
夫・翔太と子ども、3人で暮らす結衣。翔太のやりっぱなし、出しっぱなし、突然想定外の行動を取る……などの行動に悩まされていた。そしてある日、「夫はADHDではないか?」という疑念を抱くようになる。そしてADHDについて調べるうちに、発達障害のあるパートナーと生活する中で孤独感や絶望感、無力感に襲われる状態を「カサンドラ症候群」と呼ぶことを知る。しかし、そこまでわかっても解決策は見いだせず、絶望する結衣。そこに「ADHD謎解き探偵団」を名乗るブルドッグと女性が現れて……。
『もしかして、うちの夫はADHD? ~夫の見てる世界を体験したら、すれ違いが減りました~』(はなゆい/オーバーラップ)は、“夫の見てる世界”を通じて、夫婦の間に生じるすれ違いをどう捉え直していくかを描いた作品だ。ADHDの人、そしてそのパートナーからも支持を集める本作は、どのようにして生まれたのか。ADHDグレーである著者・はなゆいさんに話を聞いた。
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――ADHDの方の特徴として挙げられるワーキングメモリの小ささを疑似体験するため、トイレットペーパーの芯を通して家の中を観るエピソードが登場します。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
はなゆいさん(以下、はなゆい):これは、私が以前参加した発達障害に関する勉強会で体験したワークがもとになっています。当時はまだ自分がADHDグレーだとは気づいていなかったのですが、もともと心理学や発達について興味があって、勉強会によく参加していたんです。その中で、「発達障害の人が見ている世界を疑似体験してみよう」というワークとしてこの取り組みがありました。単純そうに見えて、実際やってみるとかなり不便なんです。視界が狭くなることで目の前の情報に意識が集中しすぎたり、逆に周囲の情報が抜け落ちたりする。他にも「軍手をはめた状態で細かいパズルをする」というワークもあったのですが、「できなくはないけどすごくやりづらい」という感覚がありました。
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その時に感じたのが、ADHDの方とそうでない方では、そもそも情報の入り方や世界の感じ方が違う可能性があるということです。周囲から見ると「なんで普通にできないの?」と思うようなことでも、最初から見えている世界が違うのだとしたら、その困難さはまったく別のものになりますよね。
私が参加した勉強会では「相手がどう感じているのかを知る」ことを大切にしていて、それもとても印象に残っています。この体験を通して「理解するということは知識を覚えるだけでなく、感覚を想像することでもある」と感じたので、このエピソードを漫画に入れました。読者の方にも「当事者はこういう感覚なのかもしれない」と想像するきっかけになったら嬉しいですね。
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――はなゆいさんのご自宅では、ハサミや爪切りなどの日用品を夫婦で共有せず、それぞれで管理しているとありました。これはどのような経緯で始まったのでしょうか?
はなゆい:これは私ではなく、夫が自然に始めた工夫なんです。私は昔から「あれ? どこに置いたっけ?」となりやすいタイプで(笑)。そうすると自分も困るのですが、共有の物だと相手にも迷惑をかけてしまいます。そこで夫は私を責めるのではなく、自分が困らない仕組みを作る方向で考えたんです。最初は「そこまで分けるんだ」と驚いたのですが、やってみるととても合理的でした。私自身も「なくしたら自分だけが困る」と思える方が、気持ちが楽だったんです。お互いの管理の範囲を分けたことでストレスが減り、我が家ではうまく回るようになりました。漫画に登場している他の対策も、夫がやっていた工夫をヒントにしたものが結構あります。
――作中で妻が考えた「努力の上限を決める」というのも自分の心を守るのに大切なのだと感じました。
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はなゆい:私はADHDグレーという立場でもあるので、支える側の気持ちが知りたいと思い、発達障害のある方のパートナーや、カサンドラ症候群についての情報を数多く見るようになったんです。その中で印象的だったのが、カサンドラ状態になる方ほど真面目で責任感が強い人が多いということでした。「私が頑張ればいい」「もっと理解しなければ」と、限界まで頑張ってしまうんです。でも、人は頑張り続けると、少しずつ心がすり減ってしまいます。だから自分を守るために、「努力の上限を決める」ことが必要なんだと強く感じました。
取材・文=原智香
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