※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026月8号からの転載です。

13世紀、知を武器にモンゴル帝国に復讐を果たそうとする女性の物語『天幕のジャードゥーガル』。「このマンガがすごい!2023」オンナ編1位を獲得し、「マンガ大賞」に2023年、24年と連続ランクインした話題の歴史創作マンガが、7月よりTVアニメに。主人公シタラを演じる関根明良さん、原作者のトマトスープさんのインタビューとともに、原作およびアニメの魅力に迫る。

モンゴル史に名を残すふたりの女性の復讐譚
モンゴル帝国が世界を席巻する13世紀、この最強帝国を内側から覆そうとする“魔女”がいた──。『天幕のジャードゥーガル』は、かつてモンゴル帝国に実在した女性をモチーフに、著者トマトスープさんが想像を膨らませた歴史創作マンガだ。イラン東部のトゥースで暮らす奴隷シタラは、学者一家の心優しい奥方・ファーティマに拾われ、幸せな幼少期を過ごしていた。彼女の息子・ムハンマドからは知の大切さを学び、いつか彼に追いつくことを夢見て教養を深めていく。だが、モンゴル帝国は日に日に勢力を拡大し、やがてシタラたちが暮らす街にも侵攻。帝国軍はシタラの大切なものを奪い去り、彼女は捕虜としてモンゴルへ送られることになる。帝国への復讐を誓い、敬愛するファーティマを名乗るようになったシタラは、かの国でチンギス・カンの第三皇子の第六妃であり、帝国を憎むドレゲネと出会う。奴隷と妃、立場は違えどモンゴル帝国に深い恨みを抱く女性ふたりが、この国に嵐を巻き起こそうと決意する。
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そんな権謀術数渦巻く話題のマンガが、このたびTVアニメに。映画『聲の形』『きみの色』で知られる山田尚子氏を総監督に、『ダンダダン』、『映像研には手を出すな!』を手がけたサイエンスSARUがアニメーションを制作。異国の空気感を描き出した映像、登場人物の感情を豊かに伝える声、民族楽器を取り入れた臨場感あふれる音響により、13世紀のユーラシア大陸を眼前に立ちのぼらせている。アニメ化により新たな命を吹き込まれた歴史物語を、ぜひ最後まで見届けてほしい。


シタラ役・関根さんが解説!
1 人生観や信念がぶつかり合う“絶対悪”の存在しない物語
「この作品の登場人物は、それぞれがしっかりとした人生観を持っています。己が信念のため、己が愛するもののために我が道を突き進んでいく。その思いがぶつかり合うことで、戦いが生まれてしまうのです。絶対的な悪は存在せず、ただ信じるものが違うだけ。実際、3話でも、ファーティマの書物を奪ったトルイのもうひとつの側面が描かれていましたよね。どの視点で物語を観るかによって違う面白さが生まれるので、ぜひ一人ひとりの生き方に注目してください」(関根さん)
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2 市場の土煙、草いきれ……におい立つような情景描写
「とても可愛い絵柄ですが、光の表現や背景描写が美しくてまるで絵画のよう。ヘナ(染料)で染めたファーティマ奥様の指先、その動きひとつとってもこだわりが感じられ、サイエンスSARUさんの深い作品愛と情熱を感じます。現地の音楽や環境音も臨場感を演出していて、ペルシアやモンゴルの風、草原の青臭さ、家畜のにおいまで感じられるよう。細部まで楽しんでいただけたらうれしいです」(関根さん)


■【シタラ役 関根明良インタビュー】

言語化できない感情を抱えて生きる登場人物たち
「原作を読み始める前は、1巻の表紙を見て、『このかわいい女の子が活躍する歴史冒険譚かな』なんて思ったんです。実際、冒頭ではちょっとふてくされていたシタラがファーティマ奥様やムハンマド坊ちゃんと出会って、知の大切さに目覚め、輝かしい日々を過ごしていますよね。だからこそ、その後の展開に『え……!?』と言葉を失ってしまって。すべてを奪われる絶望を味わい、クラクラしました」
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大きな目をさらに見開きながら、原作を読んだ時の衝撃を語る関根さん。その後、モンゴル帝国に復讐を誓うシタラに、関根さんはある種の弱さを見たと話す。
「最初はシタラのことを、絶望を味わってもなお炎をたぎらせる強い女の子だと思っていました。でも、読み進めていくとただ強いだけじゃないように思えてきて。彼女はきっと幸せな思い出にすがらなければ、絶望から這い上がれなかったんじゃないか。気持ちを切り替えて生きられるほど、強くはなかったんじゃないかと思うようになりました」
シタラを演じるにあたり、音響監督から言われたのはこんなひと言。
「『どのキャラクターも言語化できない感情を抱えているので、演技ですべてを説明しようとしなくていい』と言われました。また、解釈の幅が広い分、演じるのが難しくて。登場人物がどうしてその思いに至ったのか、その解釈が無数にあるため、シーンによっては何パターンも録ることがありました。ディレクションをいただき、前後の流れや他の皆さんの演技を受けて、無我夢中でシタラの思いを表現して。常に脳がフル回転しているので疲労が凄まじく、マネージャーさんに『すみません、だいぶガス欠です』と話していたこともありました(笑)」
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中でも印象に残っているのは、1話冒頭でシタラが市街を走る場面だそう。セリフはなく、息遣いのみのシーンだが……?
「映像では前傾姿勢で走っていますが、『ちょっとのけぞるようなイメージでかわいく走ってほしい』というディレクションをいただきました。でも、何度録っても、うまくできなくて。そんな中、ファーティマ奥様に仕えるアニース役の伊瀬(茉莉也)さんが『小さい子って跳ねるように走るかも。ボールにたとえると前に回転するというより、後ろ回転で上に跳ねながら前に進んでいく感じ。そう意識してみたらどうかな』とアドバイスをくださって。そのイメージをもってトライしたところ、OKをいただけたんです。伊瀬さんへの感謝でいっぱいですし、セリフのないシーンでも絶対に妥協を許さないスタッフの熱意を感じました」
監督、動画スタッフ、キャスト、音響スタッフ――。作品に関わるすべての人が愛と情熱を持って制作に臨んでいるからこそ、極めてクオリティの高いアニメーションに仕上がっている。
「音響監督の小沼(則義)さんが、作中で描かれるモンゴルの歴史を丁寧に調べてくださって。現地の風習や食べ物まで一つひとつ説明して、時代背景を私たちが飲み込んだうえで収録できるようにしてくださいました。何気ないアドリブやちょっとしたリアクションまで『もっとこうしたらどうでしょう』とこだわり抜き、挑戦するような熱い収録でした」
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3話以降は、モンゴル帝国の捕虜となったシタラの復讐の炎が、青白く燃え盛っていく。
「モンゴルでは新たな交流も生まれ、シタラもさまざまな人から影響を受けて成長していきます。復讐の炎は弱まる時もあれば、薪をくべられてより一層強まる時もある。『ああ、運命の歯車ってこういうことなのね』と感じる場面もますます増えていくので、シタラの行く末を見守ってください」
せきね・あきら●東京都生まれ。主な出演作に、『ひろがるスカイ!プリキュア』(キュアスカイ/ソラ・ハレワタール役)、『これ描いて死ね』(安海相役)、『花織さんは転生しても喧嘩がしたい』(花織ミーティア役)などがある。
■【原作者 トマトスープインタビュー】
知の交流を促進したモンゴルの一面も描きたい
学生時代からモンゴル史に興味を抱き、趣味で歴史マンガを描いていたトマトスープさん。きっかけは、遊牧民の生き方に価値観を大きく揺さぶられたことだった。
「遊牧民は、昔から農耕民族や狩猟民族とはまったく違う経済活動を続けてきました。例えば、畑を作れないので、食べ物はほぼ家畜と乳製品のみ。年長者から次々独立していくので、末っ子が財産を受け継ぐという“末子相続”も、日本では馴染みの薄い風習です。考え方や文化の違いが面白くて、モンゴルに惹かれるようになりました」
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そんな中、女性マンガ誌から連載の依頼が。女性を主人公にしようと考え、着目したのがチンギス・カンの第三皇子の妃ドレゲネだった。
「彼女は、後世の歴史書において評価の低い人物です。でも、男性優位社会で一時はトップに立ったわけですから、何かしらのタレント性はあったはず。なぜ高い地位に就いたのか、その理由を想像で埋めればドラマチックな物語になると思いました」
ただ、ドレゲネを主人公とするには問題があった。
「彼女は皇后ですから、自由に動くことができません。そこで、腹心のファーティマ(=シタラ)を主人公にすることに。彼女も実在の人物ですが、出自を変えてトゥース市で暮らす奴隷にしました」

設定を変えることで物語に広がりが生まれ、「13世紀のユーラシア大陸における知の交流」というテーマを描くこともできたという。
「フィクションにおけるモンゴル帝国は、暴力性を強調されがちですよね。ただ、それは一面的な見方のような気がして。この時代は交通網が整備され、東は朝鮮半島、西はヨーロッパまで道がつながりました。文化や技術の交流が活発になったという側面も、描きたかったんです」
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とはいえ、シタラからすればモンゴル帝国はすべてを奪った敵国。彼女の心情も、モンゴル帝国の功罪とともに描き出している。
「連載開始後に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったのも大きかったですね。ロシア軍がウクライナの街を占領し、一度破壊してからきれいな街に造り替えている。そう聞くたびに、かつてその地に住んでいた人たちは、自分の家があった場所で別の家族が幸せに暮らすのを見て、どんな気持ちになるだろうと思って。せめてシタラは、敵国に屈しない人として描こうと思いました」
アニメでは、そんな彼女の壮絶な半生が克明に描かれていく。トマトスープさんはどう受け止めたのか。
「大好きなサイエンスSARUさんが素晴らしい映像にしてくださり、夢がひとつ叶いました。マンガではどうしても日常シーンを削らざるを得ず、一気に数年後まで時間を飛ばすこともあります。でも、アニメではその間どんな日々を過ごしていたのか、日常が補完されていたんですね。シタラがこの世界で生きているように感じられ、愛着が湧きましたし、世界観への没入感も深まりました」

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世界各国の人たちに、アニメを観てもらうのも楽しみだそう。
「韓国など、歴史上モンゴル帝国と関わりのあった地域の方もご覧になると思います。そういう方々にも楽しんでいただけたらうれしいです」
現在5巻まできた原作マンガでは、モンゴル帝国に新たな火種が生まれつつある。今後どんな展開が待ち受けるのか。
「物語の出発点であるイランのトゥースという街が、モンゴル帝国においても重要な地になっていきます。また、シタラは恵まれた環境で育った奴隷ですが、そうではない人物も描きたくて。中でもアルグンという人物は、女性誌でなければ主人公にしようと思っていたキャラクター。シタラと同じテーマを背負いつつ、違う答えを出す人物なので注目していただきたいです」
とまとすーぷ●趣味で中世~近世の世界史をテーマとした歴史マンガを制作。2019年、『ダンピアのおいしい冒険』でデビュー。『天幕のジャードゥーガル』のほか、13世紀のジョージア王国を舞台にした『奸臣スムバト』も連載中。

原作
最新6巻7月15日発売予定!
『天幕のジャードゥーガル』(1~5巻)
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トマトスープ
秋田書店ボニータC 各880円(税込)
13世紀、モンゴル帝国にすべてを奪われ、トゥースで暮らしていたシタラは捕虜にされる。復讐の炎を燃やす彼女が帝国第三皇子の妃ドレゲネと出会ったことから、運命が大きく動き始める。
TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』
原作:トマトスープ『天幕のジャードゥーガル』(秋田書店「Souffle」連載) 総監督:山田尚子 監督:Abel Gongora シリーズ構成:加藤還一 声の出演:関根明良、小清水亜美、桑島法子、齋藤 潤、下野 紘、鈴木崚汰、入野自由、浪川大輔、野島健児 ほか アニメーション制作:サイエンスSARU
毎週土曜 23時30分〜テレビ朝日系全国24局ネット“IMAnimation”枠・BS朝日ほかにて放送中!
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