
『ママ5年目でがんなんて 手に入れた卵子と失った味覚』(松本ぽんかん:著、済生会横浜市東部病院 橋本陽介:監修/竹書房)は、34歳でがんを宣告された著者・松本ぽんかん氏が自身の闘病生活を描いたコミックエッセイである。がんとの闘いだけでなく、治療によって失われるもの、そしてその後の人生が綴られた作品だ。
夫と娘の3人で暮らしていた松本氏は、ある日、のどの違和感をきっかけに病院を受診する。その正体は思いもよらない「がん」だった。突然の宣告に戸惑うなか、さらに大きな問題として立ちはだかったのが抗がん剤による卵子への影響だった。将来の妊娠の可能性を残すため、著者は卵子凍結という決断を下し、治療へと臨んでいく。
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がんは治療の間だけでなく、治療後にも大きな影響を及ぼす可能性がある。それが若い世代となると、妊娠や出産といった将来の選択肢についても考えなければならない。卵子凍結をめぐる悩みや葛藤は、多くの読み手にとって未知の現実であり、参考になるはずだ。
そして本作のもうひとつの大きなテーマが味覚障害である。苦しい治療を乗り越えればすべてが元に戻ると思っていた著者だったが、待っていたのは「おいしい」という感覚を失う苦しみだった。食べることは日々の楽しみのひとつであり、それを失うことはQOL(生活の質)を大きく下げ、想像以上に心を蝕む。タイトルにある「失った味覚」は、単なる後遺症ということだけではなく、治療後も続く苦悩の象徴としても描かれている。
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しかし、本作は決して悲壮感に支配された闘病記ではない。どうしても深刻になるテーマでありながら、家族とのやり取りや治療中の出来事がユーモアを交えて描かれているため、著者の不安や苦しみに寄り添いつつ、落ち込みすぎることなく最後まで読み進められるだろう。
ふたりにひとりががんになると言われる時代だからこそ、本作は決して他人事ではない。治療が終わったあとに続く現実をまっすぐに伝えながら、前を向いて生きていく強さを伝える本作は、闘病記としてはもちろん、同じ困難と向き合っている人とそれを支えるすべての人に手に取ってほしい作品である。
文=七井レコア
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