
『イートインワンダーランド』(西造/KADOKAWA)は、旅の料理人が、おとぎ話の登場人物たちに料理を振る舞いながら世界を渡り歩く主人公の姿を描いたグルメファンタジーだ。登場するおとぎ話の結末は誰もが知っているが、その後、登場人物たちはどうなったのか? そんな疑問をもとに描かれたストーリーは、思いがけない展開を見せていく。
主人公のハチは、あてどなく世界を巡りながら、人々に料理を振る舞って生きている旅の料理人だ。彼が訪れるのは、シンデレラやマッチ売りの少女、白雪姫といった、おとぎ話でおなじみの人物たちが暮らす世界。しかし、そこにいるのは、私たちが知っている物語の中の彼女たちとは少し違う。「めでたしめでたし」を迎えた後も人生は続き、それぞれが病や孤独、退屈などを抱えながら生きているのである。
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シンデレラのエピソードには本作らしさがよく表れているだろう。私たちが知っているシンデレラは、王子様と結ばれ、幸せに暮らすことになったところで物語が終わるが、本作が描くのはその先だ。どれほど幸せな結末を迎えても、人はそこで人生を終えるわけではない。もし、シンデレラが継母たちのその後を憂い、満たされない思いを抱えていたとしたら——。そんな彼女の心を、ハチは料理を通して少しずつ解きほぐしていくのである。
おとぎ話とグルメの組み合わせと聞くと、どこかほのぼのとした内容を想像するかもしれない。しかし、その世界に横たわっているのは意外なほどシビアな現実である。それでも、温かい料理を食べれば心がほぐれ、誰かと食卓を囲めば孤独が薄れていく。ハチの料理は魔法のようにすべてを解決してくれるわけではないが、一皿の料理が明日を生きる小さなきっかけになるのである。
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誰もが知るおとぎ話を大胆に再解釈しながら、「食べること」が人の心を救う瞬間を描いた本作。少し不思議で、ちょっぴりダーク、それでいて食後の満足感に似た感覚が残る、新感覚のファンタジー作品だ。
文=ソルティ・タムラ
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