
極道の世界で恐れられている男が小さな女の子の世話係になる。そのギャップが魅力の物語は、巻を重ねるごとに、笑いと温かさ、そして少しの痛みを含んだヒューマンドラマを描いてきた。『組長娘と世話係』(つきや/マイクロマガジン社)は、桜樹組の若頭・霧島透と、組長のひとり娘・八重花との日々を描く、累計発行部数170万部を突破した人気の任侠コメディだ。
霧島はかつて、やりたい放題で「桜樹組の悪魔」と呼ばれていた男だった。そんな彼にもっと責任感を持たせたいと考えた組長は、霧島をひとり娘・八重花の世話係に任命する。小学生の女の子の登校に付き添ったり、両親の代わりに授業参観に出席したりと彼女の生活を見守る日々を送る。最初は戸惑っていた霧島も、八重花と過ごすうちに少しずつ心を通わせるようになっていく。
続きを読む
2026年7月10日に発売された第16巻では、飼い猫・おはぎのダイエットに挑戦したり、霧島のいる桜樹組の上位組織である鷹松組の大親分の姐さんが突然現れたり、雅也が古い知り合いに襲われたりと、桜樹組のまわりは相変わらず騒々しい。
印象的なのは、太ってしまったおはぎをめぐるエピソードだ。ダイエットが思うように進まず、猫の世話の難しさに直面した八重花は「おはぎのお母さんになったのが私じゃなかったらもっと上手にお世話できたのかな」とこぼす。その言葉には、幼いなりの責任感と、自分を責めてしまう優しさが浮かぶ。そんな八重花に、霧島がどんな言葉を返すのか。この場面に、本作がただのコメディではない理由が詰まっている。
続きを読む
任侠ものらしい激しい場面と、思わず頬がゆるんでしまう日常の笑い。そんななかに八重花や霧島たちの微妙な心の揺れが丁寧に描かれているのが本作の大きな魅力だ。霧島と八重花が積み重ねてきた時間を最初から見てきた人ほど、おはぎをめぐる小さなエピソードには特に心をつかまれることだろう。
文=ゆくり
記事一覧に戻る