※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年8月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。
イラスト=千野エー
[読得指数]★★★★★
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

病気経験者に勇気を与える一冊
20歳のときに潰瘍性大腸炎という難病に罹った著者が、その13年にも及ぶ入院、闘病生活を綴った一冊、と紹介すると「闘病記か」と思う人もいるかもしれない。しかし本書は全く違う。入院経験者が読めば、あまりにも共感ポイントが多いと思うし、これから入院する人、入院する家族がいる人、友人、恋人が入院してしまった人にとっては、「入院生活という非日常を送る大切な人に、どのように接することができるか」を学べるバイブル的一冊になるはずだ。私自身も長い入院生活を経験しており、入院生活で何か特別な力を得たとするなら、それは人間観察力だった。複数の患者が寝食を共にする大部屋でのサバイバル、医療従事者との人間関係を円滑に保つ努力など、患者は病気を治すだけではなく、様々な闘いを強いられる。13年という長期にわたり闘った著者には、類い希な人間観察力が備わったのだと思わせる、知恵が詰まった一冊だった。
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文芸/ノンフィクション
入院とは何かが分かる度
★★★★★

介護中の身にはなんとも刺さる一冊
義父母が老人ホームに入所して半年あまり。二人が住んでいた家に残された品々があまりにも多く絶望している私が、藁にもすがる思いで手にした本書は、「残された人」、「残した人」、「残す可能性のある人」(ここには私自身も含まれる)について豊富な事例を挙げ、それでは実際に、どのように処分を進めればいいのかを詳細に説明している。誰もが「残してはいけない」とか「残さないように説得せねば!」とは思うだろうが、私物には「思い」が詰まっている。だからこそ、難しいのだ。それではどうすればいいのかといった悩みに対する実務的な情報が網羅された本書は、思いの詰まった物の処分に悩む人を導くはずだ。残された人のための一冊でもあり、目をきらきらと輝かせながらコレクションする人のための生前整理指南の一冊とも言える。悲しい相続、悲しい遺品整理にならないためにも、私も本書を片手に私物と義父母の荷物に向き合おうと思う。
文芸/ノンフィクション
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巡り合えてよかった一冊度
★★★★★

本間 悠
ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

悪人だらけの泥仕合、最後に笑うのは一体誰だ……!
今日もSNSでは、誰かが誰かに噛みついている。ゴシップ、誹謗中傷、炎上騒動。表立って「好き」とは言えないが、「つい見てしまう」人、全員集合! 悪人の、悪人による、悪人のための容赦なき“金むしり取り合戦”開幕だよー!
第1話の主人公は、とある配信者の女性に誹謗中傷を繰り返す主婦·大越真佐美、46歳。自業自得の極みだが、300万円の慰謝料を請求されてしまう。(誹謗中傷で慰謝料を請求されるのは2回目という救いのなさ。)真佐美をはじめ、2話も、3話も、4話も、どうしようもない人しか出てこないが、彼らは彼らなりの正義があり、それにのっとって行動していたりする。何言ってんだと吐き捨てたくなるようでいて、そんな彼らにどうしようもない人間臭さを感じてしまう。人間って、愚かで、どうしようもなくて、もう最高に面白いよ! ひたむきに、誠実に、慎ましく生きよう……そんな悟りの境地に達してしまう、悪人エンタメです。
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文芸/小説
金銭感覚バグりそう度
★★★★★

モキュホラーのK点越え作品が生まれました
警告。爽やかな装丁に惹かれて、安易な気持ちで手にとってはいけない。
『ダグダデイラ』は、今や大流行中のモキュメンタリーホラー。時にエッセイ風に、時にネットの書き込みを繋ぎ合わせながら、表現方法を変えて語られるエピソードの数々は、単体で読んでも十分に気味が悪く、グロテスクで、粒ぞろいの作品揃い。この手の作品ではボカされることが多い名称も、ほぼ実名で登場。(いいの?)匿名掲示板はもちろん、ポッドキャスト、SUUMO、ジモティー、Indeedなど、日ごろ私たちが目にする様々なサイトが、今作のリアリティを際立たせる。
蛾、蜘蛛、メロンの匂い、鏡、降霊の儀式。各エピソードに共通するモチーフは、繋がりそうでなかなか繋がらない。何が起こっているかが明らかになったとき……この読書体験はそのまま忘れられない悪夢になるだろう。モキュメンタリーホラーのK(超えてはいけない)点越え作品、自己責任でどうぞ!
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文芸/小説
映像化? 無理無理無理度
★★★★★

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系You
Tuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

社会の分断を「弱者」から分析する
政治的な分断は激しくなる一方だ。社会的な問題に対して、世論はリベラルか保守かという二つの陣営に分かれてしまう。そんな現状について、ひろゆき、石丸現象、参政党といったホットなトピックをとりあげて分析したのが本書だ。
キーワードは弱者である。一方には、移民や女性、障害者といった絶対的な弱者がおり、リベラルは彼らを守る。だがもう一方には、曖昧な弱者と呼ばれる存在がいる。主に2000年前後に起こった社会の変化によって、セーフティネットから外れた「弱者」だが、彼らは先の弱者ほどには明確な保護を得られていない(という自覚を持っている)。すると、自分たちはなぜ守られないのかという不満を抱き、絶対的な弱者へ矛先を向ける。これが現代の対立の一側面だ。曖昧な弱者の中には不満や不安といった気持ちが存在するのは確かだし、逆に絶対的な弱者はやはり弱い。ぜひ両陣営に読んでほしい。
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論考/社会
分断を構造的に把握できる度
★★★★★

「本×社会学」で読書をめぐる言説を検証しまくる
若者は本を読まなくなった、働いていると本が読めなくなる、本はマウントの道具にされがち、読書会って有用なのかといった、本をめぐる言説は枚挙に暇がない。だが実際のところはどの程度本当なのだろうか。本書では社会科学の知見を用いて、そうした俗説を学術的に検証していく。
面白かったのは、読書の趣味の良さに関する研究だ。あの本は高尚で、この本は低俗といった書籍の優劣はよく語られる。高尚な文学や哲学が高位に置かれがちだが、実はそれは今に始まったことではないらしい。というのも、有用性から遠いものを立派だとみなすのは、一般的な傾向だという研究結果が紹介されている。本書ではそうした傾向を「勘違い」とまで痛罵しており、読書家の端くれとしてはなんとも耳が痛い。
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ただし決してネガティブな話だけではなく、これからの本との付き合いのヒントも詰まっている。
論考/社会科学
とある読書会をしたくなる度
★★★★★

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

幸せに過ごせる脳を作るためのマニュアル
幼少期には、あれだけ些細なことでも心を動かして豊かな毎日を過ごしていたのに、大人になると感動が少なくなっていくのは何故だろうか。私は大人になり多くの経験をして、事象に慣れていったことで心が死んでしまったからだと思っていたけれど、本書で脳科学の見地から感情のプロセスを学ぶと、感情を抑え続けてしまっているからだということが分かった。そして、訓練さえ続ければ「嬉しいはずなのに心が動かない」ということもなくなり、昔のような純粋な心と感情を取り戻せると学べる。
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聞こえにくくなった心の声を聞こえるようにしていく手段について、脳の構造から述べてくれて、感じる力を取り戻す実践技術を記してくれているという点で、救いになる一冊だった。
自分の心が死んでしまった、と思ったとしても、心は回復することができる。そう希望を持ち、自分を取り戻すための方法がまとめられていた。
論考/脳科学
心が軽くなるテクニック満載度
★★★★★

自分の時間観を変えてくれる専門書
本書は我々から切っても切り離せない時間というものについて述べた専門書である。
そもそも日常に流れている時間というものが、どう定められているのか。そして、その時間がいかに定かではないものなのかを本書を読むことで知ることができる。
また、私たちは常に頭よりも足の方が若く時間の進みが遅いこと、移動をするだけで時間も旅していることなど、当たり前の日常に物理学は潜んでいると分かる。
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私は、物理学的な視点で見れば、時間というものは幻想に過ぎず、過去と現在と未来は同時に存在している、というブロック宇宙論というものに、その根拠とともに触れている部分が特に興味深く感じた。
ブロック宇宙論という考え方は、私の時間観とは全く異なったけれど、だからこそ新たな視点の発見に喜びを感じた一冊である。
論考/時間論
時間の概念を覆される度
★★★★★
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