
毎日ウェアラブル端末やスマートフォンをいじり、常に誰かと通信を交わしていると、自分は本当に生身の人間なのか、自信がなくなってしまうことがある。というか、生身の身体でいることそのものが、不便にさえ思えてくる。でも、もし身体に機械を埋め込むことが当たり前の世界がきたとしたら――。
第32回電撃小説大賞《奨励賞》受賞作『ストレイライト・ラン ―アンダーの天使と死に損ないの反逆者―』(尖崎枯樹:著、岩本ゼロゴ:イラスト/電撃文庫 KADOKAWA)は、身体の一部を機械に置き換えることが当たり前となった世界を描くSFボーイミーツガール。機械化が進んだ世界では、むしろ生身の価値が上がり、それを奪おうとする者たちが現れる。少年の葛藤と絶望、そして決意が読む者に迫る、緊迫感あふれるサイバーパンクだ。
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機械化された世界で、価値を持つ“生身の身体”
ページをめくってまず圧倒されるのは、作り込まれた世界観だ。
舞台は、放射性降下物によって地上が汚染された世界。政府は機能を失い、人々は巨大建造物・トップタワーで暮らしている。その頂点に君臨するのは、巨大企業「ヤクシマ」。一方、下層の産業回廊は、低所得労働者ばかりの貧民街のような場所だ。そこで生きる子どもたちは、高層階の大人たちに自らの身体を売ることで、かろうじて命をつないでいる。失った手足や臓器は機械に置き換えられ、売られた肉体は高層階の老人たちの棺桶にされるという。反吐が出るような搾取が、この世界にははびこっている。
そんな現実を生きるのが、主人公のラッキー。孤児だったが、身体の代用品「サイバーテック」を取り付ける技師の老人に拾われ、育てられた少年だ。今ではその技術で人々の身体を支えている。だが、ある時、同い年の友人が突然死んだ。本来なら金になるはずの遺体は一円にもならず、子どもたちのもとには何ひとつ返ってこない。友人を弔うこともできず、子どもたちはラッキーに遺体を取り返せないかと泣きつく。どうしてこんなにも搾取されなければならないのか。怒りに突き動かされた彼は、米軍が極秘に開発していたシステム「Providence」をインストールし、この世界へ怒りをぶつける。だが、“神の力”を得た代償は大きかった。ヤクシマの奇襲を受け、ラッキーは仲間も、育ての親も、居場所も失ってしまう。
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搾取に抗った少年が失ったもの
緊迫した展開に引きずり込まれ、ページをめくる手が止まらない。失い続ける少年の痛みが、苦しいほど伝わってくる。思うがままに生きたい。搾取に怒りを感じる。そんな当然の感情に突き動かされただけなのに、彼が動けば動くほど、大切なものは失われていく。せっかく仲間たちのために立ち上がったのに、彼らはあっけなくラッキーを見捨てる。
引用----
「あいつのせいで」「あいつのせいで」「あいつのせいで」「あいつのせいで」――。
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チャットルームに並ぶ仲間たちの言葉を目にしたラッキーの絶望は、計り知れない。まるで彼の慟哭が聞こえてくるかのようだ。理不尽にさらされる子どもたちを、より危険な目に遭わせたのも、大切な仲間が死ぬ羽目になったのも、ぜんぶ自分のせいだ――。そう深い自責の念を抱くラッキーの姿は、あまりにも悲しい。
“天使”との出会いが、少年にもう一度立ち上がる理由を与える
だからこそ、悲しみの果て、暗黒街・アンダーに逃げ込んだラッキーが、その場所で“天使”と呼ばれる少女・ヒカリと出会えたことは救いのように思える。ヒカリは人懐っこく、天真爛漫。すべての人を惹きつけるような女の子だ。ずっと奪われる場面を見せられてきたからこそ、ヒカリの明るさが沁みる。しかし、彼女にも危機が訪れる。ラッキーはヒカリを守り抜くことができるのか。覚悟を決めた彼は、少女を守るため、腐りきった世界に銃口を向ける。
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バトルシーンは圧巻。身体が機械に置き換えられる世界でも、ラッキーは人間らしさを失わない。人は誰かを守りたいと思い、そのためなら命をも懸ける。傷つきながら、それでもヒカリを守ろうとするラッキーの姿に、胸を強く揺さぶられる。
ふたりはどんな運命を迎えるのか。失ったものは戻らない。傷も、後悔も、悲しみも消えない。それでも、目の前にいる大切な人だけは二度と失うわけにはいかない。痛みと怒り、そして祈りが疾走する、熱量の高いサイバーパンク。絶望の底で燃え上がる希望の物語を、この衝撃を、あなたもぜひ体験してほしい。
文=アサトーミナミ
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