
学生の頃、恋をしていた。当時、私の思いが届くことはなかったけれど、その思い出は今も褪せずに胸の中にある。人が人を思うとき、それが恋であれ、友情であれ、そこで生まれる感情は、この世界をほんの少し優しくする。
第32回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作『雨、時々こんぺいとう』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)は、柴野日向氏が描く純愛ストーリーである。桜浜高校に通う七瀬梓と、西ノ浦高校に通う樹旭。高校生二人の出会いをきっかけに紡がれる物語は、ファンタジーの要素を含みながらも、青春ど真ん中をいく。
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二人は、梓が通う高校にほど近い図書館で出会った。当初、野良猫と会話を交わす旭の姿に、梓はたじろいで逃げ出した。だが、旭は梓を呼び止め、「自分は動物と話せる」のだと主張する。そうして、実際に野良猫のぷちの言葉を梓に通訳する中で、二人は自然と打ち解けたのだった。
旭には、ほかにも不思議な力があった。彼の行く先々では、高確率で雨が降る。雨が降る中、傘もささずにびしょ濡れで過ごす旭に梓は違和感を覚えるが、旭は自分を「世界一の雨男」と称し、さらにこう続けた。
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「俺はな、雨を操れるんや」
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旭の言葉は、ある意味では正確じゃない。彼が操れるのは「降らす」ほうのみで、「降り止ます」能力は持ち合わせていなかった。どうせならどちらもできるようになりたいと、旭はある占い師のもとで練習を続ける。その試みが彼の体に多大な負荷をかけることは、梓の目から見ても明白であった。梓は無茶をしないよう止めるが、旭は頑として譲らない。
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「少しでも、先生の役に立ちたい」
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切迫した顔でそう言う旭の背景には、悲しい怯えが含まれる。人の役に立たなければ、自分には価値がない。そう子どもが思い込む時、その責任の大半は大人にある。旭は癒えない傷を抱え、それゆえに梓に壁をつくっていた。梓はその壁を悲しく思うが、理由がわからず戸惑い、逡巡する。
高校生同士の友情、恋愛関係のもつれ、旭の不思議な能力、互いを思い合う気持ち。瑞々しい筆致で描かれる心理描写は、梓と旭の人間性を柔らかく映し出す。恋が育つ過程において、自身が抱く感情は友情なのか、恋愛なのか。判然としない期間があるのは、多くの人が経験済みだろう。一緒にいたい。語り合うだけで楽しい。でも、それをすぐさま恋愛に結びつけられたくはない。そんな梓の様子を見るにつけ、かつての己を思い出す。恋じゃない、ただの友だちだ。そう主張するたび、相手との関係が壊れる心配から解放され、代わりに胸の奥がかすかに疼いた。
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梓には、彼女の幸せを願う人々がいる。友人の結々や兄嫁の美澄は、揺れ動く梓の感情に根気強く寄り添う。旭に関する“噂話”が出回る場面においても、梓の気持ちはブレない。
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「雨はええよな。全部隠してくれる」
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「隠したい」ことがある旭と、旭のことを知りたい梓。もどかしい二人の距離は、不思議な雨に背中を押されつつ、除々に縮まっていく。高校生の純愛ストーリーの中に仕掛けられたミステリアスな要素もまた、本書の魅力の一つだ。
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大切に思う誰かがいる。会いたい人がいる。それは、この上なく幸せなことだ。降り注ぐ感情の雨は、甘かったりしょっぱかったりと忙しい。実らぬ恋もあれば、時を経て叶う恋もある。こんぺいとうのように色とりどりの恋が描かれる本書を読み終えたのち、布団でいびきをかく夫の寝顔を眺めた。意気地なしだった私の恋は、およそ30年越しに叶った。優しい雨音が聞こえてきそうな物語のその先で、迷い戸惑う誰かが、梓のように真っ直ぐな勇気を出せたらいい。
文=碧月はる
『雨、時々こんぺいとう』特設サイト
https://product.kadokawa.co.jp/special/mwbunko/amekon/
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