
原作小説のストーリーが「劇中劇」として展開する『Wの悲劇』
5月1日より開催中の「角川映画祭」。角川映画の歴史は1976年(昭和51年)の『犬神家の一族』からスタートしており、今回の映画祭では50年に及ぶ歩みの中から選出された珠玉の40作品が上映される。
ここでは、1984年公開の『Wの悲劇』を推したい。後に数回ドラマ化もされた夏樹静子の同名ミステリー小説を原作としており、その小説のストーリーが「劇中劇」として展開するという、大胆な試みがされている。そして、当時にアイドル的な人気を博していた主演の薬師丸ひろ子の「危うさ込み」の魅力が発揮された作品だったのだ。「女、使いませんでした?」など、令和の今では考えられない衝撃セリフも多く登場する本作が、今なお愛される4つのポイントをご紹介する。
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※以下、『Wの悲劇』の内容に触れています。
1:性的な関係をいとわないのが危うい
あらすじから紹介しよう。劇団の研究生である主人公・三田静香(薬師丸ひろ子)は次回公演『Wの悲劇』のオーディションに落ち、セリフが一言だけの端役兼プロンプターを担当することになる。落ち込んでいる静香は不動産屋の青年の森口昭夫(世良公則)とつかず離れずの関係になるが、ある日とんでもないトラブルに巻き込まれ、劇団の看板女優である羽鳥翔(三田佳子)から「スキャンダルの身代わり」を頼まれてしまう。
何しろ主人公の静香は危ない橋を渡り続けている。映画の冒頭から20歳になったばかりで先輩の俳優と一夜を共にしているし、彼女に一目惚れをした無邪気な性格の昭夫とも男女の関係になる。直接的な性描写は避けられているものの、女優としての成功を望むあまり、性的な関係を持つことをいとわない、ヤケになっているようにさえ見える彼女の姿は、痛々しくも危うく、心配になり、目が離せなくなるのだ。
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2:『推しの子』を連想する展開も。スキャンダルを逆手に取るのが危うい

静香の危うい行動はもちろん正しくないものだと意図的に描かれており、彼女を追い詰める周りの人間や環境もまた問題なのだと伝わるようにもなっている。だからこそ、純粋で素直な青年の昭夫は本当に良い人に思えてくるし、2人の幸せを祈りたくもなるだろう。
しかし、静香の危うさが極みに達してしまうのが、スキャンダルの身代わりを引き受け、さらにはそのスキャンダルを逆手に取って、公演の主演女優の座を奪おうとすることだ。その際に静香が女優としての「演技力」をもって周りを「騙す」ことが皮肉であるし、さらなる悲劇につながってしまう。
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また、芸能界の闇や愛憎入り混じる心境の描き方、さらにはスキャンダルに屈するどころか利用するような展開は、今では『推しの子』を連想する人も多いのではないか。存分に昭和の価値観が絡められてはいるが、イヤな空気や劇中劇も含めてエンタメになっている、という作品の魅力は、今の世代にもきっと通ずるだろう。
3:昭和らしい男女の価値観が危うい
さらに、劇中の種々のシーンで「昭和らしい男女の価値観」が見られるのもまた危うい。「女」「男」と分けて持論が語られ、さらに「女、使いませんでした?」という物言いをする場面が登場する。令和に観ると、より居心地が悪く思えるのではないか。
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もちろん、それらもまた意図的なものであり、静香の「呼び捨てにしないでよ、あなたの女でも何でもないんだから」というセリフは、当時の女性を所有物のように捉えることへの反骨精神にも思える。何より、物語上で「男は(女は)こうだから」といった思い込みや極端な考えもまた、悲劇につながるのだと示されているのだから。
4:薬師丸ひろ子が役にシンクロして見えるのが危うい
演じている薬師丸ひろ子が劇中の静香と同じく当時20歳であり、本作でアイドルから俳優へと大きく躍進した事実を顧みると、劇中の静香という役が薬師丸ひろ子本人とよりシンクロしているように思える、フィクションと現実の境界が曖昧になるような、クラクラしてしまう感覚があった。その事実を知らなくても、「薬師丸ひろ子の女優としての挑戦が劇中の役に重なる」ことは、本作を間違いなく特別なものにしている。
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そのフィクションと現実がもっとも交錯するのはラストシーンだろう。静香がどのようなことに気づき、どう生きていくと宣言するのか。最後に昭夫が何を彼女に聞き、どのように見送るのか。エンドロールでずっと映される「顔」も含めて、これは「薬師丸ひろ子という女優の映画」だと心から思えたのだ。
あえて難点をあげるのであれば、大きな物語の転換点に至るまでが、やや長く感じてしまうことだろうか。しかし、劇団の研究生の生活をリアルに描くため、また後半での「落差」を描くためには必要な描写だと思えた。
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フィルムで撮影された暗めの画調や、流麗で時に衝撃的な久石譲の音楽は映画館でこそ、より鮮烈な体験につながるはずだ。『Wの悲劇』を、ぜひ鑑賞の候補に入れておいてほしい。
文=ヒナタカ
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