
夫・翔太と子ども、3人で暮らす結衣。翔太のやりっぱなし、出しっぱなし、突然想定外の行動を取る……などの行動に悩まされていた。そしてある日、「夫はADHDではないか?」という疑念を抱くようになる。そしてADHDについて調べるうちに、発達障害のあるパートナーと生活する中で孤独感や絶望感、無力感に襲われる状態を「カサンドラ症候群」と呼ぶことを知る。しかし、そこまでわかっても解決策は見いだせず、絶望する結衣。そこに「ADHD謎解き探偵団」を名乗るブルドッグと女性が現れて……。
『もしかして、うちの夫はADHD? ~夫の見てる世界を体験したら、すれ違いが減りました~』(はなゆい/オーバーラップ)は、“夫の見てる世界”を通じて、夫婦の間に生じるすれ違いをどう捉え直していくかを描いた作品だ。ADHDの人、そしてそのパートナーからも支持を集める本作は、どのようにして生まれたのか。ADHDグレーである著者・はなゆいさんに話を聞いた。
続きを読む
――作中では「夫が提案した外出がいつもうまくいかない」というエピソードを通してADHDの特性のひとつである“未来シミュレーションの弱さ”が描かれています。これはADHD特性のあるパートナーを持つ方からよく聞く困りごとなのでしょうか?
はなゆいさん(以下、はなゆい):かなりよく聞く困りごとのひとつですね。ADHD当事者は「ここ行きたい!」「楽しそう!」という“今のワクワク”をとても強く感じることが多いんです。でも実際に外出するとなると、混雑状況を調べたり、天気を確認したり、事前に考えるべきことがたくさんありますよね。そうした少し先の展開を頭の中でシミュレーションするのが苦手な場合があるんです。そのため、本人は善意から提案しているつもりでも、実際にはかなり無理のあるスケジュールだったり、家族側に負担が偏ってしまったりすることがあります。特に小さいお子さんがいる家庭では思いつきで行動することのハードルは高いですよね。その結果パートナー側が疲弊しやすい。
続きを読む
ただこれは無責任というより、“見えている範囲の違い”が原因なのかなと思います。だからこそ、夫婦で「どこまで事前確認するか」を共有したり、提案する人と調整する人の役割を意識したりすることが大切だと思います。
――外出以外にも、未来シミュレーションの弱さから生じる困りごとはありますか?
はなゆい:たくさんあります。例えば締め切り直前まで動けない、予定を詰め込みすぎてしまう、後先を考えずに行動してしまうなども関係していると考えられます。家事や育児では「今準備しておかないと明日の朝パニックになるからやっておこう」など、今の行動が未来にどう影響するかを想像する力ってかなり必要ですよね。でもADHD当事者は“未来の困りごと”より、“今の感覚”の方が強くなってしまうことがある。パートナー側が常に先回りして考えている場合「なんで想像できないの⁉」となりやすいんです。
続きを読む
――作中には、未来シミュレーションの弱さは経験を積むことで改善できると描かれています。はなゆいさんもADHDグレーとのことですが、経験によって改善されたと感じることはありますか?
はなゆい:かなりあります! 私は昔、本当に「なんとかなる!」で生きていたタイプでして(笑)。待ち合わせの時間を間違えたり、忘れ物したりということを何度も繰り返してきました。特に印象に残っているのが、高校受験の時に試験時間を勘違いして遅刻してしまったことです。その時から「自分は“普通にやればできる”タイプではないんだ」と自覚しました。今は、リマインダーを何重にも設定したり、持ち物を固定化したりと「未来の自分を信用しない仕組み」をかなり作っています。
続きを読む
子どもが生まれてからは、失敗が自分だけの問題では済まなくなる場面が増えたので、より意識するようになりました。もちろん今でも失敗しますが、「なんでできないんだろう」と自分を責めるより「どうしたらできるか」を考えられるようになったのは大きな変化だと思います。“未来を想像する力”そのものが劇的に向上したというより、「失敗しやすい自分を前提に準備する力」が身についた感覚に近いです。
取材・文=原智香
記事一覧に戻る