年に公開されている。あの胸糞の悪い終わり方がトラウマになっている人も多いだろう。なお、2017年にはNetflixで「ザ・ミスト」としてドラマ化された。続きを予感させながらも、なぜかシーズン1で打ち切りになったというのもまた、霧の中に取り残されたような、なんとも言えないもやもや感を引き立てている。
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評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★/後引き★★★★★/総合★★★★
『深夜勤務』(スティーヴン・キング/扶桑社)

時は30年前。主人公のジム・ノーマンは地元の不良青年たちに絡まれてしまう。そのとき主人公をかばおうとした兄は、不良青年たちと一緒に列車にはねられ死んでしまう。30年後、高校教師になったジム・ノーマンだったが、遅進生が集まる授業を担当することになったとき、目の前に、30年前に兄と一緒に死んだはずの不良青年たちにそっくりの生徒が現れるのだ。彼らはどうやら過去から蘇ったらしく、次々とノーマンの生徒を手に掛けていく…。
30年前の怨念が現代を生きる主人公とその周りにふりかかる話なのだが、そのやり方は「陰湿極まりない」の一言に尽きる。ただ、この陰湿さや周りからじわじわと追い詰められていく描写がより怖さを引き立てており、この話の魅力ともいえるだろう。実際に怨念が目に見える形となって現れることは、リアルな世界ではあり得ないことなのかもしれない。しかし、世界では生きている人間に幽霊が乗り移る「憑依」という言葉もある。ノーマンの前に現れた不良青年たちはまさに憑依の一種だろう。怨みにあふれた不良青年たちの復讐を、主人公はどのように阻止するのか。そもそも阻止する術はあるのか……?
じわりじわりと迫りくる気味の悪い恐怖を感じられる10作が収録された短編集である。
評価:怖さ★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★
『ミザリー』(スティーヴン・キング/文藝春秋)

大衆向けロマンス小説「ミザリー」シリーズでベストセラー作家となった、主人公のポール・シェルダン。ミザリーシリーズの新作ばかり求められることに辟易した彼は、ヒロインのミザリーを殺してシリーズに終止符を打つ。最終巻の刊行を待つ間に新たな小説を書き上げたポールは、原稿を手に車を走らせていた。しかし途中で事故に遭い重傷を負ったところで、偶然通りがかった元看護師のアニー・ウィルクスに助けられる。アニーは「ナンバーワンの愛読者」を自称する熱狂的なミザリーのファンだった。彼女の家で献身的な介護を受けるポール。しかしシリーズ最終巻「ミザリーの子供」が発売されたことで、結末に納得のいかないアニーに“書き直し”を強要されることとなる。
熱狂的なファンが、憧れの作家を監禁する。幽霊や悪魔よりも、一人の人間が振るう無邪気なまでの執着と暴力が何よりの脅威だ。逃げ場のない室内で、生存をかけた心理戦に神経を削られたい人向け。
評価:怖さ★★★★/読みやすさ★★★★/後引き★★★★/総合★★★★★
『隣の家の少女』(ジャック・ケッチャム/扶桑社)
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閑静な住宅街の地下室で行われていたのは、想像を絶する虐待だった。子供たちの無垢さが悪意の共犯へと変わる瞬間、倫理の崩壊に眩暈がする…。
1958年夏、両親を失い伯母ルースの家に引き取られた姉妹。だが、優しげな伯母の正体は悪魔そのものだった。度重なる虐待の末、少女メグは薄暗い地下室へと監禁される。肉体と尊厳を凌辱する非人道的な拷問に、伯母の息子たちも加担し狂気へ没入していく。隣家の少年デイヴィッドは絶叫を聞きながら保身ゆえに傍観者となり、地獄の共犯者へと堕ちていく。実話を基にした、人間の底なしの悪意を描く絶望のトラウマホラー。
ホラーの歴史に残る究極の嫌な読書体験を求める人へ。
評価:怖さ★★★★★/読みやすさ★★★/後引き★★★★★/総合★★★★★
ホラーの怖さは、恐怖が小説の中だけにおさまってくれないところにある。家、家族、学校、会社、町、スマホ、土地――テーマが実生活に近ければ近いほど、あなたの生活は否応なく変化してしまうだろう。ある場合には、一番安心できると思っていた場所が牙をむくようなことになってしまうかもしれない。
ここに並べた30冊は、怖さの方向性がバラバラだ。ゾッとする瞬間が鋭いもの、読後にじわじわ効き続けるもの、読み手の解釈が恐怖を完成させてしまうもの、人間そのものが怪異より恐ろしいもの。今日はどれを選ぶかで、あなたの夢見が変わるかも…?
迷ったら、まずは「読みやすさ★★★★★」の中から一冊、あるいは「後引き★★★★★」を一本選ぶのがいいだろう。読み終えたあと、ふと玄関の音に耳を澄ませたくなったり、地図アプリで“あの場所”を確認したくなったりするかもしれない。本の中だけだった恐怖がやがて現実世界に浸食するようになるだろう。一度足を踏み入れるとなかなか出てこられない、そんなホラー体験を是非。
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