
『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)は、「夜逃げ屋」という特殊な仕事を通して、家庭や人間関係の裏側に潜む問題をテーマにした人気シリーズだ。著者の宮野シンイチ氏の体験取材をもとに描いた本作は、SNSで大きな反響を呼んでいる。
夜逃げ屋とは、DVをする配偶者やパートナー、支配的な毒親、ストーカーなどから逃げたい人の「引っ越し」をサポートする業者である。「夜逃げ」といえば、借金を逃れるためだったり、家賃が払えなくなったりという、身勝手な逃避行動をイメージするかもしれない。しかし本シリーズでは、依頼者は理不尽な仕打ちを受けている人物ばかりである。依頼者たちが最後の駆け込み寺としてこの夜逃げ屋を利用し、人生をやり直す姿を描き出す。
続きを読む
そして、第6巻でもさまざまな依頼者が夜逃げ屋を訪れる。モラハラ彼氏と実母の両方から逃れたい女性からの「二重夜逃げ」の依頼や、元プロボクサーの夫からDVを受け続ける女性の依頼、さらにはいじめ加害者家族からの依頼など、さまざまなケースが描かれる。問題の渦中にいる人々が葛藤を抱えながら、もう逃げるしかない状況へ追い込まれていく姿は非常に生々しい。
さらに、新たな登場人物として、女性社員・ビッキーさんが登場。ある夜逃げ屋社員との意外な関係が明かされるほか、社長が過去に担当した依頼についてのエピソードも追加収録されている。夜逃げ屋という仕事が単なる引っ越し業ではなく、依頼人の人生の再出発を支える仕事であることがあらためて伝わってくるだろう。
続きを読む
全編を通して印象的なのは、本作に登場する人々の多くが「逃げること」に強い罪悪感を抱いていることである。しかし、ときには逃げることが生き延びるための唯一の選択肢になる場合もある。本作は、逃げることを弱さではなく、生きるための決断として描いている。一見すると平穏な家庭で、当事者たちがどれほど追い詰められていたのか。社会の片隅で起きている過酷な現実に光を当て、救済への道を照らす「救いの視点」があるからこそ、本作は多くの読み手の心を揺さぶるのだろう。
文=宇田 勉
記事一覧に戻る