
「赤ちゃんに無事に生まれてきてほしい」親なら誰もが願う当たり前の幸せが、これほどまでに遠く苦しいものになるなんて。『わたしが選んだ死産の話』(桜井きぬ:著、医療法人財団順和会 山王病院 病院長・藤井知行:監修/KADOKAWA)は、著者である桜木きぬさんの死産の体験を克明に描いた実録コミックだ。
待望の第二子を授かった著者を待ち受けていたのは、おなかの赤ちゃんの染色体異常「18トリソミー」の宣告だった。18トリソミーの胎児は治療が困難な重い心疾患により、自然流産となることが多い。また、たとえ生まれても生後1週間以内に約60%が死亡し、生後1年まで生存する子どもは10%未満、とも言われている。赤ちゃんを無事に産みたい願いと、過酷な未来への不安。引き裂かれるような思いの中で、著者が選んだのは「死産」という決断だった。
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本作に基づき、過酷な現実に直面した当事者の心情や周囲とのかかわりについて、臨床心理士・白目みさえさんに話を聞いた。
※本記事には流産・死産に関する内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
――『わたしが選んだ死産の話』を例に、死産を選んだ当事者の心の動きや周囲とのかかわりについて、臨床心理士・公認心理師である白目みさえさんにお話を伺っていきます。まずは心理士のお仕事とはどういうものか、教えてください。
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白目みさえさん(以下、白目):私は現在、臨床心理士・公認心理師として「患者様がこれからの人生をより過ごしやすくするために」心理検査とカウンセリングを行っています。今の問題は何か、なぜそれが起きているのか、その問題は自分の内側にあるのか外側にあるのか、どうすればそこから抜け出せるのか、そのようなことを一緒に考えています。
私がなかでも大切にしているのは、「話したあとに日常へ戻っていく」という前提でお会いすることです。患者様が「これからの人生を過ごしていくための、自分の心との付き合い方」を考えるお手伝いをするのが心理士の仕事だ、と考えています。
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――本作『わたしが選んだ死産の話』をお読みになり、心理士として、またひとりの読者として、物語のどのような点に注目されましたか。
白目:まず同じ母親として、「私ならどうするだろう」と考えました。18トリソミーという染色体異常。この事実を前にして、私は本当に「絶対に産む」と言い切れるだろうか、と。そこで、心理士としてさまざまな境遇の方にお会いしてきた経験を思い返しました。
「どんな人にも、生まれて幸せになる権利がある。その権利を奪ってはいけない」
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それは頭ではわかっています。けれど、では私は、染色体異常がある子を「幸せにできる」と言い切れるだろうか? そもそも、言い切ること自体がどこか傲慢なのではないか? これまで出会ってきたさまざまな立場の方たちの現実を思い出し、私は同じように向き合えるだろうか。そんな問いが、ぐるぐると巡りました。
現実を知っているからこそ、自分の未熟さもわかります。だからこそ、「絶対に産みます」とすぐには言えない気がしました。死産という決断が、考えて、考えて、考え抜いた末のことであるならば、それはとても責任ある選択だったのではないか。この作品を読んで率直にそう感じました。
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――著者は、赤ちゃんが18トリソミーだったことに対して「どうして私が?」と、やりようのない怒りと悲しみを抱えていました。誰のせいにもできない悲しい出来事に、どう向き合っていくとよいのでしょうか。
白目:誰のせいにもできないような苦しい出来事に直面したとき、「なぜ自分が」と怒りが湧くのは、とても自然な反応です。大きな喪失を経験したとき、人の心は否認や怒り、深い悲しみなど、さまざまな感情のあいだを揺れ動くと言われています。決められた順番通りに進むわけでも、一直線に落ち着いていくわけでもありません。
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そういうものなので、無理に急いで納得しようとしなくてかまいません。怒りは、どうにもならない現実の中で、心がなんとか踏みとどまろうとする反応でもあります。意味を見つけたり、忘れてしまったりすることがゴールではありません。
時間が経つと、怒りや悲しみなどの感情が消えるというよりも、その形が少しずつ変わっていくことがあります。毎日むき出しだった怒りが、静かな痛みに変わったり、いつでも昨日のように思い出せるかもしれないけれど、その頻度が減ったりしていく。その変化の過程そのものが、向き合うということなのだと思います。
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取材・文=あまみん

白目みさえ(しろめ・みさえ)
臨床心理士、公認心理師、漫画家。精神科での臨床業務に従事しながら、自身の育児や仕事の体験を独自の視点で切り取った漫画を執筆。主な著書は『白目むきながら心理カウンセラーやってます』(竹書房)、『子育てしたら白目になりました』『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』(KADOKAWA)など。
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