2024/10/22
アン ミカ「SNSは劇場やで!」最新日めくりカレンダーに込めた思い「もっと身近な人の笑顔、言葉の心地よさに目を向けて」
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ポジティブ女王の異名を取り、2021年に刊行されたポジティブ日めくりカレンダー『毎日アン ミカ』で、多くの人たちの背中を押してくれたアン ミカさん。まぶしい笑顔と関西弁を織り交ぜた柔らかくも説得力のあるトーク、相手に寄り添った気さくな存在感が、同世代だけではなく、若い世代からも支持されています。
新作となる日めくりカレンダー『今日もアン ミカ』(講談社)は、この3年間でアン ミカさんが得た気づきが言葉となって記され、より今の時代に即した内容に仕上がっているといいます。どんな立場の人の心にも響きそうなカレンダーへの熱い想いを、インタビューで惜しげもなく語ってくれました。
アン ミカさん自身もカレンダーの言葉に救われている
——約3年前の前作『毎日アン ミカ』では、多くの人がアンミカさんの言葉に救われました。その反響をどのように受け止めましたか?
アン ミカさん(以下、アン ミカ):とてもありがたいことです。よく勘違いされるんですけど、私はまったく完璧主義ではないし、むしろできないことが多すぎてグダグダしやすいタイプ。この日めくりカレンダーに、実は自分自身も励まされているんです。ただ、こういう言葉を言う人は完璧じゃないと説得力がないという考え方もあると思うので、反響があったと聞いて、私自身も救われました。
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——おっしゃる通り、完璧なイメージがあったので、読む人たちと同じ目線で受け止めているとは意外です。
アン ミカ:ほんとにそうなんです。カレンダーの言葉も、編集のみなさんと一緒に、いろんな方のケースを考えて作らせていただきました。たとえば、お子さんやご家族、会社のことで悩んでいらっしゃる方とか、私とは違う人生を歩んでいる方の悩みを聞いて。いろいろ調べたりするなかで、「こういう声をかけてあげられるかもしれない」と想像して、自分がハッとした言葉をスマホのメモ帳に何百と書き溜めたりもしました。
——なるほど、新作の『今日もアン ミカ』を読んでいても、偏りがなく、つい言い過ぎてしまう人、引っ込み思案の人など、いろんなタイプの悩みを解消してくれそうだと感じました。普段はプライベートでも、悩みを相談されることがあるのでしょうか。
アン ミカ:友達から人生相談をしていただく機会は多いですね。「私だったらこう考えるけど、あなたの性格なら、こうしたらどうだろう」と提案させていただくなかで、自分でも思いもよらない答えが出てくることがあって。池上彰さんもおっしゃっているけど、いい質問があるから答えさせてもらえる。自分ひとりの人生だったら考えもしなかったことを一緒に考えさせてもらえる。友達は「相談に乗ってくれてありがとう」と言いますが、私を信頼してくれて、答えさせてもらえることで、私にとっても新しい気づきがあるので、私からしたら、相談相手に選んでくれてありがとう…と、すごく感謝しているんです。
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——お互いのためになるんですね。相談する側も、相談される側も。
アン ミカ:はい。カレンダーの中には、実際に私が受けた相談から浮かんだ言葉もあったので、友達には「ありがとう」と伝えています。自分だけにフォーカスして生きていたら、気づかなかったことがたくさんあります。読書や舞台で、自分以外の人生に同情したり共感したりすることで気づきが生まれることがありますけど、それと同じかもしれません。
未来の自分のために今の時間を使いたい
——『今日もアン ミカ』には、この3年間の新しい日常から得たことが盛り込まれているとか。この3年間といえば、コロナ禍を避けては考えられませんね。
アン ミカ:コロナ禍の3年間、世界中の人が同時期に未曾有の体験をして、生きているって事は本当に奇跡の連続の結果なんだと思ったんです。「行ってきます」と家を出て、「ただいま」って帰ってくる毎日は奇跡の連続。日々生きていると、“もっといいことがあればいいのに”って思ってしまうけど、比較的自由で豊かな日本に生まれて生きていること自体が奇跡。100年前は女性が自由に学ぶ権利も、職業を選択する権利もなかったくらいですから、この時代に生まれたことも奇跡。生きることへの普遍的な想いを、あらためて「当たり前は奇跡やねんで」という言葉に込めました。
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そして、以前から感じていたのは、過去を憂き、未来の不安に打ちひしがれて、「今」が疎かになることが多いのでは?と、過去と他人は変えられないけど、自分と未来は変えられる。だから過去は学びにしていき、「今」の意識を、自分がどんな未来に向かいたいのか想像することに向けてみる。コロナ禍では毎日新しい情報が出ることを信じて、未来の命のために祈ることしかできませんでしたよね。その想いを言葉にしたのが「人生の脚本家は自分やで。いつでも書き換えられる」です。
英語の「Present」っていう言葉には「現在」という意味もあって、「現在から未来の自分にプレゼントを渡していく」とも考えられると思うんです。人生はその繰り返しなんだなと、あの3年間の日々が、人間の基本に立ち返るいい機会に私はなりました。
——コロナ禍を過ごしたすべての人の心に響きそうですね。
アン ミカ:はい。このカレンダーを毎月見て、口に出しているうちに潜在意識に入っていくことをイメージしたので、ほぼ言葉を断言していないんです。パンチのある言葉は関西弁で和らげているし。視覚情報が5割(メラビアンの法則)といいますけど、目から入った言葉は頭にこびりつくことが多いから、標識みたいな言葉をご自身なりに受け取ってもらえたら。
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——毎日眺めているうちに、自分の言葉としてからだに浸透しそうです。
アン ミカ:みなさんの独り言にしてほしくて。字体も、みなさんの心の中にスッと入っていけるように、楷書っぽいものもあれば、マルチフォントもあって。言葉にあわせて変えるように提案させていただきました。
——個人的には、「あかん!」というお叱りの言葉にハッとしました。もう大人ですけど、本当にダメなときは、ちゃんと叱ってもらえるのが嬉しいような気がして。 「あかん!」は、ご友人から相談を受けたときにもおっしゃる言葉なんでしょうか?
アン ミカ:そうですね。口癖でよく言ってることを、わかりやすく文字にしました。「夜はあかん、朝考えよう」とかね。友達も、夜中の1時2時に連絡してくる子が多いんですよ。私は寝るのがめちゃくちゃ早いので「正直迷惑や。時間泥棒はあかんで」と言います。誰かれ構わず聞いてほしいっていうのは、人が生活をする上ではやっぱりダメ。それができないから連絡してきてるんけどね…(笑)
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人に迷惑かけると次から会いたくなくなるし、次からなんか構えてしまう。長く付き合いたいからこそ、無理して受け入れるとお互いに良くない。だから、「できるだけ夜は考えすぎず、朝になってから書き出してみ、夜は自分を労る時間にして、朝はモチベーション上げるように考えてみ」って、友達に伝えるような口癖をそのまま。文字が多すぎてもカレンダーを見なくなるので、わかりやすくスパン! と緩急をつけて書いています。
バラエティ番組で「胸の目で見る」を実践
——お友達からも頼りにされているのだなと感じます。1日目の言葉は、普段大切にされているという言葉「和顔愛語」。アン ミカさんは笑顔と一緒に、姿勢の良さをつねに心がけているそうですね。
アン ミカ:はい。内臓が疲れるとからだをかばおうとして猫背になるので、「疲れてるんだな、労らなきゃ」と思ってスッと背筋を伸ばしたり。バラエティ番組でも、タレントさんが喋ったあとに「あ、そうなんだ、私もね…」って、目だけではなく上半身ごと相手のほうに向けた「胸の目」で見て話しかけると、その方が心地よく返事をしてくれるんです。その方にからだを向けず、目線だけを向けて話をすると、会話が弾まない。自分がぞんざいに扱われているという印象を受けるのだと思います。
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どんないい笑顔をしていても、胸の目があっちを向いていると偉そうに見えちゃう。(実際にからだと表情を動かしながら)胸ごと相手に向けていると「へ~」と笑顔で聞けるのに、胸の目をそらした瞬間に「ふ~ん」って顔になっちゃう。顔とからだが一緒じゃないと表情まで変わっちゃうんです。不思議ですけど。だから、私のお母さんから教わった“オープンハート”で、胸の目で相手を見るようにしています。
——胸の目で見る、ですね。たしかに、からだの向きを変えるだけで、心まで相手に開いていくような気持ちになります。
アン ミカ:「プロトコール」という世界の王室などで使われているマナーの中にも、ハートを相手に向けるというマナーが紹介されています。“マナー“と聞くと堅苦しく思いがちですが、周りに迷惑をかけず、みんなが心地よく過ごすための“思いやり“だから、知っているとより周りと平和に過ごせるんです。知らなくてもいいんですが、知っていると楽しく過ごせると思います。でも難しいです。知っていると、つい指摘したくなり、知らない人に恥をかかせる雰囲気になってしまうことが多いから…。
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でもマナーって知れば知るほど、「相手に恥をかかせちゃいけない」ということがわかるのがフィンガーボールのお話。はじめに教わるんですが、王様が村人をねぎらうために宮殿にお招きになって、一番貧しい人がフィンガーボールの水を飲んじゃった。周りの人は大笑いしたけど、王様は同じように水を飲み、「もう一度ボールに水を入れるけど、次は指を洗うために使いましょう」とみんなに伝えるんです。あえて恥をかいている人に目線を合わせるという学びです。
何もそんな大袈裟なことはしなくてもいいんですけど、それくらいの気持ちで相手に恥だけはかかせないで…と教わってから、私自身も救われたんです。小さい頃、韓国のおうちで育ったので、ご飯をスプーンで取ってスープに浸してクッパにして食べていたら、学校で行儀が悪いと笑われて。子どもの頃は何も知らないから、うちが恥ずかしい家なんだと思ってしまったことが…。それ以来私は、人を笑うのではなく、相手に何か事情があるのかも…と一旦は思い巡らせてみたり、大人がしていることをニコニコしながら真似したりする行動が身に付いたんです。自分から誰かに聞けるようになったら、その場でどうすれば周りの人に恥をかかせないでいられるのかを大人たちに聞いていました。昔はネットなんてなかったですから、見て学ぶしかなかった。
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SNSは劇場やで! 言いたいことは一度メモ帳に書いて
——「ちょっと待って! その返事で大丈夫? 一度相手を思い巡らせてみよう!」という言葉にもハッとしました。メールやSNSをするとき、仕事でもプライベートでも役立ちそうです。
アン ミカ:私も昔、恋人に振られて、友達に失恋の愚痴を送っていたら、間違えて本人に送ってしまって…(苦笑)。間違えて気まずいメールを本人に送ってしまうことってけっこう経験があると思うんです。ボタンの掛け違いで人生を失敗しないようにと考えたら、メールを送る前にちょっとひと息待つことは必要だと思います。
——メールの前にひと息つくだけでも、内容が違いそうですね。
アン ミカ:「夜に考えたことは一度メモ帳に書いて」とみんなに言ってるんです。書いて一度自分の気持ちを落ち着かせるアンガーマネジメントが大人には必要です。相手の返信に文字を打ってから消すという人もいますけど、手が滑ったら送信しちゃうじゃないですか。メモ帳なら手が滑っても相手に送っちゃうことがないから。相手の返信には書いちゃダメって伝えています。
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——一度送ったら消去できないと思うと恐ろしいです。
アン ミカ:デジタルタトゥーとして一生残ってしまうので、恐ろしいですよね。コロナ禍の3年間、人と接することができず、SNSの存在が大きくなり過ぎたような気もします。もちろん、SNSがあったからみんなで手をつなげたのだし、一長一短ですけど、今は若い人だけではなく、大人の私たちも、そういう狭い世界にフォーカスしてしまっている気がして…。何かあるとみんなで揃って反対して、目立つ存在の人を傷つけて。そうやって多数の中にいると心地いいし、「いいね」がたくさんあると自己肯定感が上がって、英雄になった気持ちになるというか。
もっと身近な人の笑顔や体温、言葉の温度の心地よさに目を向けることはできるはずだと思うんです。だから「SNSは劇場やで!」という言葉を選びました。『今日もアン ミカ』には自己肯定感を高めるような言葉もたくさん入れました。SNSに頼り過ぎているときは、「あなたの一生の味方は『自分』です」「自分を大切に。自分を信じて」「『今日も綺麗!』が仕上げの魔法」などの言葉で自己肯定感を高め、ポジティブになっていただけたら。
取材・文=吉田あき 撮影=後藤利江
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