
東宝の特撮映画『ガス人間第一号』(1960年)を原作とした、全8話のNetflixシリーズ『ガス人間』が7月2日より配信されている。
結論から申し上げれば「濃いめの味付け」のエンタメとして超面白い! 第1話から爆殺シーンがあるが、それ以外では過激な残酷シーンや性的な場面はほぼない。ドラマ『ガンニバル』の片山慎三監督×映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホ脚本というタッグだからこその、「刺激は強めだが比較的万人受けしやすい内容」に仕上がったと言えるだろう。
個人的には、小栗旬と蒼井優の「(今は)恋人ではない」が過去を多分に匂わせる間柄が味わい深く、さらには林遣都と広瀬すずには「兄妹萌え」が全開だったりと、キャラクター同士の関係性にも注目してほしい作品だった。決定的なネタバレは避けつつ、さらなる魅力を紹介していこう。
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※以下、Netflixドラマ『ガス人間』および映画『ガス人間一号』の一部内容に触れています。
「良いヤツ」の小栗旬と「猪突猛進」な蒼井優が協力(?)する

物語の発端となるのは、生放送中のテレビ番組で出演者が突如として膨張して爆発するという怪事件。犯人を名乗る男は自身の身体を気体にできる「ガス人間」であり、彼は大胆不敵にも「記者会見」や、次のターゲットの「殺害予告」などを告げていく……というのが基本的なあらすじだ。
そのガス人間を刑事・岡本賢治(小栗旬)と記者・甲野京子(蒼井優)が追うのだが、序盤はこの2人がどうやら知り合いであること、もっと言えば「元恋人なのではないか?」「いやそれだけでもないのかも?」と複雑な関係を匂わせている。「超常的な力を持つ殺人犯をどう追うのか?」メインのプロットに加えて、その2人の過去に何があったか、どのように関係が変わっていくかも、興味を引くのだ。
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また、小栗旬演じる岡本刑事は一見、粗野でぶっきらぼうにも見えるが、序盤から「店主から理不尽な叱責を受けている外国人の店員を助けようとする」ことから、真っ当な正義感を持つ良い人であることが存分に伝わる。一方で蒼井優演じる甲野記者は、命の危険がある事態にも首を突っ込む上に「ジャーナリズムを最優先にしすぎる」面もあるため危なっかしく、たびたび岡本刑事から止められたり心配されたりもする。
ともかく、「やさぐれているようで正義感があるし良いヤツ」の小栗旬、「猪突猛進で危なっかしい」蒼井優の関係にも大いに期待してほしいのだ。
林遣都と広瀬すずの「ぜんぜんバズらない」配信者の兄妹の関係も尊い

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さらに、第4話からは「オカルト/都市伝説系チャンネル」を運営する配信者の兄妹、藤川富士太(林遣都)と、その妹の藤川華歩(広瀬すず)が本格的な活躍を始める。
彼らは登場の時点で「なんで登録者がまったく伸びねぇのかねぇ!」「単純に面白くないからでしょ…」などと言い合う弱小動画配信者であり、「どうしようもないダメな兄妹」に見えるし、一念発起して自分たちで「ガス人間」を追おうとする動機も「視聴者数またはお金稼ぎ」のため、とても褒められたようなものではない。彼らの言動はややコミカルで、これまでのシリアスな展開から意図的にせよ「浮いて」いるため、一定の賛否も呼ぶだろう。

しかしながら、2人がお互いを思い合っている兄妹であることも、多分に伝わる。富士太は(顔にアザがあるために)配信動画に映ろうとしない華歩に「お前は自分が思っているより美しいんだよ」と浮いたセリフを口にするし、誕生日プレゼントをもらった時に富士太は「やっぱりお前しかいない。カモン、マイシスター!」とハグを誘って、華歩から「キモッ」とあしらわれたりもする。
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また、華歩は「お兄ちゃんとぜんぜんバズらない動画配信するのもそれなりに楽しいし」と現状維持を望んでいたりするが、富士太は「今のままでも楽しいのに大儲けしたらもっと人生楽しくなるだろ」と返すなど、2人の価値観にはごくわずかな“ズレ”があり、それが後の悲劇的な出来事につながってしまうというのが、切なくも愛おしいのだ。
原作の『ガス人間第一号』は「推し活」時代の今こそささる映画だった

原作となる映画『ガス人間第一号』と今回のNetflix版『ガス人間』では、岡本賢治と甲野京子という主人公2人の名前および刑事と記者という立場、ガス人間が殺人犯として世間を翻弄することは共通している。しかし、大きく異なるのは、ガス人間の「犯行動機」だ。
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『ガス人間第一号』の犯人である水野(土屋嘉男)は、落ちぶれた日本舞踊の家元・藤千代(八千草薫)に大々的な発表の場を設けようと、資金作りのために銀行強盗をする。いわば、落ち目の「推し」を再び輝かせたいという動機で犯罪に手を染めるのだ。「推し活」が取り上げられやすい令和の今こそ、切なくも共感してしまう……いや、しかし「絶対に間違っている」動機として受け取られやすいのではないか。
一方で、Netflix版『ガス人間』では、映画版のガス人間の「推し」である藤千代に当たる人物は(少なくとも序盤は)いないように見えるし、犯行の動機も声明からは「復讐」を匂わせている。加えて『ガス人間一号』で強烈な印象を残すクライマックスのシチュエーションも大きく変わっており、そちらを支持していた層からは、さまざまな反応が寄せられるだろう。
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詳細はネタバレになるので控えるが、今回のガス人間の動機や、その本質は悲しくも切なく『ガス人間第一号』にあった物語の精神性をないがしろにしていなかった。特に、ガス人間が「誰のために」犯行を繰り返していたのか……そのまさかの真相にも期待してほしい。
また、前述した刑事・岡本賢治と記者・甲野京子は、かつて恋人同士でありながら、現在は互いを深く認め合う関係にあると言える。一方、弱小配信者兄妹の藤川富士太と藤川華歩もまた、支え合う存在として描かれている。こうした人物同士の”恋人じゃない”結びつきこそが本作の大きな魅力であり、大胆な脚色やアレンジを施しながらも、「推し」の感覚や関係性を損なわないことが、原作に対する最大のリスペクトなのかもしれない。
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社会不安に絡む要素、そしてMVPは……

また、「人智を超えた力を持つ犯罪者が大きな社会不安を呼び起こしてしまう」ことが描かれていることも重要だろう。映画『ガス人間第一号』では模倣犯が発生し、何かをガス人間のせいにする風潮がはびこっていたが、Netflix版『ガス人間』では弱小配信者の危険な行動に繋がるほか、「都知事選挙」にも絡んでくるという大胆な作劇がされている。
はたまた、「過去に重大な罪を犯した者の贖罪」も描かれている。特にNetflix版では、とある人物が「本当のことを知っているのに、何もしなかったら、いつかきっと自分を憎むことになる」と言うことが、「大切な誰かに告げているようで自分自身にも言っている」心理として描かれていた。
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そのような社会派の面や登場人物の心理も面白く見られるが、基本はやはり「モンスター映画」を観ているようなエンタメ性、特にアクションシーンだ。『ゴジラ-1.0』で米アカデミー賞視覚効果賞を受賞した「白組」が参加してこその「ガスが人間を襲う」画は迫力とリアリティーがあり、スピーディーなカーチェイスも展開する。日本映像作品初となる東京駅前全面封鎖での撮影も報われる、「今までに見たことがない画」も用意されていたのだ。
そして、豪華キャストそれぞれが最高のポテンシャルを発揮しているなかでMVPと言えるのが、本作が演技初挑戦かつ俳優デビューとなるガス人間役のUTAなのかもしれない。彼は俳優の本木雅弘とエッセイストの内田也哉子を両親に持ち、さらに祖父母が内田裕也と樹木希林という芸能一家の生まれで、その端正な顔立ちとスタイルはもとより、ガス人間の「無機質さ」「人間味のなさ」をも見事に体現していた。
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さらに驚くべきは、第5話から判明するガス人間の過去における、それまでとは全く違うUTAの演技だ。こちらもネタバレになるので詳細は控えておくが、冷酷な殺人犯としてのガス人間の彼を見ていたからこそ、より衝撃的だろう。ぜひ、そのまま最後まで一気見する勢いで、観る人それぞれの「推し」を応援してみてほしい。

Netflixシリーズ「ガス人間」独占配信中
文=ヒナタカ
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