
『狐面夫婦』(岩飛猫/双葉社)は、明治時代を舞台に、人間の男と女妖狐との「だまし愛」の夫婦生活を描いた異類婚姻譚である。アニメ化もされ注目を集めた『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』(双葉社)の岩飛猫氏らしく、本作でも「異なる種族同士が寄り添うこと」の切なさと愛おしさが美しく繊細に描かれている。とりわけ最終巻となる4巻では、夫婦として積み重ねてきた時間が、より深く、より危うい形で描かれていく。
舞台は、現世と隠世が交わる不穏な世界。そこに暮らすのは、女妖狐・狐栢と、かつて罪人だった人間の男・六捨。狐栢は六捨を処刑される寸前から救い出し、「六捨を守ること」を条件に婿になるよう提案する。もちろんその関係は純粋な愛では結ばれておらず、互いに打算があり、秘密があり、ときには利用し合うものだった。だが一緒に暮らし、危険を乗り越えるうちに、少しずつ「本物の情」が生まれていくのである。
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本作の魅力は「死の気配」と「生への渇望」が常に背中合わせで絶妙なバランスで描かれていることだ。人喰い雀といった怪異が現れるなど世界には常に死の匂いが漂っている一方、夫婦として過ごす日常は驚くほど穏やかで、ときにコミカルですらある。「昼はキケン、夜は甘い」というキャッチコピーどおりの空気が絶妙だ。
そして4巻ではその度合いがさらに増している。狐栢は六捨に対して確実に執着と愛情を深めている。一方の六捨も、飄々と振る舞ってはいるが、狐栢のためなら命すら投げ出しかねない思いがある。互いを欺き合っていたふたりの間に本当の「愛」が生まれつつあったが、ある出来事によって六捨が絶体絶命の危機を迎える。そして生き別れとなった弟・七拾も登場し、ふたりを取り巻く状況が複雑となっていく。はたして六捨と狐栢はどんな結末を迎えるのか、ぜひその目で確かめてほしい。
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妖狐であっても、人間であっても、誰かを失いたくない気持ちは変わらない。孤独や不安、執着、そして愛情といったものが繊細に描かれており、その普遍的な感情がこの物語に唯一無二の存在感を引き出すのである。
文=富野安彦
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