
約10年ぶりとなる新作アニメ『機動警察パトレイバー EZY』の劇場公開が話題を集めている『機動警察パトレイバー』。前作から約30年後の世界を舞台にした新たなストーリーに胸を躍らせつつ、“……ところで、かつてのキャラクターたちはどうなったんだろう?”と、ノスタルジックな思いに駆られている往年のファンも多いのではないだろうか? そんな、ぽっかりと空いてしまった心の隙間を埋めてくれるのが、小説『寿司屋の後藤』(文藝春秋)だ。
著者はこれまでのテレビアニメや劇場版作品で脚本・シリーズ構成を手がけてきた伊藤和典。旧シリーズで描かれていた特車二課第二小隊(パトロールレイバー中隊)は、1993年に公開された劇場版『機動警察パトレイバー 2 the Movie』での活躍を最後に事実上解体し、隊員たちのその後はほとんど明かされていない。すなわち、本作は伊藤氏が手がけた正統な続編ともいえ、ファン垂涎の一冊となっている。
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熱海駅から徒歩5分ほどの場所で寿司屋を営む70代の老人。その人物こそ、かつて有能さから「カミソリ後藤」と称されていた第二小隊初代隊長、後藤喜一だ。今でも昼行灯な性格はそのままに、言葉少なく常連客を相手にほそぼそと店を開けている。そこへ現れる、一人の男。元・第二小隊の篠原遊馬だ。しかし、後藤は懐かしむ表情を見せることなく、初めは「帰れ!」と一喝。そうした彼の言動を見るにつけ、数十年経っても変わらず悪評がつきまとう第二小隊の気の毒さに笑いを浮かべつつ、彼らの功績や真実が闇に葬りさられていることに、少しの寂しさを感じてしまう。
「もう来るな。他の連中にも教えるな」と遊馬に告げた後藤の願いも虚しく、次から次へと日ごとにやってくる元隊員の面々。やがて、少しずつ彼らが過ごしてきた“その後”が明らかになっていく。直情型の太田功と気の強さが前に出る香貫花・クランシーの性格はまるで変わらない。その様子にホッとし、ふと昔の丁々発止を思い出して懐かしさが甦ってくる。一方、第二小隊を陰で支えていた進士幹泰と山崎ひろみが語る、今だからこそ話せる最後の戦いの裏側で起きていたエピソードには興奮を隠せない。
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そして、ファンとしては何よりも気になるのが、やはり主人公・泉野明と遊馬の“今”だろう。「フォワード(操縦担当)とバックアップ(指揮担当)は一心同体」という仕事上のパートナーの枠を超え、強い絆で繋がっていた2人。30年前は明確な関係性が表現されていなかったが、本作ではお互いに対するそれぞれの心の内が静かに語られる場面も。
特筆すべき関係性がもうひとつ。後藤とともに特車二課で指揮を執っていた元・第一小隊隊長、南雲しのぶとの“その後”だ。『機動警察パトレイバー 2 the Movie』で描かれた通称“トーキョー・ウォー”は、東京に壊滅的なダメージを与えるほどの戦いだった。南雲は、その首謀者・拓植行人に加担していたと疑われていた。はたして、その背景で南雲と後藤に何があったのか。また、事件が終わったあとに日本を離れた南雲の想い、そして後藤が寿司屋を営んでいる本当の理由とは――。そのすべてが語られる終盤は、淡々とした文章のなかにほんのりとした優しさとほろ苦さがあり、フィルムノワール的な世界観に包まれているようだった。
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30年という月日は特車二課の面々を少し変化させた。しかしながら、本質は何も変わっていない。口を開けば、昔と同じように他愛のない話をし、ちょっとだけ愚痴をこぼしては後藤を困らせる。そのいつもの距離感が堪らなく愛おしい。また、彼らは懐かしさの感情や酒の力を借りて何もかもを吐露するような人たちでもない。最後の最後まで明かすことのない心根をそれぞれが抱えている。そこには、我々読み手に想像する余白を与え、いつまでも特車二課の“その後”を自由に楽しんでもらいたいという、伊藤氏の想いが詰まっているようにも感じられた。
文=倉田モトキ
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