
サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第38回はやまぎわ回。
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第38回(やまぎわ) 「芸人の経年劣化:僕がシャバくなるとしたらそれは誰のせい?」
こんばんは。無尽蔵のやまぎわです。
今日は、これから売れようとせんとする芸人が、否が応でも向き合わなければならない「シャバい」という言葉について考えてみたいと思います。
近年、もはや「面白い」の対義語かと見紛うほど、「シャバい」という言葉は一般に浸透しました。それは世に言う「つまらない」とは、意味合いが少し異なりそうです。
むしろ一般的に売れていて、世に面白いとされている芸人ほど、「シャバい」と言われることが多いように思います。「面白い」と「シャバい」は共存する可能性がどうやらあるようです。そういう意味でも「つまらない」とは別軸の言葉なのでしょうか。
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「シャバい」の辞書的な意味で言うと、「弱い」「頼りない」「期待外れ」といった意味が該当するようですが、頼りない芸人を「シャバい」と言ってるケースは見かけません。
一番真っ先に思いつくケースで言うと、「安易な笑い/展開に逃げた」という行為を指して使われるケースです。「お客さんに媚びている」とも言えるかもしれませんね。
例えば、少し顔のいい芸人が、中MCなどの時間に振られた際、ただカッコいいことを言うみたいなことは、「シャバい」に該当すると言って良いでしょう。「なに笑いをとりにいかず、置きにいってファンを喜ばせとんねん」「ホンマにおもろいことせえや」という批判の意を込めて、人はそれを「シャバい」と呼びます。
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努力をしていないように見える、誰にでも言えてしまう、お客さんに媚びている、そのような行為を人は「シャバい」と呼び忌避します。
これはむしろ芸人の「自己批判」のようです。芸人としてのプライドを持て、表現者として前例のないお笑いを作れ。易きに流れず、芸人のあるべき姿像を追い求めろという戒めとして「シャバい」という言葉が芸人界に広まっていったのではないでしょうか。
しかし、「シャバい」という言葉には危険性もあると思います。
例えば、「オズワルド曲線」という言葉があります。これはママタルトの大鶴肥満さんがある動画で話した言葉で、M-1で一時は優勝候補と目され、2019-22年の4年連続決勝に進出したものの、その後戦績が伸び悩んでしまったことを指します。
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お笑いファンは売れ切った芸人にどこかシャバさを覚えてしまうようです。かく言う僕もその一人でした。多くに気づかれていない鈍くも確かな輝きを愛していたが、それが多くの人間に受け入れられだしたらその鈍い輝きも失われてしまったように、僕も感じてしまいます。
ただ、例えばオズワルドさんなどのような芸人さんが、急激につまらなくなることがあり得るのでしょうか。単純に売れてたくさんの人の目に触れチヤホヤされているのを見るだけで、「シャバい」ように見えてしまうという側面もあるのではないでしょうか。
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売れてみんなから面白いと思われたいと思って活動した芸人が、日に日にシャバいと思われていくのであれば、そんなに切ないことはありません。
確かに多くの人に受け入れてもらうためには、売れる前に地下で放っていたような前衛的なボケはじきになりを潜めてしまうでしょう。それをディープなお笑いファンはシャバいと断罪するのかもしれません。自分でもたまに「このボケ煮詰めきれてないなーシャバくなっちゃってるかもなー」と思うときがあります。
でも今になって思うのは、自分が面白いと思ってることとそれを伝える技術とは全く別軸だということです。最若手の頃は「ウケなくても自分の面白を曲げる訳にはいかない、シャバいことしてたまるか」と思っていましたが、自分の面白を変えずに、自分の面白を伝える技術を伸ばすことは無限にできるのだということに気づきました。それはシャバいとは違うはずです。
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面白いとシャバいが両立するように、面白いとシャバくないもまた容易に両立します。自分のセンスを信じ、それを損なわず伝えきるスキルを磨き続ければ、きっとシャバくないお笑いが作れるはずです。
その結果売れてシャバいと言われ始めたとしたら、それは一つの芸人として時代を作れたのだと、むしろ誇りに思ってもいいのかもしれないですね。
ここからは個人的な感情ですが、僕は時代を作るくらい大きくなって謂れのないシャバいの指摘を浴びたいとは思いません。僕らを面白いと思ってくれてるポテンシャルのある方、笑ってくれるはずの方々に面白さがちゃんと届いていると実感できていれば、十分幸せです。
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■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。
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