
このたび、東京書店より刊行の『読めば色の不思議がわかる! 赤白帽のなぞ』をご執筆された七江亜紀さんに、インタビューをさせていただきました。初めての児童書への挑戦についてや、「色」に関わってこられたこれまでやこれからのことなど、たっぷりとお伺いしました!
色の感覚は日常の中で自然に気づき、培われていくもの
――七江さんご自身が色に興味を持ったきっかけを教えてください。
七江亜紀さん(以下、七江亜紀):2歳からピアノを始め、小学生の頃は音楽が中心の毎日でした。その頃から、音にはそれぞれ“音色”があるように、車の音や風の音にも色のようなものがあると、自然に感じていました。絶対音感があったことも影響していると思います。
続きを読む
また、学校から自宅が近く、みんなとは校門で別れて一人で帰ることが多くて、正直、少しさみしい気持ちもありました。でも、その短い帰り道で、鮮やかな黄色のたんぽぽがふと目に入り、それ以来「今日はどんな色に出会えるかな」と探すことがいつの間にか習慣になっていきました。今思えば、あの時間があったからこそ、色に目を向ける感覚が育ったのだと思います。
――児童書に挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。
七江亜紀:これまで長く大人の方々に向けて、色の提案やコンサルティングをしてきましたが、「もっと早い段階で、色を見る力や感じる力に触れていたら、選び方や考え方は変わるのではないか」と感じることが増えていきました。
続きを読む
色は、センスや知識として後から身につけるものというよりも、日常の中で自然に気づいていくものだと思っています。色は、大人になってから整えることもできますが、幼い頃に培った感覚のほうが、ずっと自然で、揺らぎにくいと感じています。だからこそ、早い段階から「なんとなく好き」で終わらせず、少しだけ立ち止まって色を見てみる、そんなきっかけを届けたいと思い、今回の本に挑戦しました。


初めての児童書出版「一番悩んだのは子どもの目線にきちんと立つこと」
――小学生がメイン読者ということで、特に意識したことはありますか?
七江亜紀:子どもが読む本だからといって、ただやさしくするのではなく、身近な題材の中から「なぜだろう」と思える入口をつくることを意識しました。半径5メートルの中にあるもの。そんな感覚でテーマを選んでいます。実際にはもう少し遠いものもありますが、できるだけ日常の延長で考えられるようにしました。
続きを読む
色は本来、とても奥深いものですが、説明が難しくなりすぎると、途端に遠いものになってしまいます。だからこそ、赤白帽や身のまわりにあるものなど、子どもたちにとって想像しやすい題材を選びました。また、「これが正解」と教えるのではなく、自分で見て、感じて、考える余白を残すことも大切にしました。読んで終わりではなく、毎日の景色が少し変わって見えるような本にしたいと思いました。
――この本を書く上で、いちばん悩んだことや大変だったことを教えてください。
七江亜紀:いちばん悩んだのは、子どもの目線にきちんと立つことでした。私自身、日常的に子どもと接する環境にあるわけではないので、友人や知り合いのお子さんと過ごす時間をつくったり、実家の近くの小学校のまわりを歩いたりして、下校の様子を見たりしながら、今の子どもたちの感覚に触れるようにしていました。
続きを読む
また、これまで大人向けの本を書いてきたこともあり、どうしても説明が大人目線になってしまうことが多く、そのたびに編集者さんから「それでは子どもには伝わりません」とご指摘をいただき、何度も書き直しました。そのやり取りを重ねる中で、言葉を削ぎながら、本当に伝えたいことだけが残っていったように思います。


いくつかの色が組み合わさることで「楽しい」や「ワクワク」が生まれる
――もし、子どもの頃の自分にこの本を渡せるとしたら、どんな言葉をかけますか?
七江亜紀:「学校から一人で帰るあの時間、無駄じゃなかったよ」と伝えたいです。みんなと帰りたいなと思いながら歩いていた道で見つけていた色や、感じていたことは、ちゃんと今につながっています。だから、「気になった色をそのまま大切にしてほしい。それが、これからの自分をつくっていくと思うよ」と伝えたいです。
続きを読む
そして、この本を読んでワクワクしてほしいし、あの頃、うまく言葉にできなかったことを、「ほら、色ってすごいよ」と誰かに見せてあげてほしいなと思います。
――七江さんのお気に入りのページを教えてください。
七江亜紀:ひとつは、ランドセルのページです(p40-41)。私が子どもの頃は、赤か黒が当たり前で、選ぶという感覚はほとんどありませんでした。一人だけ違う色の子がいて、今でもとても印象に残っています。
今はたくさんの色の中から選べるようになっていて、「どの色にするか」を考える時間そのものが、とても豊かだなと感じています。一方で、その色が本当に子ども自身の選択なのか、大人の意見が強く影響しているのか、少し気になる場面もあります。
続きを読む
自分で選ぶという経験は、とても大切なものだと思っています。大人になると、色を選びたくても選べない場面が増えていくこともあるからこそ、こうした機会は、その子自身に委ねてあげてほしいと感じています。
そしてもうひとつは、お子様ランチのページです(p22-23)。お子様ランチがなぜ魅力的に見えるのかを、色の視点でひもといているところが気に入っています。ひとつひとつの色は特別ではなくても、いくつかが組み合わさることで、楽しい印象やワクワクする気持ちが生まれる。色は、単体で決まるものではなく、関係の中で変わっていく。その面白さが、自然に伝わるページだと思っています。

――佐々木一澄さんのイラストの感想を教えてください。
続きを読む
七江亜紀:今回、何名かの方のイラストを見せていただいた中で、最初に手が止まったのが佐々木さんのイラストでした。「これはもう、最高だな」と、ほとんど即決でした。子どもはきっと一瞬で惹きつけられる。そんな直感があり、ぜひお願いしたいと感じました。
一方で、よく見ると少しシュールで、どこか余白を感じさせる表現があって、大人の目にもきちんと残る。そのバランスが、とても魅力的だと思いました。色もはっきりとしていて迷いがなく、人物の表情や佇まいも、自然で愛らしい。気づけば、一目で心を持っていかれていました。
言葉にするのが難しいのですが、あえて言うなら「200点満点」です。ご一緒できて、とてもうれしく思います。
続きを読む
子どもたちには自由に色を感じて、選んでほしい。大人は温かく見守って
――これから大人になる子どもたちに、色とどう向き合ってほしいですか?
七江亜紀:色に正解はない、ということを大切にしてほしいと思っています。まわりに合わせることも大事ですが、自分が「いいな」と感じた色を、そのまま受け取ることも同じくらい大切です。色は、自分の気分や状態を教えてくれるものでもあり、ときには背中を押してくれる存在にもなります。
これから先、色を自由に選べる場面もあれば、選べない場面も増えていくと思いますが、そんな中でも、自分なりに色を感じたり、小さく選んだりすることをやめないでいてほしい。色を通して、自分自身を少しずつ知っていく。そんな関係を、長く持ってもらえたらうれしいです。
続きを読む
――読者の方々へメッセージをお願いします。
七江亜紀:ここまで読んでくださり、ありがとうございます。色は特別なものではなく、毎日の中にあるものです。だからこそ、少しだけ立ち止まって見てみると、これまで気づかなかった面白さや発見が見えてくることがあります。
子どもたちには、自由に色を感じて、選んでほしい。そして大人の方は、その感覚をそっと見守っていただけたらうれしいです。この本が、日常の中の色に目を向けるきっかけとなり、それぞれの中にある「色を見る力」を育てる一冊になればと思っています。

本記事は「絵本ナビ」から転載しております
記事一覧に戻る